本当に最善の方法なのか? 検証で「旧態依然」を変えていく

山口 誠 Yamaguchi Makoto

Yamaguchi Makoto 千葉市消防局 緑消防署消防第一課長 消防司令長

Interview

本当に最善の方法なのか? 検証で「旧態依然」を変えていく

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長年の経験を活かし、消防と医療機関の架け橋に

災害の多い日本において、災害時には消防組織の緊急消防援助隊、自衛隊、医療機関、警察や民間との密な連携が必要だ。これらの組織力を最大限に発揮し、ひとりでも多くの命を救うという目的のために連携強化が求められる。山口は東日本大震災での活動の際に、顔なじみのドクターたちからよく声をかけられた。

「消防の組織を知らないドクターたちは、災害現場でどこに話をしたらオーダーが通るのかわからない。消防は組織で動いているため、その場にいる隊員に声をかけて『こういう患者を何人、明日どこどこまで搬送してほしい』といっても無理な話。お互いのコミュニケーションを上手く図るためにも、ドクターや救急医療に馴染みのある自分のような者が架け橋になれるのではないか」

救急救命士として現場で活動後、指揮支援隊長や県の指揮隊長を務める立場になったり、消防大学校の指揮隊長コースで教育を受ける人材は少ないが、山口はそれにあたる。救急救命士として救急医療に関する著書もある山口は、様々な研究会に参加していく中で、救急医療、災害医療に携わるドクターたちと懇意になった。

「どうやら山口が緊急消防援助隊の指揮隊の隊長をやっているらしいぞ、と。向こうにしてみれば、消防と連携するためにはどこに相談したらいいのかと悩んでいたそうで、自分が消防側の意見をいったり、ドクターたちの相談にのったりしている」

山口は厚生労働省の科研の委員として平成30年度末までに地域医療搬送のマニュアルを策定する予定だ。策定されれば、緊急消防援助隊の訓練やDMAT、自衛隊、民間との連携訓練で実施し、これまでよりも密な連携の実現に向けて一歩進むことになる。

消防は誇りを持てる仕事

東日本大震災や平成27年9月関東・東北豪雨で緊急消防援助隊として派遣された際、被災者の感謝や応援が消防隊員として誇りであったし、活動の力になったと山口はいう。

「東日本大震災で緊援隊車両の隊列を拝んでいたおばあさんがいたし、茨城では浸水した家から出てきた缶ジュースを水道水で綺麗にして、飲んでくださいと差し入れにもってきてくれた外国人被災者がいた。我々の活動を信頼し、応援してくれるのを実感して胸が熱くなった。こんな職業は他にないと思う」

最近では消防への出動要請は昔に比べて少なくなっている。それは幸いなことなのだが、結果的に市民との接点が少なくなり、若手は現場で肌感覚として伝わる信頼感を感じる機会が減っているかもしれない。だからこそ、山口は現場に限りなく近い訓練を行い、活動に対する自信をつけさせたいのだと話す。

「自信を持っていい、ほとんどの人は消防を信頼してくれている。そして、〝ちゃんとした〟人でいてくれ、『うちの町の消防の若手はいいよね』といわれるようになってくれ、と話している」

〝ちゃんとした人〟という基準は、若手が自分なりに考える理想像でいいと山口は話す。自信を持って〝ちゃんとして〟いれば、自ずと信頼はついてくるものだ。

また山口はもうひとつ若手にいっている言葉がある。

「ポジティブでいてくれ」

消防の仕事は大抵、つらい現場が多い。つらい現場の人々に同情して力になろうという人間でなければ、消防という仕事は務まらない。

「俺のほうが不幸だ、大変だよ、というネガティブな思いでは、いい活動はできない。だから何か悩みがあれば、自分でもいいし先輩でもいいし、誰かに相談してほしい」

ポジティブでなければ、他人に寄り添うことはできないと山口はいう。

「先輩が定年の際に『俺は消防士になれてとても嬉しかった。町を守るヒーローのような消防隊員という仕事をまっとうできてとても幸せだった』と言ったことがとても印象に残っている。若手にもそうした誇りとやりがいを持って活動してもらいたい」

他人に寄り添うことができ、気は優しくて力持ちであり、町のヒーローである。山口は若手にそういった自信と誇りを持った消防隊員になってほしいと願っている。

訓練終了後、若手隊員の振り返りを聞きつつ、アドバイスを与える。
訓練終了後、若手隊員の振り返りを聞きつつ、アドバイスを与える。
慣習を疑い、よりよい活動を目ざす

山口は、アメリカではあたりまえにある「緊急脱出・救出法」のマニュアル化に取り組んでいる。消火活動はリスクの予測を必要とする危険かつ専門的な業務であり、自分自身と仲間の命を守るためのセルフレスキュー術は必要だと感じている。

「YouTubeでアメリカの緊急介入チームRIC/Tの訓練動画を見て、日本にこうしたセルフレスキューの概念がないのはまずいと感じた」

そこで山口は救助隊の隊員などと協力して「緊急時の脱出および救出」というマニュアルを策定しつつある。先述した「緑消防署火災現場活動基本ガイド」の中に、「緊急時の脱出および救出」という章を設け、①危険の認識、②緊急時の行動、③救出行動など、自分をそして仲間を守る行動、活動をマニュアル化した。

さらに、すでにルーティンとなっていたり、これが常識だと言われている作戦・戦術をもう一度検証し直している。

「たとえば強風烈風時はストレートノズルに変えろと昔から言われている。そのほうが水が風に押されないとされているが、本当にそうなのか? 12mの風速があった日に検証してみたが、ダブコンでも全く遜色なかった。この検証活動を動画に収めて警防部警防課に提出して、今後の活動方針の参考にしてもらっている。活動に関してはエビデンスを示すことが必要だと感じているので、今後もさまざまな作戦・戦術を検証していきたい」

根拠はあるのか? 本当にそれが一番良い戦術なのか? エビデンスを示すという考え方は、救急畑出身ならではかもしれないと山口は笑う。

「ルーティンを疑えというのは、若手にこそ言ってほしいこと。新しい考えで、〝今〟の最善策を考えてほしい。消防活動に興味を持って、何事も取り組んでほしいと思っている」

若手の育成にも力を入れつつ、まだまだ山口自身も「これは何だ? これって本当なのか? こうしたほうがいいのではないか」とあらゆる消防活動に興味津々で、伝えたいこと、やりたいことが泉のように湧き出ているようだ。山口にとって消防という職業は天職なのだな、とつくづく感じさせられた取材であった。

緑消防署火災現場活動基本ガイド

Profile

山口 誠

山口 誠Yamaguchi Makoto

昭和36年京都府生まれ。昭和56年10月に千葉市消防局にて消防士拝命。半年間の初任教育課程を経て、中央消防署消火隊に配属、昭和58年から救急隊。平成6年救急救命士資格取得。平成21年、警防部救急課を経て、平成27年4月から現職。救急救命士(すべての特定行為認定)。

職人気質でエキスパートとなれる職業に就きたかった。 そんな考えで選んだ職業は消防。そして、救急のエキスパートとなった。 大規模災害で消防の組織力の凄さを感じ、組織力を磨き、人助けに貢献できる組織を作ろうと、若手育成や医療関係との懸け橋になるため奮闘する。
文◎新井千佳子 Jレスキュー2018年1月号掲載記事

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