
大型化学高所放水車
いわき市消防本部
いわき市消防本部 小名浜消防署[福島県]
写真・文◎橋本政靖
日本の消防車2020掲載記事
「大型化学高所放水車」は全自動化が進んでいる
三点セットから二点セットへ
福島県いわき市は東北の沿岸部南東端に位置し、面積1232平方キロメートル、人口約35万人、かつては常磐炭鉱で栄え、現在は東北トップの工業出荷額を誇り、石油コンビナート等特別防災区域を有する石油化学工業のほか、常磐湯本温泉やスパリゾートハワイアンズなどのリゾート施設も立地する東北有数の都市となっている。
いわき市消防本部は1本部4課5署1分署7分遣所、車両82台、361名の体制でこのいわき市の住民の安全を守っている。このうち小名浜消防署は旧磐城市を中心に約88平方キロメートル、約3万4000世帯、人口約8万3000人を管轄し、消防ポンプ自動車、水槽付消防ポンプ自動車、救急車など14台51名で管内の安全を担っている。(取材当時)
いわき地区石油コンビナート等特別防災区域は昭和51年に指定され、市内の小名浜区域、泉町区域、佐糠町区域および錦町区域の4カ所に第1種7事業所(うちレイアウト規制1事業所)、第2種10事業所を有している。この区域では石油化学コンビナートや油槽所などが立地しており、指定数量の670万倍の石油類のほか、高圧ガスも取り扱っている。これらの石油コンビナート災害に対応するためにいわき市消防本部では大型化学高所放水車1台、泡原液搬送車2台、化Ⅱ型化学ポンプ自動車2台、粉末化学車1台等を配備している。このほか特別防災区域内事業所等では自衛消防隊として二点セットが3セット配備されている。
これまでいわき市消防本部では三点セットとして27mΣ型屈折はしご付消防ポンプ自動車(大型高所放水車仕様)、大化I型大型化学消防ポンプ自動車、泡原液搬送車を配備していたが、平成10年、石油コンビナート等災害防止法施行令の一部が改正され、大型化学消防車と大型高所放水車を一体にした省力型の車両が認められるようになった。このため、大型高所放水車の更新に合わせて大型化学高所放水車を導入することにした。
この大型化学高所放水車は大型高所放水車と大化I型大型化学消防ポンプ自動車の両方の機能を併せ持っており、大容量水ポンプ、泡原液槽、泡原液混合装置、高所放水用ブーム、リモコン式放水銃などからなっている。
自動化されたポンプシステム
まず、ベースとなるシャーシは8t級シングルキャブシャーシを使用しており、全長8775mm、最小回転半径7.5mと大幅な小型化を実現している。
次にポンプ装置はA-1級のJ-2型3段タービンポンプを搭載している。このポンプ部には口径75mmの中継口を左右に有しており、消防ポンプ自動車から中継を受け泡原液と混合される。
泡混合装置は水流駆動式のファイヤー・ドスシステムを搭載し、3%混合では毎分500〜400L、6%混合では毎分500〜3100Lの混合能力を有している。また軽量かつ耐食性に優れたPP(ポリプロピレン)製泡原液槽に1800Lを積載しており、3%混合で約20分間の泡放射が可能となっている。
泡混合およびポンプ操作などはすべて省力化自動制御液晶タッチパネルでワンボタンで行うフルオートシステムとなっている。そのため、災害現場に到着して水利側を接続後、制御盤の液晶ボタンで「自動」をタッチして放水量を設定するだけで、後は混合比やスロットル、各種バルブなどはすべて自動で調整され、泡放射が可能となる。
泡放射中は液晶パネルで受・送水状態、泡混合、流量、泡原液槽残量などを一括管理可能である。また、泡放射後に必須な配管洗浄やドレン開放は煩雑なバルブ操作が必要であるが、これらも自動的にバルブ操作される。
フロント
リア
右側面
左側面
泡原液搬送車と自動連携システム
泡原液の補給用として、小名浜消防署および勿来消防署に8500L泡原液搬送車を保有しており、泡原液備蓄場所からピストン輸送する体制を採っている。補給は泡原液搬送車から大型化学高所放水車の泡原液補給口に配管を接続し、さらに専用ケーブルにて両車両を接続するとシステム連携状態となる。これにより自動送液機能が働き、大型化学高所放水車の泡原液量を監視し、残量が4分の1以下になると泡原液搬送車の吐出バルブが自動的に開き、満量になるまで送液を行う。
高所放水のためのブーム
リモート操作も可能
ブームは直進式4段伸縮で起伏はマイナス10度から75度までであり、最大地上高は22m、作業半径13mとなっている。また、許容風速は一般のはしご付消防自動車の毎秒10mを大きく上回る毎秒16mであり、石油コンビナートが立地する海沿いの強風下においても伸梯が可能である。
このブーム操作は自動化システムも搭載されており、現場到着後にアウトリガ設定、起梯およびブーム伸長までを自動的に行える。ブーム操作と並行して、水が水利からポンプへ大量送水されるので、ポンプ部で増圧された泡混合液はポンプ部から専用配管により旋回部継手、伸縮水管を通してブーム先端の放水銃まで送られる。
ブーム先端のリモコン式放水銃は、泡放射で毎分3000L、水放射で毎分3800Lの能力を有しており、石油タンク等の火点に向けて大量の泡や水放射を行うことが可能である。本システムには有線式リモコン装置が備わっており、車両部署後はブーム調整、放水銃調整、放水量調整などの一連の操作を、現場から離れた安全な位置から行うことが可能となっている。
迅速かつ様々な災害に対応
1台にまとめられたこれらの自動化システムにより、災害現場の最適位置に部署した後、水利に接続するとともに、ブームの自動伸張および泡混合システムを起動すれば、あとはブーム方向および放水銃の泡放射方向を設定することで迅速な大量泡放射が可能となっている。
また、本車両は石油コンビナート災害によらず様々な災害にも使用可能である。例えば一般建物、工場、産業廃棄物火災などの大規模な火災において水や泡混合液を高所から放水すること、高所放水はせずに水と泡原液を混合して吐水口から送液する、化学消防ポンプ自動車的な使用法も可能である。このように2台の機能を1台に集約しているため、様々な災害に対応できる車両となっている。
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