【救急隊員の身体的負担の軽減に繋がる一手】ストレッチャーの電動化で変わる救急現場

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【救急隊員の身体的負担の軽減に繋がる一手】ストレッチャーの電動化で変わる救急現場

今年3月、総務省消防庁から『高規格救急自動車への電動ストレッチャー導入の取扱いについて』という事務連絡文書が各都道府県宛に発出された。電動ストレッチャーは救急隊員の身体的負担の軽減等につながる資器材として、救急関係者の関心が高まっており、『令和4年度救急業務のあり方に関する検討会』において、高規格救急自動車への導入について検討された。今回の事務連絡の発出に携わった方に、電動ストレッチャーの導入の検討を促進する意図を訊いた。

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現行の手動ストレッチャーと 電動ストレッチャーを 並列の選択肢に

総務省消防庁救急企画室は、電動ストレッチャーの有用性に鑑み、その導入について検討されるよう、2024年3月15日に『高規格救急自動車への電動ストレッチャー導入の取扱いについて』という事務連絡文書を各都道府県宛に発出した。

この事務連絡文書は、『令和4年度救急業務のあり方に関する検討会』で行われた『高規格救急自動車への電動ストレッチャー導入に係る検討』の結果等を受け、都道府県や市町村に電動ストレッチャーの導入について検討してもらうためのものだ。今回の事務連絡文書の発出に携わった一人が救急企画室の白坂浩明救急推進係長である。

今回お話を伺った総務省消防庁 救急企画室救急推進係長である白坂浩明さん。

「高規格救急自動車の仕様については、2006年(平成18年)に財団法人日本消防設備安全センターが設置した『高規格救急自動車標準仕様検討委員会』による『高規格の救急自動車標準仕様検討報告書』で標準的な仕様のあり方(以下「標準的な仕様」という)が提案され、総務省消防庁から周知を行いました。電動ストレッチャーはこの検討当時になかった資器材であるため、『令和4年度救急業務のあり方に関する検討会』にて、高規格救急自動車への導入に係る検討を実施し、令和5年度には、総務省消防庁において、電動ストレッチャーの防振機能に関する検証を行いました。その結果、現行の手動ストレッチャー(以下「現行ストレッチャー」という)と同様、電動ストレッチャーも高規格の救急自動車に積載するものとして取り扱って差し支えないことが確認できたことから、事務連絡を発出しました」(白坂)
 
令和4年度の検討会で検討項目とされたのが、①左右移動が可能な構造(以下「左右移動機能」という)に関する検討、②振動及び水平方向の加速度を減衰させる構造(以下「防振機能」という)に関する検討、この2項目だった。
 
①については、平成3年に財団法人消防科学総合センターが設置した『救急自動車及び救急資器材の構造改善等検討委員会』による『救急自動車及び救急資器材の構造改善等検討委員会報告書』において、左右移動機能によりベッドの左右に一定以上の空間が確保できることを求めており、これは、車内の限られたスペースを活用して、適切な応急処置等を支障なく実施できることを目的としたものである。以降に示された標準的な仕様等でも、左右移動機能が継続して求められている。これらのことから、ストレッチャー架台の左右移動機能については、現行ストレッチャー架台の可動域や、救急活動における実際の活用場面、左右移動機能がなかった場合の対応可否等を整理することにより検討を行うこととされ、左右移動機能の活用場面について、左右移動機能がない救急自動車で実施する場合の対応可否や代替案等について協力消防本部から聞き取り調査が行われ、検討が行われた。
 
左右移動ができない状況を想定し、対応可否を比較検討した結果、架台の設置位置、資器材の収納位置等の仕様書上の工夫や、傷病者の左右に隊員を配置し行っていた処置・対応に対する片側からの実施や代替案による工夫、想定される状況に応じた日常訓練の充実など、各消防本部の実情に応じて、十分な工夫が検討されることを前提に、対応可能な場面も多いと考えられ、必ずしも全ての車両の架台が左右移動機能を保持しないとしても、救急活動自体に支障をきたすとは考えにくいとされた。
 
電動ストレッチャー導入にかかわる左右移動機能の考え方について、まず、現行ストレッチャー架台に求める左右移動機能については、その有用性に鑑みて、電動ストレッチャーにおいても原則として備えるべき機能であると考えるとされた。一方で、各消防本部の実情に応じて、十分な工夫が検討されるとともに、救急隊員の活動等において支障がないと認められる場合にあっては、例外的に架台に左右移動機能を有していない場合でも、現行ストレッチャーと同様に、高規格救急自動車に積載するものとして取り扱って差し支えないと考えるとされた。

モーターと油圧シリンダーによる駆動システムで、寝台部分の昇降と車内への搬入出が可能となる電動ストレッチャー。従来の人力による動作が省略できるため、救急隊員の業務負担軽減につながる資器材として注目を浴びている。(写真/幡原裕治)

