Special
消防のためのダーティボム入門
―その歴史、検知から除染まで―
後編
本誌の連載「世界のCBRNe 最新トピックス」の著者の浜田昌彦氏の記事をWebでも公開。「消防のためのダーティボム入門」を前後編で掲載する。後編は、放射線の検知や防護、除染ついて紹介する。
写真・文◎浜田昌彦(写真は特記除く)
放射線の検知について
放射線の検知と監視には、さまざまな種類の検知器が使用される。放射能汚染の広がりを特定し、汚染エリアを確立し、人員と環境の除染を検証する。懸念される地域における放射線の自然のバックグラウンドレベルを確認することは重要であり、その値は地域により異なることに注意する必要がある。その地域の放射線規制関係機関と協力して、テロや事故が発生する前に、ホットゾーン、ウォームゾーン、コールドゾーン、および許容可能な除染レベルを説明しうる基準を確立しておく。適用できるレベルの例としては、ホットゾーンでは0.1mSv/h、ウォームゾーンでは0.0025mSv/h、コールドゾーンでは自然バックグラウンドレベルなどがある。なお、「原子力施設等における消防活動対策マニュアル」(総務省消防庁、令和4年)においてもホットゾーンの境界は0.1mSv/hとされている。
消防(ファーストレスポンダー)は、ガンマ線検知のためサーベイメーターを使用して安全区域を確立する。アルファ線源は、通常の運用場面では検知識別が困難である。だが、その崩壊生成物にはガンマ線源が含まれていることが多く、これらは容易に検知できる。次に、使われた放射性同位元素の同定は、消防や一般市民に対する脅威・リスクの程度を把握するために不可欠である。現場では、核種分析器とも呼ばれる携帯型の放射性同位元素検知識別器(RIID)を使用して検知する。こうして消防は、放射能汚染の程度、関連する線量率、および原因となる放射性同位元素の種類を把握する。これらはすべて、事態対応のための貴重な情報となる。
また、消防士の個人線量を測定し、確立された安全基準と比較することも不可欠である。フィルムバッジから電子式線量計まで、さまざまな市販の器材がある。後者では、線量のリアルタイムでの確認評価が可能である。
さらに、外部汚染の有無を評価して、放射性粉塵等に汚染された者とばく露されただけの者を明確に(contaminated and exposed)を区別することも必要である。携帯型の放射線検知器を使用することもできるが、これでは時間がかかり、大人数の被災者対応には非効率的である。かわりに、放射線ポータル機器は、RDD放出後にそのような大きなグループをスクリーニングする効率的かつ迅速な方法である。また、病院は、潜在的な内部被ばく線量を決定するための技術を使う場合がある。
検知と監視は、RDDによる放射能放出後のクリーンアップの重要な要素でもあり、現場での検知とともに実験室での測定が併用される場合がある。
放射線に対する防護
RDDからの放射線被ばくは、おそらく数ブロックの街区に限定されるであろう。ばく露は「時間」、「距離」、「遮蔽」の放射線被ばくの3原則を使用して最小限に抑えることができる。つまり、線源からの距離を2倍にすると、ばく露が4分の1になるため、線源の近くにいる時間を最小限に抑え、線源からの距離を最大化する。
外部被ばくと放射性微粒子の吸入、この両方から身を守ることも重要である。PPEは直接的な汚染を制限するために使用できるが、消防士はその地域の環境の放射能汚染により外部放射線に被ばくする可能性がある。
また、吸入ばく露の可能性を最小限に抑えるためには、適切な呼吸保護具を使用する必要がある。自給式呼吸器、あるいは微粒子フィルターを備えた全面型マスク、N95相当のマスクの使用が望ましい。
次のページ:
放射性物質の除染をどう考えるべきか