30m級先端屈折式はしご付消防自動車<br>長生郡市広域市町村圏組合消防本部

日本の消防車両

30m級先端屈折式はしご付消防自動車
長生郡市広域市町村圏組合消防本部

長生郡市広域市町村圏組合消防本部 中央消防署[千葉県]

写真・文◎岩澤芳紘
Jレスキュー2021年9月号掲載記事

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初動対応の迅速化とランニングコストの削減を実現!

運用年数の長いはしご車特有の課題

 長生郡市広域市町村圏組合消防本部(以下、長生郡市消防本部)は、千葉県の中央部に位置し、茂原市を中心とする1市5町1村を管轄。圏域面積は約327㎢、人口約15万人で、九十九里平野や九十九里浜など豊かな自然に恵まれている地域である。この長生郡市消防本部が、令和2年度予算にて約25年ぶりに30m級はしご車の更新をすることになった。

 長生郡市消防本部は、以前まで40m級はしご車と30m級はしご車の2台体制で運用を続けていたが、はしご車は実災害での活動実績も少なく、ランニングコストの面から1台体制へと運用面の見直しを行っていた。しかし、まだ1台体制が決定していないタイミングでの車両更新計画であったことから、車両の仕様については、初動活動の迅速化とランニングコスト減の二点を優先した計画が進められた。

 一点目の初動活動の迅速化については、管轄区域内の中高層建築物は海側、山側と広く点在しており、はしご車が配備されている中央消防署から現場到着までに時間を要してしまうことから、現場到着後のはしご車の設定から活動開始までの時間短縮ができないかを考えた。

 マギルス製はしご車の梯子矯正はシリンダー式が採用されている。モリタ製はしご車に採用されているジャイロ式とそれぞれにメリットがあり、マギルスのシリンダー式は2本のシリンダーで矯正を行うため、設定までの時間が速いという長所がある。また、最新式マギルス製はしご車は、初動時における隊員のバスケット搭乗の際、キャブ前面(フロント)左側にバスケット搭乗ボタンを設けたことで、梯体を動かさずにバスケットを地上まで降ろして搭乗することが可能となっており、初動活動の迅速化が図れるようになった。

従前はしご車からの進化

 今回の更新では、先端屈折伸縮式を採用したことにより、架線や柵等の障害物を容易に乗り越えて対象物に接近できるようになり、より安全に要救助者の救出が可能となった。また、アウトリガーがバリオ式のため、ガードレール等の活動障害がある場合でも設置が可能となった。

 この他、一度救出箇所に設置すれば、レバー1方向操作で往復の救出活動が容易に可能になる梯体メモリー機能の搭載、担架の架台をバスケットに設置することにより自力歩行の困難な傷病者の担架での救出、放水機能では伸縮水路管による準備時間の短縮、自動放水機能およびバスケットに設置されたCCDカメラによる危険性の高い場所での無人による梯上放水が可能となった。

 近年では全国的にはしご車の新規導入は減少傾向にあり、維持費低減と費用対効果が求められている。長期にわたり運用するはしご車だからこそ、導入する消防本部も慎重だ。

車体
長正郡市消防本部
日野・プロフィアをベースシャーシに、フロントバンパーはマギルスの特徴であるパールホワイトと両側面には白ラインでデザインの統一性を図った。
長正郡市消防本部
後部には基部中央へ至る中継口を2口設置。左右にはシャックルを設けている。
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梯体の右側台座には発動発電機、消火器、バスケット担架、手動放水銃、ストレッチャーサポートを設置。主赤色警光灯と補助警光灯はウイレンで統一を図った。
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キャブ後部の資機材庫は、左側面のみ、とび口と梯体用昇降用はしごが、キャブとプラットホーム上ハイマウントロッカーの間に設置されている。
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リア中央の扉を開けると水圧力計がある。そのサイドにアウトリガー操作パネル。デッキ面にはLED作業灯と補助警光灯が内蔵されている。
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キャブ後部に設置されたハイマウントロッカー。チェーンソー、ロープ、脚立、ハンマー、無反動管槍などが収納されている。
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左側面側のハイマウントロッカーに収納されたチェーンソー。
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右側面側のハイマウントロッカーに収納された資機材。
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マギルス製はしご車の特長となるバリオ式ジャッキを張った状態。部署位置により2.4mから5.2mの間で無段階に張り出すことが可能で、張り出しは幅によって梯体の作業範囲が自動的に設定される。
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照明装置は、投光器としても使用できるカネコの信号機付投光器(LED式)一式を装備している。
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キャブ内のバス型手すりは、掴む場所をオレンジ色で識別できるようにしている。収納ボックスはレイアウトの変更が可能。
梯体装備
長正郡市消防本部
先端を屈折し、伸縮可動部が展開した状態で搭乗が可能となる。
長正郡市消防本部
マギルス製はしご車の最新装備であるキャビン左前方に設置されたバスケット搭乗ボタン。アウトリガーを張り、操作台の隊員と合図を取りながらバスケット搭乗準備を進める。
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はしご作業用照明灯は、LED式作業照明灯を随所に配置し、夜間作業時はもちろん、朝昼夕時間帯や降雨時でも照明を点灯させ、隊員の安全管理はもちろん、各種災害時要救助者の早期発見が可能となった。
長正郡市消防本部
モニターノズルは、バスケットに装備したカメラにより操作可能。バスケットの作業領域の監視ができ、また、バスケット内が無人でも基部操作席のモニターにカメラからの映像を表示することが可能なため、長時間にわたる消火活動時や、各種災害時における早期の現場状況の把握等に役立つ。
長正郡市消防本部
伸縮水路管はバスケット内に設置された中継口にホースを結合することで、屋内の消火活動に有効的である。
長正郡市消防本部
バスケットの左右には支柱にストレッチャーサポートを設置することにより、サポート上にバスケット担架を固定することができる。
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はしごクレーンとして使用可能なフックは黄色で塗装。許容荷重はバスケット有で2500N、無しで5000N。
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基部操作台は、梯体の起伏角度に連動して座席も可動するため、操縦する隊員の視界をサポートする。基部操作台には、記憶モードおよびリバース機能を搭載。0.1秒間隔で動作位置を記録することが可能。また、記憶した動作を逆の手順で実行させることができるため、動作を記憶後はボタン操作のみで同じ動作を繰り返し行うことができ、操作隊員のストレスが減り作業効率が向上している。
取材にご対応いただいた方
長正郡市消防本部
車両の設計と製作を担当した左から、消防司令・丸宏史、消防司令補・山﨑聡。
長正郡市消防本部
はしご車を運用する長生郡市消防本部中央消防署の隊員の皆さん。
長正郡市消防本部
【SPECIFICATIONS】

車名 日野
通称名 プロフィア
シャーシ型式 2DG-FR1AJA改
全長 10750㎜
全幅 2490㎜
全高 3400㎜
ホイルベース 5900㎜
最小回転半径 8.5m
車両総重量 18650㎏
乗車定員 6名
原動機型式 A09C
総排気量 8860㏄
駆動方式 6×2
はしご最大地上高 30.5m(5連)
梯体装備 バスケット、先端屈折機構、伸縮水管
配備年月日 令和3年3月25日
艤装メーカー モリタテクノス

長生郡市広域市町村圏組合消防本部 中央消防署[千葉県]
写真・文◎岩澤芳紘 Jレスキュー2021年9月号掲載記事

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