ココまで活用できる!消防ドローンのポテンシャル Case03:佐野市消防本部➁

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ココまで活用できる!消防ドローンのポテンシャル Case03:佐野市消防本部➁

令和5年12月20日よりドローンの運用を開始した栃木県佐野市消防本部の事例を、前回に引き続いて取り上げる。導入当初よりハイスペックな機体と装備を導入した佐野市消防本部。今後の活用方針やドローンの運用における課題などを国内ドローンメーカー「VFR」の代表取締役社長・蓬田和平氏との対談で紹介する。

写真◎幡原裕治
文◎榎本洋
Jレスキュー2024年7月号掲載記事

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case03 佐野市消防本部

奥山博行
 佐野市消防本部
 警防課
 消防司令補
 奥山博行
岡保宏
 佐野市消防本部
 警防課
 消防司令
 岡保宏

24時間運用体制を目指す

蓬田和平氏(以下・敬称略) 前回(2024年5月号)のお話で、運用開始時から決してエントリー向けの小型モデルとはいえないDJI社製ドローン「Matrice 350 RTK」を導入され、指向性スピーカーによる避難の呼びかけや、通信機器や食料品などの投下装置による提供を可能とし、山岳エリアの土砂崩れ災害などへの対応を想定しているとのことで、非常に高度な取り組みをされていると感じました。このようなドローンの運用を行う上で、モデルとなった事例などがあったのでしょうか。

佐野市消防本部・岡保宏氏(以下、敬称略) 直接的にモデルとなった事例は存在しません。ドローンに関する技術は現在、ものすごいスピードで進歩しています。それと同時に、どのように活用するかという運用方法も非常に多様化していると思っています。当消防本部で導入するにあたっては、まずドローンの活用方法について消防での事例に限定せず、海外のサイト閲覧なども含めて情報収集しました。そして運用の骨子としては、前回も話に出ましたが、管内の北部の約6割が山岳エリアであるため、土砂崩れによる住民の孤立など、地勢的な状況・課題にドローンがどう活用できるかということを考えることから始めました。

蓬田 たしかに、ドローンは現在、初期段階の空撮を中心とした使い方から、いわばロボットのように〝ドローンに何かをさせる〟という方向に進化していると思います。消防でドローンを活用するということは、その流れにまさしく合致していると思うのですが、今後の展開予定を具体的にお聞かせください。

佐野市消防本部・奥山博行氏(以下、敬称略) 令和6年度にMatrice 350 RTKに相当する機種をもう1機導入する予定です。操縦士も現在、国家資格の二等無人航空機操縦士を保有する職員が6名ですが、さらに6名の増員を考えています。増員する操縦士は署の指揮隊の隊員を中心に想定しています。また、免許関連でいえば、限定変更の講習を受講して夜間飛行・目視外飛行に対応できるようにする予定です。これらによって、令和6年度中には2機運用による24時間対応の体制を構築したいと考えています。ドローンを導入した際の主管は警防課ですが、ドローンの運用を消防本部全体に広げていきたいというイメージを持っています。現在も、火災調査時に要請されてドローンでの空撮を実施したときには、「はしご車等からでは不可能なとても良い写真が撮れた」という声をもらっています。このようにドローンを活用する上での手応えを感じています。新規の資格取得人員の選定も含め、将来的には小型ドローンなどを指揮隊に配備して自由に飛ばせるような体制を目指しています。

佐野市消防本部のドローンを運用する操縦士
佐野市消防本部のドローンを運用する操縦士。左から、消防司令・岡保宏、消防士長・谷津美希、消防副士長・久保佑太、消防士長・山口怜史、消防司令補・奥山博行。

他組織との連携を視野に

蓬田 現状でドローンを運用していて感じる課題や、今後の課題についてお聞かせください。

奥山 現状の課題としては、ドローンの運用について浸透させていくことと、有資格者の技術と知識を維持していくことだと思います。活用方法等について説明会を行い、定期的な訓練を計画し実用性について共通認識を持ち、より効果的な運用ができるようにしていきたいと考えています。今後の課題としては、ドローンを活用する幅が広がっていくと、機体や運用する人員の増加に伴う人員不足が考えられます。

蓬田 おっしゃることは非常によく分かります。たとえば土木・建設業界などでも、ドローンの活用が進むにつれ、人員が足りないといった意見が出るのをよく耳にします。この問題に対応するための具体的な施策はありますか?

