水難救助車 島尻消防、清掃組合消防本部

日本の消防車両

水難救助車 島尻消防、清掃組合消防本部

島尻消防、清掃組合消防本部 島尻消防署[沖縄県]
(現・島尻消防組合消防本部、消防本部名は取材当時のもの)

写真・文◎吉田直人
「日本の消防車2017」掲載記事

Twitter Facebook LINE
出場に要する時間を5分以上短縮

島尻消防、清掃組合消防本部(現・島尻消防組合消防本部)は沖縄本島南部の南城市と八重瀬町を管轄としている。この地域は自然環境に恵まれており、海岸線も長いため美しいビーチがいくつもある。特に夏場はこうしたビーチで多くの人が海水浴やマリンスポーツを楽しんでおり、なおかつ近年の入域観光客数の増加で海の事故は増加傾向にある。

一方、この地域は農業地帯であり、ゴルフ場も多く、農業用ダムやゴルフ場の池への転落事故もある。こうした背景から同本部における水難救助体制の強化は重要な課題になっていた。

そこで2015年(平成27年)3月に新規導入したのが水難救助車である。この車両の導入で、同消防本部の水難救助体制は大きく変わった。従来は出場命令があった際には署でウエットスーツに着替えて装備を整え、資機材をトラックに積んで出場するので出場までに平均8分ほどかかっていたという。それが専用車両の導入により、移動中の車内で着替えたり装備を整えたりできるようになったため、3分以内で出場可能となった。

水難救助車
四輪駆動方式を採用。岩場のような起伏の激しい地面や、港によくあるきついスロープなどにも対応できるよう最低地上高を上げ、車体後部のデパーチャーアングルを深く取っている。
コストを抑えつつ機能を高める工夫

ベースとなるシャーシは5.5tを採用している。利便性や居住性を考えるとバス型の方がよかったかもしれないが、コスト面の問題で見送られた。しかし、その代わりにさまざまな工夫が凝らされている。その一例がキャブと後部をつなぐ窓。といってもガラスが張られていないのでトンネルに近い形状だ。これがあることによって運転室と後部で隊員同士のコミュニケーションが取りやすくなっている。助手席に座る隊長の話が直接聞けるので、隊員は着替えながら作戦に関する指示を受けることができ、意思統一もしっかり図れるようになったという。

また、隊員が座ったり着替えたりする後部には普通のエアコンではなく冷凍ユニットが装備されている。これは冷凍車などに積まれているもので、沖縄の強烈な暑さの中で活動する隊員の快適性だけでなく体調面も考慮した仕様だ。

こうした工夫により、バスタイプに近い機能性や居住性を持つ、コストパフォーマンスに優れた水難救助車に仕上がっている。

一方、資機材面でも新装備をかなりそろえている。たとえば移動式コンプレッサー。従来はボンベ充填のためにいったん本部へ戻り、それから現場にとんぼ返りしていたが、これを装備したため現場で充填できるようになり、手間と時間が大幅に節減されることになる。

汚染水対策マスクはレギュレータを口でくわえるタイプではなく、フルフェイスとして顔とマスクの間が空気で満たされるようになっている。これにより汚染水が潜水中の隊員の口中に侵入する可能性が少なくなった。

美しい海はもちろん、ヘドロで視界がほとんど効かない港湾内、農業用ダム、ゴルフ場の池、果ては古井戸まで、あらゆる現場において隊員が能力を最大限に発揮し、かつ彼らの身体も守るベース車両として、その活躍が大いに期待されている。

右側面
水難救助車
車両右側面には移動式のコンプレッサーやボンベなどを積載。隊員用の座席があるあたりにつけられた窓が特徴的だ。
左側面
水難救助車
車両左側面にはウエットスーツやマスクなど、主に隊員の個人装備品が積まれている。最後部には温水シャワーユニットも。
エクステリア
水難救助車
後部にもドアが設置され、車内への出入りが便利になっている。
水難救助車
前部ナンバープレートの裏側には3tのウインチを装備。浮上させた水没車を引っ張るなどの運用法が想定されている。
水難救助車
ルーフ上は広いスペースが取られており、小型のゴムボートが収容できる他、高さを活かした見張り台としても機能する。
水難救助車
車両上部には水没車回収用のリフトバックを装備。水没した車に引っかけ、隊員が背負っているボンベから空気を入れ、ふくらませて浮上させる。
水難救助車
コンパクトな車両にした恩恵として、後部にPWC(ジェットスキー)を牽引して現場へ出動することが可能になった。

次のページ:
車内・Wear&Tools

Ranking ランキング