廿楽和也
さいたま市浦和消防署 特別高度救助隊 消防士長
Interview
都市部を走るベテランに学ぶ機関員の心得03〈はしご車の場合〉
【さいたま市消防局】
写真・文◎小貝哲夫
Jレスキュー2018年3月号掲載記事
バスケットのせり出し、リアのオーバーハングに注意する
当局では救助係が救助工作車とはしご車を運用し、浦和消防署では救助隊長以外は当務ごとにローテーションをしてどちらの車両に乗務するか決定する。浦和特別高度救助隊はバス型の大型救助工作車Ⅲ型を運用しているため、はしご車も救助工作車も全長10.4~11.0m、全幅2.49m、全高3.5~3.7mの大型車両である。
はしご車にははしご車ならではの難しさがあり、その筆頭はバスケットのせり出しである。走行時はバスなどに近づきすぎないなど、他車両や建物と接触しないための注意が必要だ。とくに、前方は目視できるが、後方のオーバーハングは目に見えない部分なので、バックモニターを常に注視する。一般車両の間をすり抜ける場合や右左折時は車両のオーバーハングにも気をつけなければならない。
はしご車は総重量の重い車両なので、マンションやビルの敷地内に入るときはインターロッキングブロックやマンホールに乗り上げて破壊しないよう配慮するなど、特有の気づかいも必要だ。
無理な進入はしない。高さを考慮して出場順位を考える
はしご車で出場したからには、現場で架梯しての活動を視野に入れるが、現実には周囲の道路事情などで架梯できないことも珍しくない。そこで、架梯しなければと狭い道を無理をして進入してしまうと他の車両の進入を妨げ、活動に支障をきたす可能性もある。各署所には中高層建物を色分けした、周辺の道路状況が把握しやすい中高層建物台帳があるので、これを活用して出場順位などを考慮する必要がある。
目立つことで避けてもらうために、センターライン付近を走行する
私が緊急走行で意識しているのは、左側の車線内を走行できる状況でも、なるべくセンターライン付近の見通しのよい場所を走行すること。その理由は、対向車から目視されやすく、先行車のバックミラーやサイドミラーで確認されやすいから。早い段階で認識され避けてもらえるよう心がけることで、スムーズな緊急走行と安全を確保するのである。
多数の緊急車両がサイレンを鳴らしながら後方から接近してくると、「道を譲らなければ!」と焦ってパニックを起こし、道路の真ん中や交差点の真ん中で止まってしまう車両がある。よく起こる危険なシチュエーションだが、その場合はできるだけ車間距離を取り、拡声器で穏やかに車両を誘導し、緊急車両が通行できる道路幅を確保してから追い越すようにしている。
一般車両にこちらの意図を理解してもらえる走行を
緊急走行中は隊長や他の隊員に対しても、どこに行こうとしているのか自分の意思を明確に伝えることを意識しているが、安全確認については自分だけでなく乗車している全隊員で危険を察知するように日頃から話し合っている。最も重要な事は、相手にこちらの意図を理解してもらえるような走行を心がけること。可能であれば相手の目を見て判断するようにしている。
機関員になったばかりの頃、私は運転のうまい先輩の車両に同乗してテクニックを盗むように心がけた。具体的なアドバイスよりも、うまい運転を体で感じることが技術的な向上に繋がったと思うし、たとえば、ここは自分が先に行った方がいいと思ったら早めに頭を出すなど、自分の意図を周囲の車に理解してもらえる運転のコツをつかむことができた。
急がば回れ。大型車両は決して無理をしてはいけない
大型車両の機関員として常に心がけているのは、決して無理をしないということだ。入れないと判断したら違う道を考える。結果的にはそれが一番早い。個人的には『訓練を通じ車両と自分の体を一心同体にすること』を心がけ、出場前には深呼吸してからエンジンをスタートするようにしている。
廿楽和也さいたま市浦和消防署 特別高度救助隊 消防士長
平成14年より機関員。