
Special
八千代市消防本部のデジタルインテグレーション
最新映像技術を「つなぐ」そして「統合する」
「署内マルチネットワーク」の特長を別の角度から見てみよう。もうお気づきの方も多いと思うが、それは「映像」への強いこだわりだ。
現在、全国の消防本部において、ドローンの検証・試験的導入は進んでいるが、その多くはスタンドアローンのシステムとして導入していることが多い。八千代消防ではまず平時のドローン画像伝送システムとして「LoopGate」を採用。ドローンをはじめ各種デバイスからの画像、報告音声、指示という双方向コミュニケーションシステムで、消防本部と複数拠点がリアルタイムにつながる。さらに大規模災害時のネットワーク構築として、遠隔情報共有システム「Hec-Eye(ヘックアイ)」の試験導入も開始している。
Hec-Eyeは一言でいうと、ドローンからの取得情報を地図上に集約し共有する先進的なプラットフォームだ。さらに、定点カメラとの連携やデータ管理・共有機能を持つので、作戦遂行時には「作戦卓(80インチ)」にドローン取得情報と地図情報が統合されたHec-Eyeの配信情報が表示される。そして、この地図データ上に映像を置き、各種書き込みをおこなったりすることができる。
最新の映像技術活用の将来的な展望として、出場隊員への映像装置装着も考えているという。これはウェブカメラ等の装着ではなく、現在注目を集めているスマートグラスを想定。最先端のスマートグラスはカメラ、モニター、ファイル共有等の機能を保有し、双方向のコミュニケーションを可能とする。まだ情報収集段階だが、今後取り組むべき課題と認識しているという。これは本ネットワークのもつ拡張性の一例としてとらえることができる。
八千代市消防本部のこだわりは、最新テクノロジーのあくなき追求と同時に、それらの機能を情報共有システムで「つなぐ」ことだ。これをデジタルの世界の言葉で言えば、「デジタルインテグレーション」ということになる。統合(インテグレーション)こそが、今回の新しいネットワークの大きな特長なのだ。

ネットワークを支える人的システム構築計画
最後に「署内マルチネットワーク」の署全体における運用面と、このシステムの持つ意味を考察する。本ネットワークの本質は「情報共有」だ。つまり、このシステムは(ITに長けた)一部の署員のためだけのシステムではなく、消防本部の全職員(230名)が使いこなし、普及させていくこと。
このために八千代市消防本部では現在、15名規模のデジタルインストラクター・チームを編成している。このインストラクターは自薦形式の希望者で、今後は「署内マルチネットワーク」の伝道師となる。実はこの方法は、ドローン操縦員の養成でも用いられている。4名のドローン隊を編成し、ドローンの運用・養成・市長部局への普及・啓発も自ら行っていく。また本システムの全署向けの説明会もすでに10回を数えている。コロナ禍にあって説明会は全回オンライン形式でおこなわれ、その評価は高かったという。どんなに優れたシステムであっても、最終的に活用できるか否かには人が関わってくる。導入時における署内普及活動の持つ意味はきわめて大きい。
最後に本ネットワークの持つ意味を俯瞰的に考えてみる。参照する概念は、現在、日本企業が懸命に取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)。DXの本質は「D(デジタル)」にあるのではなく、「X(トランスフォーメーション)」にあると言われている。つまり、現状の業務をデジタル活用により単に効率化するのではなく、業務の内容自体をデジタルの活用により変革(トランスフォーメーション)することが主眼となる。こう考えると本システムの意味が見えてくる。
この新しい流れに、民間部門も行政部門も違いはないというのが、現在のデジタルの世界の考え方だ。一例をあげる。八千代市消防本部の「署内マルチネットワーク」では、その拡張性の一環として、市や県など消防組織以外とのネットワーク連携強化を視野にいれている。これは民間部門でいう「エコシステム(企業の枠を超えた協働的ネットワークの構築)」と方向性としては共通している。今回の八千代市消防本部の新しい試みは、「未来の消防」を考えるうえで、示唆に富むものではないだろうか。







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