救助工作車Ⅲ型 明石市消防局

日本の消防車両

救助工作車Ⅲ型 明石市消防局

明石市消防局 明石市消防署[兵庫県]

写真◎井上タケシ(Photo Ape)
日本の消防車2020 掲載記事

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ラッピング×LINE-X!
明石消防が日本の消防車に新風を吹き込む

朱色塗装をラッピングに変える

これまでにない斬新な外観で今年注目を集めているのが、明石市消防局が平成31年3月に更新した救助工作車Ⅲ型だ。

明石市は東西約15.6㎞、南北約9.4㎞、面積49.2㎢の横長地形で、南は瀬戸内海に面し、昔ながらの漁師の街並みや工場が密集している人工島があり、東側には住宅密集地、西側は農地が広がる。人口は5年連続で増加し、平成31年4月現在で約30万3千人の中核市である。

明石市の救助隊は東西に各1隊、東方面は特別救助隊、西方面は高度救助隊を配置しており、本車両は高度救助隊運用車「明石救助1」の更新車両となる。同局における救助工作車の今回の更新スパンは20年で、平成11年度以来の更新となった。

「明石救助1」の最大の特徴は、消防車では全国初となる朱色のラッピングシールの採用である。消防車両の朱色塗装は紫外線の影響などもあり10年経つとかなり色あせてしまい、同局では10年に1回行うオーバーホールのタイミングで塗り直しを行なっていた。しかし、普通乗用車やバスに目を向けてみると、ラッピングによるカラーリングが普及していることから、この点に着目した救助係長の吉岡利征消防司令はラッピングについて調べてみた。すると、市内にもラッピング業者があり、そこでの施工が可能であることが判明した。また艤装メーカーに詳しく聞いてみると、すでにドイツをはじめとするヨーロッパ系の消防車にはラッピング塗装が採用されているという。塗装方法をラッピングに変更すれば製造日数が短縮できるだけでなく、車体重量を軽くできるため、消防車両の過積載のリスク回避にも貢献する。そこで明石市消防局はラッピングを採用することにした。ただし、ラッピングの弱点として曲面になっている車体の角部分は剥げやすいため、その部分はあえて貼らないという選択をした結果、白ラインが各所に入るインパクトのある車体デザインとなった。これにより、メーカー側の作業工程が短縮され、コスト削減にもつながった。重量はオール塗料よりも約80㎏減となり、ちょっとした剥がれは市内の業者で対応可能にもなった。一方、使用頻度が高く、摩擦による剥がれが懸念されるシャッター部分や艤装後にラッピングができない箇所は従来からのペイント塗装としている。

外観で特徴的なのが、グリル部分やルーフ部分など各所にはいる白ライン。この部分はあえてラッピングの朱色を貼らずに、トラックのベース色である白色を活かしたもの。
外観で特徴的なのが、グリル部分やルーフ部分など各所にはいる白ライン。この部分はあえてラッピングの朱色を貼らずに、トラックのベース色である白色を活かしたもの。
長期使用を見据え、仕様書検討に若手も参加

本車両の更新にあたっては、約5年前から各本部に導入される新救助工作車の情報収集を行うことからスタートしていた。最近の傾向を参考にしながら、3年前に大まかな仕様書を救助係長が作成し、業者への概算見積もりを行い、本部内での方向性を決定。2年前に予算計上を行うと同時に救助係長を筆頭に今後運用に携わるであろう、現在の係長世代より約10歳若い隊員らも加えての委員会を立ち上げ仕様書を作成。たたき台となる仕様書を局の全救助隊員に回覧し、意見を募った。

まずシャーシ。先代車両は日野レンジャー7t級シャーシをベースとしたⅢ型で、積載スペースには省令第1表〜第3表のほとんどの資機材を積載していたが、積載量に対してエンジンのパワーが不足していた上、4WD(パートタイム式)で小回りが利かなかった。また通常のトラックキャブだったため、現場到着後の迅速な初動のためのキャブ内での装備着装が容易でなかったことから、バス型キャブの仕様を検討。

同車は平成13年に管内で発生した明石花火大会歩道橋事故のほか、平成16年台風23号兵庫県豊岡市水害、平成17年福知山線脱線事故、平成23年の東日本大震災などで活躍し、走行距離は10万㎞にも及んだ。しかし東日本大震災の東北派遣の際は、あらゆる資機材を持って行ったが、車両自体が重く、パワーがないため遠距離走行に不安と車両レスポンスにストレスがあった。また最近の主要な救助工作車は5.5tシャーシだが、排ガス規制関係の装備や車両自体の基準改正で積載スペースは激減し、エンジンもパワー不足が懸念された。そこで、長期間の運用に耐え、高度救助隊としての多数の資機材を積載でき、緊援隊として派遣先での運用ができるシャーシや資機材の選択を重要視し、8t級大型トラックシャーシを検討。福岡県久留米市消防本部に8t級の採用実績があったため、同本部協力のもと実車の見学および当局の先代7tシャーシとの比較を行い、日野の新型「プロフィア」を選定した。緊援隊仕様といえば四駆が定番だが、管内の地域特性や通常運用を重視し、また近年はスタッドレスタイヤの性能が向上していることも考慮し、雪道にも対応可能と判断して二駆とした。

