排水ポンプ車 国土交通省
国土交通省を代表する災害対策用機材
消防ポンプ車を凌駕する排水量で水害の被災地を強力に支援する
写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2020年5月号掲載記事
排水ポンプ車の排水能力は消防ポンプ車30台分!
大型河川の氾濫、堤防の決壊などにより、住宅地の浸水、道路の冠水など大規模な水害に見舞われた場合、その流入した水が引かなければ救助活動、捜索活動、復旧活動などあらゆる活動が能率よく進まない。
丘陵地帯などでは豪雨など洪水の元となった気象条件さえ快方に向かえば、水は自然とはけていく。ところが、平地や低所では、流入した水は何らかの方法で排水しなければ、そこにずっとあり続ける。そして、水はあらゆる活動の障害になり続けることになる。
その流入した水を排水する機材が排水ポンプだ。国土交通省(以下、国交省)では大規模水害に備えて全国各地の地方整備局等に災害対策用機械として、排水ポンプを搭載した排水ポンプ車を計355台配置している。
排水ポンプはその名のとおり、排水するためのポンプだが、一般の消防ポンプと比べて、ポンプ装置の機構自体は大きく変わらない。何らかの動力源を確保してポンプ装置を回し、送水するという点で同じと考えていい。
ただし、排水ポンプ車は、排水する水量が半端ではない。国交省が保有している主な排水ポンプ車には1分間に30〜60㎥の排水作業を行える能力がある。もちろん、排水ポンプ車1台当たり1基のポンプ装置ではなく、複数基のポンプ装置を積載しているのだが、搭載するポンプ装置の能力を合計してこれだけの排水能力となる。
消防ポンプ車でもっとも一般的なA-2級消防ポンプの場合、規定放水圧力0.85MPaで規定放水量は1分間に2㎥以上、大型化学車などに積載された、より大型のA-1級の場合でも、同じく1分間に2.8㎥以上と決められている。
消防ポンプ車の場合は、消防隊が狙った箇所に放水する、1台のポンプから複数の線を確保する、泡消火薬剤を混合するなど、ただ水を流すだけではない水力タービンポンプのため、一概には比較できるものではない。これを踏まえた上で、乱暴に比較してしまえば、取材した1分間当たり60㎥の排水ポンプ車のこの排水容量は、多くの普通消防ポンプ車30台分に相当することになる。
「ギガ」シャーシに8基の排水ポンプ
国土交通省 関東地方整備局 関東技術事務所に配置されている「排水ポンプ車60㎥/分」は、同省が保有する最大級容量の排水ポンプ車の1台。
シャーシはいすゞ「ギガ」6×4で、シングルキャブの後方に8基の排水ポンプと発動発電機が搭載されている。
ポンプ1台当たりの排水量は1分間当たり7.5㎥。ポンプ装置は可搬タイプの水中モーターポンプで、本体重量が1基当たり約35㎏にまで軽量化されているため、現場では人力での搬送が可能となっている。このポンプを8基搭載することにより、合計排水容量は1分間当たり60㎥となる。
このポンプは水深1mあればポンプの設置が可能で、消防車両に設置される水力タービンポンプと異なり、設置箇所からダイレクトに送水が可能になる。ポンプ装置の側面から吸水し、モーター駆動する羽根車によって呼び径200mmという大口径の吐出口から吐水する。全揚程10mの場合、所定の能力が発揮されることになる。
ポンプ装置の動力源は発動発電機。250kVA容量の大型発電機で、車体の中央に設置される。機関はディーゼルエンジンで、燃料は軽油。燃料タンク容量に基づく無給油連続運転時間は8.6時間で、給油を行えば48時間の連続運転が可能とされている。
お話をうかがった方
珎道(ちんどう)昌宏さん
国土交通省 関東地方整備局
関東技術事務所 防災技術課 防災管理係長