大型化学消防ポンプ自動車I型 川崎市消防局

日本の消防車両

大型化学消防ポンプ自動車I型 川崎市消防局

川崎市消防局 臨港消防署浮島出張所[神奈川県]

写真・文◎伊藤久巳
日本の消防車2021掲載記事

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日本初のファイア・ドス混合方式の大型化学車
毎分4000L泡放水が可能!

ファイア・ドスを大容量の泡放射に使ってしまう

川崎市消防局では令和2年2月、臨港消防署浮島出張所の大型化学車I型を更新した。新たな大型化学車は日野・プロフィア10t級シャーシをベースに、日本ドライケミカルが艤装を担当した。

川崎市消防局では、臨港消防署の管内ほとんどが石油コンビナート等特別防災区域京浜臨海地区の区域にあたるため、臨港消防署本署に大型化学高所放水車、殿町出張所と浮島出張所に大型化学車、千鳥町出張所に化学車III型(高速道路での車両火災も対応)を配備し、石油コンビナート火災に備えている。

今回更新された車両は、このうち浮島出張所の大型化学車。先代の車両は他の大型化学車、化学車III型などと同様、泡消火薬剤の混合を一般的な圧送自動比例混合方式で行っていた。専用の薬液ポンプで圧送された泡原液が、送水量の感知によって自動的に流量調整されて一定の混合比が維持される圧送自動比例混合方式だが、メンテナンス面や構造が複雑なこともあってやや使いづらい面も露呈していた。

「トレーニングフォームを使用して訓練する際に、時々放水量や混合率が安定しないことを自ら何度か経験した。危険物火災では泡消火薬剤の混合率、ひいては発泡率は非常に重要な要件となる。何とか改善できないものかとずっと考えていた」(消防司令・江口裕一浮島出張所長/元施設装備課)

そこで注目したのが、日本ドライケミカルがドイツのファイア・ドス社から輸入する、その名も「ファイア・ドス」システムだった。ファイア・ドスはポンプからの送水によってウォーターポンプが回転し、その力でプランジャーポンプが動作して薬液を送り込むという単純な薬液混合装置。ウォーターポンプに入る水量によって回転が変化し、プランジャーポンプの動作速度が変化して供給される薬液量も変化する。送り込まれる薬液量は水の流量に比例するという単純なもので、すでに日本でもいわゆる軽化学車に分類される化学車I型や化学車II型では使われているが、重化学車や大型化学車での採用例はまだなかった。

ファイア・ドスの場合、ウォーターポンプの容量、プランジャーポンプの容量または個数を大きくとれば、単純に泡放射量が大きくなる。ドイツ本国では現在、最大で毎分2万Lというファイア・ドスが存在する。ここに注目し、日本初の大きさとなる最大流量毎分4000Lという大型のファイア・ドスが採用される運びとなった。

「消防としていいシステムになるのではないかと考えた」(江口)

ファイア・ドスの装置そのものは日本ドライケミカルがドイツから輸入し、どの艤装メーカーでも使用可能だが、入札の結果、車両そのものの艤装担当も同社に決定した。

操作は簡単「混合開始」スイッチを押すだけ

「薬液の混合が水力ポンプというだけで、戦術面ではこれまでとまったく変わらない。危険物火災では、状況により水による冷却注水を行う場合や、泡による火点への消火活動を行う場合があるが、水から泡への切り替えの際にも薬液を正確に混合し、しっかりと泡を作れることで、安全に労力を使わず活動できると考えている」(江口)

この車両の製作担当者から一転、運用責任者へと立場が変わった江口がこう話すように、運用は変わらずに行われるという。ただし、従来のように薬液のポンプスイッチを入れて混合バルブを開くといった複数の手順は不要で、タッチパネルで「混合開始」スイッチを押すだけだという。

ポンプ装置はA-1級を装備。そして、ファイア・ドスは毎分4000L容量の装置を用いるが、川崎市消防局では最大容量毎分3100Lで使用する。薬液槽と水槽はともに容量2000L。

コンビナートでの危険物火災でいわゆる3点セットを組む相手もこれまでと同様で、バスケットを外して泡放射砲を装備した幸消防署のはしご車、泡原液を積載した同署のポンプ車と3隊で活動する。ちなみに、川崎市消防局ではこのセットのほかにも、臨港消防署の大型化学高所放水車と泡原液搬送車で1セット、殿町出張所の大型化学車+川崎消防署のはしご車+同ポンプ車で1セット、常時計3セットの放水体形を組むことが可能で、大型石油コンビナートに対して鉄壁の防ぎょ体制を構築している。ファイア・ドスを装備した浮島出張所の新しい大型化学車もこの一角に加わった。

外観

消防車
車体前面。日野プロフィア10t級シャーシの堂々たるフロントマスク。登録ナンバーはオリンピックイヤーにもちなみ「2020」。
消防車
日野プロフィア10t級シャーシをベースに、日本ドライケミカルが艤装を担当した。令和2年2月13日配備、同2月21日運用開始。4枚シャッターに本部名、車名が大きく入る。スカート部にはバッテンバーグの反射シートで被視認性を高めている。
消防車
車体後面。ホースカーと資機材収納部にはシャッターが設けられ、屋上には手動上昇式のLED式照明装置を備えている。シャッター下部の水と泡消火薬剤それぞれの最大積載容量、重量の表記が化学車であることを物語る。

右側面

消防車
ホース、筒先など積載資機材が多く、積載スペースは水槽、薬液槽に沿って細長く設置されている。
消防車
ポンプ操作盤。吸水口、中継口、放水口のほか、右上に2口の混合液吐出口、右下に1口の外部吸液口が設けられている。
モニター
モニター
ポンプ操作盤のモニター。アンサーバックも採用されているわかりやすいタッチパネル式で、経験の浅い隊員でも間違いのない操作が可能。混合比率は3%固定で、泡消火薬剤はクラスBを用いる。

左側面

消防車
2軸の後輪タイヤハウス内後部には薬液槽への薬液補給口が設けられている。

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