30m級はしご付消防自動車 名古屋市消防局

日本の消防車両

30m級はしご付消防自動車 名古屋市消防局

名古屋市消防局 中川消防署[愛知県]

写真◎中井俊治
日本の消防車2020掲載記事

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イケメンすぎる!
名古屋消防のスカニア×マギルス

日本のはしご車界にスカニアトラック参戦

2019年、スウェーデンのトラックシャーシ「SCANIA(スカニア)」にドイツの消防車メーカー「MAGIRUS(マギルス)」のはしごを搭載したはしご車が日本に初めて入り、名古屋市消防局に納入された。

なぜマギルスをスカニアシャーシで作れたのか?

日本におけるマギルスはしご車の歴史を遡ると、日本導入当初から約10年前まではマギルス社のグループ会社であるイタリア「IVECO(イベコ)」のシャーシにマギルスのはしごを載せて日本に輸入するという形態が採られていた。しかし、世界で最も厳しいといわれる日本の排ガス規制(NOx・PM法)をイベコシャーシがクリアできなくなったため、この10年は「日野」や「いすゞ」といった日本製シャーシをドイツに船便で持ち込み、マギルス社ではしごを架装した状態で再び日本に輸送する方法がとられてきた。この状況を打破する案として、モリタテクノス(マギルス製はしご車の日本における艤装会社)は、外国製で唯一、日本の排ガス規制をクリアできるスカニアのトラックに目をつけた。(注:ベンツ社のエコニックも今後、日本の規制をクリアする見通し)。

そこで平成30年度更新の名古屋市消防局を担当することになったモリタテクノスでは、使用シャーシとしてスカニアのトラックカーゴを提案した。シャーシをスカニアにするメリットは、メーカーサイドとしては、シャーシの手配がスウェーデンからドイツへの陸送で済むので、日本からドイツまで船便で輸送することと比較して日数短縮や輸送コストの削減ができ、受注後の早い段階で設計、改造に取りかかることができることである。これにより車両の納期を約1ヵ月半短縮できることになる。また、名古屋市消防局が懸念していたメンテナンス面(アフターサービス)は、スカニアの正規ディーラーサービス工場が三重県の桑名にあることが決め手となった。更新するはしご車を置く中川消防署から桑名への交通アクセスが比較的良く、シャーシに不具合があってもすぐに修理に入れると判断し、メーカーと協議の上で名古屋市消防局がスカニアトラックの使用にゴーサインを出した。

ベンツやイベコのクルマはヨーロッパにおいては庶民的な車両という位置付けだが、スカニアはヨーロッパにおいてもプレミアムなトラックの位置付けで、パワー、性能、品質の高さに定評がある。またキャブサイズが大きく居住性が高いという特性がある。しかもメーカーのラインナップに最初からフルキャブ(ダブルキャブ)があるので、日本のトラックのように消防車用にシングルキャブからダブルキャブに改造する必要がないというのも製造工程の短縮に繋がる。エンジンは410馬力。トラスミッションは同社のAT(構造はMTだがオートマのようにギアが自動で動く構造)。3軸で後輪ステアリングの4WSのため、小回りが利くようになった。

名古屋市の30m級はしごはオール先端屈折に

名古屋市消防局のはしご車は、30mを12台、40mを3台、50mを1台保有し、市内16区それぞれに1台を配置している他、15mのはしご車も6台配備している。また、30mはしご車は先端屈折型での仕様の統一を図っており、この更新により名古屋市消防局の30mはしご車はすべて先端屈折タイプに統一された。

スカニアシャーシは先述の通りキャブのサイズが大きく、窓が広く、サイドミラーも大きい。また日野×マギルスやイベコ×マギルスのはしご車では、バスケットの一部がフロント上方にかぶっていたが、スカニアのシャーシではバスケットのかぶりがなくなり、走行時の視認性が向上している。一方、キャブが大きくなった代償として、先代車両(モリタ製)では装備できていたキャブ後方の収納ボックスが設定できなくなった。しかし、はしご車自体がそれほど収納スペースを必要とする車種ではないことから、運用には影響していない。

マギルスはしごの進化

はしご部分は、マギルス社の30m先端屈折、屈折部伸縮仕様を採用。先端屈折部分は最大75度屈折し、さらに最大1・2m伸縮するので、はしご車が建物のフェンスを屈折によって乗り越えた後、さらにバスケット部を下げて、要救助者が乗り降りしやすくできる。こうした微調整は、梯体基部の操作台側がデッドマンペダルを踏むことで、バスケット側で自在に操作できるようになる。またマギルスの新機能として、はしごの伸梯に応じて基部の操作台が傾き、操作員が姿勢を大きく変えなくてもはしご先端を目視で確認できるようになった。

はしごは水路管付きで、バスケット部に電動放水銃が備わる。この放水銃は遠隔操作で前後左右に動かせるので、車体リア部の送水管にホースを接続するだけで、水路管を伝ってすばやく火に向かって放水することが可能だ。

このはしご車を実際に操作している中川消防署警防地域第二課の定廣智明消防司令補に使用感を伺った。
「先代のモリタ製と比較すると、操作方法はモリタ製の方がシンプルで、マギルスは装置が多く難しい。例えば基部からバスケットへの通話は、ボタンを押さないと通じないが、一方でマギルス製は作業姿勢までにかかる時間は部署から約30秒と速く、旋回も速いにも関わらず揺れが少ない。安全装置については、キャブ保護の離隔距離が短く(操作可能範囲が広い)、バスケット保護がないため、今まで着梯できなかった場所に着梯することができる。それはある意味、モリタ製に比べ機械的に安全を確保する機能が少ないということなので、安全面では扱う側に委ねられている部分が多いと感じるが、車両特性を理解すれば守備範囲は広く、スピード、操作性も備え、救助活動にとても向いている車両だと思う。これまで運転したことのない車だったので、配置直後ははしご操作よりも走行訓練を重点的に行った。先代車両もよく走っていたが、新型もよく走り、乗り心地もいい。キャブ内が広く、後列シートでも道案内等が行いやすい。搭乗3日で好きになりました(笑)」(定廣)

2020年現在、日本初で国内唯一のスカニアシャーシのはしご車。外国顔の外観も相まって、はしご車ファンの人気も高いが、はしご車更新が近づいている消防本部からの注目度も高い一台である。

外観

消防車
ヨーロッパのハイクラストラック「スカニア」に名古屋市の蛍光朱色で塗装された30m級はしご車。
消防車
バックビュー。後方に伸縮水路管の構造が見える。
消防車
大きなグリルに切り立ったフロントウインドウがスカニア車の特徴。
消防車
右側面側の梯体基部には資機材が装備されている。
消防車
左側面側の梯体基部には操作台がある。
消防車
リアの洗練された操作部。操作盤は開閉式で、通常はカバーで覆われている。ナンバープレートの下に送水管が2口。

ジャッキ

消防車
マギルス車の特徴であるバリオ式ジャッキ。低角度張出しのため、比較的狭い場所でも設定が可能。
消防車
張り出し幅は2.4~5.2m。張り出し幅に応じて、はしごの作業範囲はコンピューターで自動制御される。

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はしごを伸ばすとこんなにも迫力が!

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