東京消防庁 奥多摩山岳遭難救助

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東京消防庁 奥多摩山岳遭難救助

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現場の局面指揮を執る青梅消防署の田中山岳救助隊長は、隊員同士で声をかけ合って安全を確認しながら活動するように指示した。

「要救助者が発見された場所は急斜面で、救助に向かった隊員が滑って滑落する危険性もあった。実際、怪我をしない程度に滑ってしまう隊員はいた。山岳救助隊だからといって、また奥多摩や青梅に配置されている隊員だからといって、全員が雪山に慣れているわけではない。そのためガイドとなるフィックス線をしっかり張って、より慎重に救助を進める必要があった」

2人の救出が行われている間、山腹では他の隊員が平らなスペースに簡易テントと防水シートを張って現場救護所を設置し、エマージェンシーシートで身体を温めるなどしつつ、滑落者の救助に当たった。13名全員に意識はあったものの、全員がびしょ濡れで多くの方に低体温症の症状がみられた。重傷と思われた2人には隊員の持っていた着替えを着せることにした。

要救助者は寒さによる震えがひどかっため、現場救護所付近での焚き火で体を温めさせた。
要救助者は寒さによる震えがひどかっため、現場救護所付近での焚き火で体を温めさせた。
現場救護所で要救助者の容態観察を行う救急隊。
現場救護所で要救助者の容態観察を行う救急隊。

活動隊員の疲労度合を見た室井大隊長は0時59分、無線で応援隊とヘリを要請。消防ヘリは悪天候のため、要請段階では飛行できなかった。まもなくして、警視庁の山岳救助隊が合流。2時40分、警察の山岳救助隊4名が自立歩行可能な6名を誘導しながら都民の森駐車場に向け下山を開始した。

続いて消防は青梅消防署の山岳救助隊と青梅1小隊が重症の要救助者1名をバスケット担架で搬送しながら4時に下山を開始。日向和田中隊でもう1人の歩行困難な要救助者をバスケット担架で搬送した。山道は、ひざ下まで足が埋まるほど雪が積もっており、雪を踏み固めた道も広くないため、滑らないよう、1ピッチ(約10分)歩いては休憩をとりながら、慎重に下山した。 

応援要請で出動した九本部ハイパーレスキュー隊、秋川山岳救助隊も到着。途中で合流して搬送を交代した。残る5名のうち3名は自立歩行可能で、消防に誘導されながら下山を開始。2名は低体温症により歩行が困難なため、九本部ハイパーレスキュー隊員が背負って下山を開始した。さらに当初天候不良で飛行NGだったヘリも、天候回復と同時に飛行可能になり、エアハイパーレスキューが2機、警視庁のヘリ1機が飛来。全員を3箇所のホイストポイントで吊り上げて、11時30分ごろに全員のヘリ救出が完了した。

続いて、山に入っていた隊員全員が13時37分に下山完了し、18時間超におよぶ救助活動が完了した。

要救助者を背負い下山させる前に、サバイバルシートで保温する。
要救助者を背負い下山させる前に、サバイバルシートで保温する。
背負いによる救助状況。
背負いによる救助状況。
要救助者をホイストで吊り上げるためエバックハーネスを設定するエアハイパーレスキュー。
要救助者をホイストで吊り上げるためエバックハーネスを設定するエアハイパーレスキュー。
無謀な登山に備えていく

活動の指揮を執った佐藤山岳救助隊長は、「斜面での救助活動は体力を消耗させるが、さらに雨の中の活動になり(活動途中で雪から雨に変わった)、雨と汗で隊員らは頭から足先までびしょびしょになった。雨具は着装していても、どうしても首元などから雨が入り込んできた。今回は低体温症にまではならなかったが、これが真冬だったらもっと大変だったかもしれない」と山岳救助活動の過酷さを語った。さらに、
「この災害のもう一つの特徴は、13人中11人が中国籍で言葉が通じず、事前の情報が正確でなかったということだ。通報段階で怪我人はいないという情報だったため、全員歩行しての下山を予定していたが、実際は違っていて活動が長期化した。また報道でも取り上げられていたが、登山グループがSNSで集まった初対面のメンバーだったため統率がとれておらず、リーダーも山に慣れた人ではなかった。東京都は訪日外国人の登山者も増えているので、今回のような救助活動への対策がより必要になってくるだろう」
と、東京消防庁の山岳遭難対策の新たな課題について語った。

平成30年3月21日、春分の日というのに東京都西部の奥多摩では朝から雪が降り続いていた。 低山の連なる奥多摩は気軽に行ける人気の日帰り登山圏で、登山者には初心者や軽装備者も多くいる。 が、いくらなんでもこの雪の中を登る人はいないだろう。 そう誰もが思っていたが、まさかの事態が起きた。 13人のグループが雪中の奥多摩で遭難したというのだ。
写真◎東京消防庁 Jレスキュー2018年9月号掲載記事

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