②について、既存のストレッチャーに対して求められている〝振動及び水平方向の加速度を減衰させる構造〟については、搬送中の振動等による傷病者への負担を軽減させる目的であり、これまでの蓄積のもとに性能が確保されている。電動ストレッチャーの防振機能については、現行ストレッチャー架台において確保されてきた性能とおおむね同等の目安をもって一定の確認ができるのであれば、現行ストレッチャーと同様に高規格救急自動車に積載するものとして取り扱って差し支えないと考えるとされた。それを踏まえ、令和5年度、消防本部にすでに導入実績のある電動ストレッチャーの機種について、防振機能に関する検証を総務省消防庁において実施された。検証では、現行のストレッチャーの架台に確保されてきた性能を測定し、電動ストレッチャーと比較を行った結果、おおむね同等の防振性能を満たすものと確認された。

「左右移動機能と防振機能は、標準的な仕様において現行ストレッチャーの架台に求められている性能です。これらの機能は、令和4年度の検討会でも検討され、電動ストレッチャーの防振機能に関しては、総務省消防庁において令和5年度に検証を実施しました。これらに基づき、高規格救急自動車への電動ストレッチャー導入の取扱については、電動ストレッチャーも現行ストレッチャーと同様に高規格救急自動車に積載するものとして取り扱うとしました。令和5年度の検証を行ったのは、令和4年度の検討会報告書において、電動ストレッチャーの防振機能について、現行ストレッチャー架台において確保されてきた性能とおおむね同等の目安をもって一定の確認ができれば、現行ストレッチャーと同様に高規格の救急自動車に積載するものとして取扱って差し支えないとされたためです。電動ストレッチャーの防振機能について総務省消防庁で検証することが、消防本部が電動ストレッチャーを選択することが可能になるうえで必要だと考えました。現行ストレッチャーに利点を感じるか、電動ストレッチャーに利点を感じるかは、それぞれの消防本部の実情によって異なると思います。この度、電動ストレッチャーも現行ストレッチャーと同様に、高規格救急自動車に積載するものとして取り扱って差し支えないことが確認できたので、今後は電動ストレッチャーもストレッチャーの一つの選択肢として、消防本部で検討してもらえるようになったのではないかと思います」(白坂)

多くの消防本部が電動ストレッチャーに必要性を感じている

『令和5年度救急業務のあり方に関する検討会(第3回)』において全国722消防本部に対して実施した『「救急救命体制の整備・充実に関する調査」及び「メディカルコントロール体制等の実態に関する調査」結果』が参考資料として提示された。この中で、『救急資器材について』という調査で《貴本部の電動ストレッチャー導入状況について、1つ選んでください》という調査項目があり、《導入している》、《導入を予定している》、《導入予定はないが、必要性はある》と回答した消防本部の合計は全体の7割以上に上る(図1)。

消防本部の電動ストレッチャーの導入状況の円グラフ
消防本部の電動ストレッチャーの導入状況(2023 年8月1日時点、「救急救命体制の整備・充実に関する調査」及び「メディカルコントロール体制等の実態に関する調査」結果をもとに作成)

そのうち、理由としては、《救急隊員の負担軽減》と《女性救急隊員の活躍推進》が多くの割合を占める(図2)

電動ストレッチャーを必要とする理由
電動ストレッチャーを必要とする理由(2023 年8月1日時点、「救急救命体制の整備・充実に関する調査」及び「メディカルコントロール体制等の実態に関する調査」結果をもとに作成)

「電動ストレッチャーに関する調査を全国の消防本部に対して進める過程で、一部の消防本部では『積雪時の対応への懸念がある』という意見が少数ながらありました。実際に積雪のある地域で電動ストレッチャーを導入している消防本部に聞き取りを行ったところ、電動ストレッチャーの方が雪道では推進力があるかと思うという意見もありました。また、育児休暇明けの女性救急隊員や、高齢の救急隊員を配置する救急隊に電動ストレッチャーを導入し、身体的負担の軽減につなげたいという意見もありました」(白坂)
 
救急企画室では、電動ストレッチャーを導入している消防本部から留意点や活用事例等の情報を収集し、全国の消防本部に情報提供していくことを検討している。

今年3月、総務省消防庁から『高規格救急自動車への電動ストレッチャー導入の取扱いについて』という事務連絡文書が各都道府県宛に発出された。電動ストレッチャーは救急隊員の身体的負担の軽減等につながる資器材として、救急関係者の関心が高まっており、『令和4年度救急業務のあり方に関する検討会』において、高規格救急自動車への導入について検討された。今回の事務連絡の発出に携わった方に、電動ストレッチャーの導入の検討を促進する意図を訊いた。

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