百戦錬磨の東消救急隊がレクチャー<br>救急隊の「接遇」心得

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百戦錬磨の東消救急隊がレクチャー
救急隊の「接遇」心得

救急隊のマナーといえば「接遇」である。消防部隊の中で突出して出場回数が多く、傷病者とその家族、関係者など一般市民と接する機会の多いのが救急隊である。そこで、様々な傷病者への救急対応を行ってきた
百戦錬磨の東京消防庁救急機動部隊が、「救急の接遇」のポイントを解説する。

写真◎伊藤久巳
Jレスキュー2017年5月号掲載記事
(役職・階級は取材当時のもの)

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接遇の基本は先輩の姿から学ぶ

救急隊のマナーは接遇に尽きるが、「接遇」と一言でいってもそれがどのようなことを意味するのかは分かりにくいかもしれない。

東京消防庁では特別な接遇研修は行っていないが、救急隊員のバイブルである「救急活動基準」の冒頭に、救急隊員の心構えとして「人間愛を持って接すること」と謳われており、これが接遇の基本精神になっている。

具体的な言葉遣いや立ち居振る舞いのマニュアルなどはないが、若手の救急隊員は先輩の姿を見ながら「救急の接遇」とは何かを学ぶ。

救急隊の「接遇」心得
東京消防庁救急部の精鋭部隊「救急機動部隊」第一救急隊の消防司令補・遠藤太(右)と消防士長・岩瀬祐太(左)。
【現場対応】
①重症度に応じて対応スピードを変える

救急隊員は、現場に到着後、まず現場の状況、傷病者の状態を確認し「命の危険が迫っているか」を総合的に判断する。

明らかに切迫した状況であれば、本人や関係者から必要最小限の情報を聴取し、適切な処置を施しながら、迅速な搬送をおこなう。

会話ができ、切迫した現場でない場合、傷病者のペースで話を聞いてあげることも現場では必要な判断だ。

現場は常に判断の連続、この判断力は経験と知識が裏付ける。救急隊員に求められるスキルの一つだ。

②話し方や対応の流れは、現場の空気を読む

救急隊員は、傷病者の重症度・緊急度やその人がどのようなタイプかによって現場ごとに対応方法を変えていく必要がある。救急隊員の一番の目的は、主訴や既往歴を聞き出して、その人に適切な処置と病院選定を行うことである。その際のポイントは次の点である。

救急隊の「接遇」心得
救急隊は、傷病者の話を傷病者のペースで聞くかどうかの前に、まず傷病者の重症度・緊急度を判断している。その度合いに応じて搬送を優先するのか、ゆっくり話を聞けるのかが決まる。
第一印象に気を配る

救急活動では、初めて会話する傷病者から短時間で既往歴など非常にプライベートな情報を聞き出さなければならない。ちょっとした言葉尻で人は不信感を抱いてしまうもので、そうなると、その現場は最後までうまくいかなくなる。信頼を得るために大事なのは「第一印象」である。第一印象をよくするといっても、救急隊員に不自然な作り笑顔は必要ない。救急の現場においては、どれだけ親身に対応しているかを相手に分かってもらうことが大切なのだ。

上からの目線はNG

接遇の姿勢として気をつけたいのが、目線が上から傷病者を見下ろすようにならないよう、目の位置を傷病者と同じ高さにして話すことだ。また、傷病者と会話している間は家族の方を見たりせずに、傷病者の目を見て適度に相槌を打ち、「あなたの話を聞いていますよ」という意志を態度で伝える。

傷病者に合わせた話し方を

近年は高齢者の救急搬送が多い傾向にあるが、高齢者の中にはフレンドリーなしゃべり方をする方がいる。そういうときには、その口調に合わせることで相手が心を開き活動が円滑に進むこともある。その一方で、親しげに話しかけると礼儀を欠いていると受け取るタイプの方もいる。ベテランの救急隊は臨機応変に傷病者のタイプに合わせて、口調や会話の流れを作っていく。

また、必要によりマスクをつけている場合は声がこもり、高齢者が聞き取りにくいケースもあるので、すこし大きな声ではっきり話す配慮も必要。

まずは落ち着いてもらう

救急現場では、傷病者やその家族の気が動転して冷静さを失っていることがよくある。そのような場合には冷静にゆっくり話しかけることで、相手を落ち着かせる。指令内容や電話で聴取した事前の内容を確認しながら話をすることも、相手に安心感を与え、落ち着かせるための一つの手法だ。また、傷病者本人が会話のできる状態であれば、関係者ではなく本人と話すことで不安を払拭し、落ち着く場合がある。

乳幼児は怖がらせない

乳幼児の傷病者は、マスクにヘルメット(あるいは救急帽)という救急隊の出で立ちに不安を抱いて泣き出しまうことがある。現場が安全ならば、ヘルメットを取るなどして、表情を意識的に柔らかくする工夫も必要だ。

子どもは大人と違って、自分の状態を正確に伝えることができないので、「泣く」という行為も重要な判断材料であり、泣かずにぐったりしているなどの場合は、緊急を要する場合もある。

また、親から、その子の普段の様子と今が「どう違う」のかという情報もしっかりと聴取する。

【NG例】
人前で個人情報を聞き出す

活動に意識を集中するあまり、周りが見えなくなり、周囲に大勢の人がいる場で個人情報を聞いてしまわないよう注意する。特に女性にはデリケートな内容を聴取することもあるため、救急車内に収容してから聴取するなどの周囲や本人に対する配慮を忘れないこと。

うまく聞き出せない

病院に搬送されてから初めて、搬送した傷病者に既往歴があることが判明することがある。これは、救急隊が傷病者との信頼関係を築けず、傷病者の情報をきちんと聞き出せていなかったということに他ならない。会話が可能な傷病者からはできるだけの情報を引き出しておくのが救急隊の仕事だ。

③頻回要請者でも、先入観を持たない

近年、軽症でも頻繁に救急車を呼ぶ例が増えているが、以前の対応時に軽症だった人の場合でも先入観を持つことなく、「今回は本当に何かあるのかもしれない」と慎重に対応する。 たとえ常習者であっても、「でも今日はこんな症状があって」と本人なりの理由があるため、なぜ救急要請をしたのか相手の立場になって考え、医学的観点から一つ一つ解決していくことが大切。

CASE-01 傷病者が椅子に座っている場合
救急隊の「接遇」心得
傷病者が椅子に座ってぐったりしている。
救急隊の「接遇」心得
(救急隊)「救急隊です、どうされました?」
(傷病者)「お腹が痛みます」
(救急隊)「どのぐらい前から痛いですか?」
(傷病者)「30分ぐらい前からです」
救急隊の「接遇」心得
(救急隊)「このままの態勢で血圧を測らせていただきますので、もうちょっと頑張りましょうね」
※(傷病者)「はい」

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【救急車内での対応】

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