奥山 将来的な話になりますが、解決策のひとつとして、消防以外の組織との連携があると思っています。実は、ドローンの導入にあたって6名の職員が二等無人航空機操縦士の資格を取得したのと同時期に、佐野市市役所の職員も3名が同じ資格を取得し、当消防本部のドローンを操縦できます。

 今年6月には、佐野市と当消防本部の共催で、土砂災害対応訓練を実施します。本訓練には、消防団、地域住民、栃木県警察、消防防災航空隊、要配慮者利用施設も参加します。この訓練では、ドローン搭載スピーカーによる避難呼びかけや、熱画像カメラなどを使用しての取り残された住民の発見、投下装置による通信機器や食料品などの提供など、現在のドローンで私たちが想定しているすべての可能な活動を展開します。ちなみに、この訓練では各メディア展開も行い広報にも活用していく予定です。広く市民の関心・理解を得るためにも広報活動を重視しています。

蓬田 たしかに今後の課題である大規模・広域災害ということを考えれば、いまのお話は非常に本質的な対策だと感じます。

奥山 あとは、県域を越えた展開です。私たちの管轄地域は山岳エリアが多いという特徴がありますが、同時に南部には一級河川の渡良瀬川があり、毎年、流域の消防本部が合同で水難救助訓練をしています。昨年度は、ドローンを活用した捜索訓練も取り入れましたが、今後は他の消防機関との広域的な連携訓練の必要性を考えています。

蓬田 いまは消防組織以外でも、あらゆる業界で最新のテクノロジーを導入することで、組織の在り方や、仕事の進め方が変わっていくという面があると思っています。お話をうかがっていて、佐野市消防本部でもドローンによって業務が劇的に変化し、好転していくような印象を持ちました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

佐野市消防本部のドローン操作
佐野市消防本部ではMatrice 350 RTKを2名の操縦士で運用する。1名が機体の操作(写真奥)、もう1名がカメラの操作(写真手前)を担う。
Matrice 350 RTK
コントローラーは共通のものを使用する。

【佐野市消防本部ドローン導入概要】
■運用開始:令和5年12月20日
■導入機数:1機
■導入機種:DJI社製「Matrice 350 RTK」
■オプション装備:指向性スピーカー/物品投下装置
■操縦士数:6名(警防課3名、総務課1名、予防課2名)
 ※全員が二等無人航空機操縦士免許を取得

【佐野市消防本部概要】
■管轄面積:356.04㎢
■職員定数:157人
■消防署数:2署
■分署数:1署

VFR社・蓬田社長が答える!
将来的な消防ドローンの課題

VFR社・蓬田社長

蓬田和平

(よもぎた・かずたか)
三井住友銀行、マッキャンエリクソン、リクルートを経て、IoTデバイス開発メーカーにCOOとして参画。その後、2020年にDRONE FUNDに参画し、3号ファンドの新規投資をリード。2023年2月にVFR株式会社代表取締役社長に就任。
①消防本部(局)内の体制づくり・強化

ドローン活用の機会が増えることで、活用方法も多様化・高度化する。そうなると、消防本部(局)内でドローン活用を推進するための体制づくりが必須となる。ドキュメント類の整備が重要となるほか、関連部署や組織上層部への理解促進が必須となる。

②他組織との連係強化

大規模・広域災害への対応を考慮すれば、ドローン運用においても県や市という行政組織、警察組織、災害協定を結んだ民間組織などとの連係強化が将来的に課題となる。ドローンの運用当初から、他組織とどういった連携をすることがいいのか将来像を見据えた運用が求められる。

➂情報収集や意見交換の場

消防でドローンの活用が高度化・多様化するにつれ、今後は自所属以外のほかの消防本部との情報交換の場が必要になるのではないか。ドローンに関する自主勉強会、広域ブロックでのドローンの競技大会なども必要性が高まってくると考える。

令和5年12月20日よりドローンの運用を開始した栃木県佐野市消防本部の事例を、前回に引き続いて取り上げる。導入当初よりハイスペックな機体と装備を導入した佐野市消防本部。今後の活用方針やドローンの運用における課題などを国内ドローンメーカー「VFR」の代表取締役社長・蓬田和平氏との対談で紹介する。
写真◎幡原裕治 文◎榎本洋 Jレスキュー2024年7月号掲載記事

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