これにより、車幅は7tシャーシの先代より3センチ広くなるが、二駆のため小回り性能が向上。積載スペースは先代と同等を確保でき、エンジンのパワー不足も解消した。さらにバス型キャブ仕様としたことで居住性が向上し、現場到着までの初動準備が容易になった。

車体は3M社製のラッピング用途フィルム「ラップフィルムシリーズ1080-G13」でキャブとボディをラッピングしている。
色のバリエーションが豊富で、従来のペンキ塗装とほぼ同じ色が商品化されていた。
車体は3M社製のラッピング用途フィルム「ラップフィルムシリーズ1080-G13」でキャブとボディをラッピングしている。色のバリエーションが豊富で、従来のペンキ塗装とほぼ同じ色が商品化されていた。
LINE-Xで足回りを固める

外観をワイルドな印象にしているもう一つの特徴的な艤装は、バンパーと一部ボディ、開閉式ステップ面など接触負荷部分に施工した黒い高性能ポリウレアコーティング特殊加工塗装「LINE-X」だ。これは耐摩耗性に加え、海に面する明石では防サビ対策になる。全国的に平成30年度の新車両でちらほら見かけられ、東北地方より南側では初となる施工だ。

また塩害対策として、サビが溝から発生することから、板金と板金の間をパテ埋めし、ふき取るだけで簡単にメンテナンスできるようにしている。新型プロフィアにラッピング塗装、LINE-Xと、外見に目が行きがちな車両だが、仕様の細部には、考え抜かれた「耐久性のための工夫」が施されている。

フロントバンパー部分は前面に黒い高性能ポリウレアコーティング特殊加工塗装「LINE-X」を施した。耐摩耗性に加え、防サビ対策になる。
フロントバンパー部分は前面に黒い高性能ポリウレアコーティング特殊加工塗装「LINE-X」を施した。耐摩耗性に加え、防サビ対策になる。
タイヤ周りのスカート部にもLINE-Xを施工。
タイヤ周りのスカート部にもLINE-Xを施工。
開閉式ステップ面など接触負荷部分にもLINE-Xを施工。滑り止めにもなる。
開閉式ステップ面など接触負荷部分にもLINE-Xを施工。滑り止めにもなる。
ツール積載の基軸は「取り出しやすさ」

積載方法の工夫は、重量物であればあるほど容易に取りだせ、収納しやすくすることをベースに独自仕様を考案。電動の大型油圧救助器具やカラーコーンは棚から斜めに引き出せる倒伏するラックを採用。展開棚は、その奥の資機材を取り出しやすくするため、軸側の裏面角をなくし、さらに展開角を通常90度のところ93度まで広げて開口幅を広く、出し入れを容易にした。

車両上部に積載した資機材は、車体角に資機材が干渉しないよう、角部分に展開式のローラーバーを考案し設置した。資機材のレイアウトは、明石市では車両右側に現場で使用する初動ツールを配置し、機関員用の呼吸器や潜水器具等の個人装備の積載スペースを確保した。

車両更新と合わせて電動ウインチ、バッテリー式電動工具一式(丸鋸、グラインダ、ハンマードリル、レシプロソー、チェーンソー、インパクトドライバ)、水中スクーター、ハズマットID(化学物質同定装置)を最新式に更新。また空気式工具の使用や資機材のメンテナンス用にコンプレッサーも積載した。電動式油圧切断器と熱画像直視装置は、2名2組で活動するため各2基積載とした。

ウインチはロッツラーの前後式TR030/7(前7t、後14t)。
ウインチはロッツラーの前後式TR030/7(前7t、後14t)。
ウインチ動力ユニットは1つ
シャーシに固定した滑車による前後併用型
ウインチ動力ユニットは1つだが、シャーシに固定した滑車による前後併用型としている。
長期間使えるクルマであること

既述のとおり、明石市消防局における救助工作車の更新スパンは長期に渡る。車両を更新する際は、その間のメンテナンスまで考慮しておかなければならない。本車両の仕様書作成を担当した吉岡利征消防司令は、とにかく耐久性にこだわった。

「明石市消防局が考える〈耐久性〉とは、車両それ自体が壊れないということではない。次回の更新まで時代の変化に対応しうること、メンテナンスが容易かつ、低コストであること。それが本当の意味で長期間使える車なのだ」(吉岡)

本車両には、車両の艤装から資機材選定に至るまですべてに対してその思想が貫かれている。

クレーンは古河ユニック製のURG504。4段式で最大約3tの吊り上げが可能。
クレーンは古河ユニック製のURG504。4段式で最大約3tの吊り上げが可能。
アウトリガーの敷板は、設定が容易な磁石式を採用。
アウトリガーの敷板は、設定が容易な磁石式を採用。
三連はしご昇降装置は手動式のLL-Ⅱを採用。
三連はしご昇降装置は手動式のLL-Ⅱを採用。

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