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高潮にのまれた救急車から決死の緊急脱出【湯河原町消防本部】
2018年7月25日に発生した台風12号で、湯河原町消防本部の救急隊が救急出動中に高波によって救急車が大破する事態に見舞われた。
写真・文◎小貝哲夫
Jレスキュー2018年11月号掲載記事
「逆走台風」の接近
2018年(平成30年)7月25日に発生した台風12号は、日本列島を覆った太平洋高気圧とチベット高気圧のダブル高気圧に行く手を阻まれ、東から西へと移動する異例のルートを辿り、“逆走台風”と呼ばれた。気象庁は「通常とは異なる地域で被害が発生する」として注意喚起。満潮時とタイミングが重なるため、東側に開けた湾や海岸線ではさらなる注意が必要としていた。
7月28日、神奈川県南西部に位置する湯河原町消防本部では、増員して警戒体勢を敷いていた。この日の18時05分、73歳男性が発熱との救急要請があり、奥湯河原分署救急隊が出場。傷病者と関係者2名の計3名を小田原市内の病院へ搬送することを決定した。小田原方面へのルートは、海岸線を走る135号線と山側の740号線の2つがある。740号線はカーブが連続し、距離以上に時間を要するため、135号線を選んだ。
海に引き込まれるか、脱出か
日没後の19時16分、救急隊長から「高波を受けて脱輪し走行不能」との連絡が消防本部に入る。小田原市消防本部へ傷病者搬送を応援要請し、状況確認と救急車の回収のため、指揮隊1隊が19時23分に出場した。ほぼ時を同じくして19時30分、国道135号線湯河原町吉浜舟付交差点~石橋間が通行止めに。19時35分、路肩に停車する一般車両の横をすり抜けて現着した指揮隊長の消防司令・髙吉裕二湯河原消防署長は当時の様子をこう語る。
「警戒はしていたが、想像をはるかに越えた光景だった。高波が次々と道路上に上がり、巻き込まれた一般車両が波にゆられて衝突する恐れがあった。そこで真鶴側の開けた道路まで後退したが、そこまで大波が押し寄せた」
救急車が高波を受けた地点は、ちょうど海岸線の岩がなだらかなスロープ状になっており、波が上がりやすい場所。指揮隊の2名を逃げ遅れ者の避難に従事させ、髙吉はひとり現場に残った。救急車内の無線は流れ込んだ海水で使用不能となり、救急隊員の持つ携帯電話が唯一の連絡手段だった。連絡を取りあうことはできたが、辺りは暗く、カーブで死角となっていたこともあり、救急車は目視できなかった。
指揮車は自力で避難してきた男性2名を乗せた途中、漂流車両内に残っていた3名を救出。安全な真鶴分署へと避難させ、さらに現場へ折り返して4名を避難させた。
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走行不能になった救急車から脱出