救助工作車Ⅱ型 中間市消防本部

日本の消防車両

救助工作車Ⅱ型 中間市消防本部

中間市消防本部 中間市消防署(福岡県)

写真◎戸高慶一郎
文◎井谷麻矢可
日本の消防車2018年掲載記事

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管内特化型救助工作車
クレーンよりも活動スペースだ!

仕様書だけ先に作っておく

近年、全国的にバス型工作車が増加傾向にある。その採用理由の多くは、緊急消防援助隊などでの長距離移動をする際の隊員の負担軽減である。福岡県の中間市消防本部は2016年(平成28年)12月にバス型の救助工作車を更新配備したが、それは緊急消防援助隊を見据えてではなく、完全に管内の災害に特化した仕様となっていた。

中間市では、救助工作車の更新は通常約20年ごとの計画となっている。平成5年から運用していた先代車両は2013年(平成25年)ごろに更新を迎えるはずだったが、予算の関係からなかなか実現には至らなかった。その間、現場で車両を運用する隊員たちはただ手をこまねいていたわけではなかった。いつ予算が取れてもいいようにと、警防課警防係の安永秋徳消防司令補を中心に「理想の救助工作車」の仕様をあらかじめ作っておくことにしたのだ。同車は緊急消防援助隊登録車両ではないため、艤装の自由度が比較的高い。「管内のいかなる災害にも対応でき、次の更新までしっかり運用できる工作車」をコンセプトに掲げ、車両製作プロジェクトが始動した。

まず行ったのが、約20名いる救助隊員へのアンケートだった。アンケート内容は、現車の不便な点と、新たに欲しい装備や機能の2点。アンケートの結果や他本部の救助工作車を参考にしながら、隊員の理想を仕様書に落とし込んでいった。

救助工作車Ⅱ型 中間市消防本部
日野レンジャーFE型7tをベースに製作したバス型工作車。オールクリアレンズで他にはない統一感ある外観を作り出した。
若手に配慮したAT仕様

仕様書を作るうえで、どうしてもこだわりたかったのが、バス型にすることだった。中間市消防本部に救助工作車はこの1台しかなく、管内で発生するすべての救助事案に出動する。現場で事態が急変して隊員がその場で装備を着替えるという場面が過去に何度もあったため、隊員乗車室が広いバス型にすることで着替えスペースを確保したかったのだ。ハイルーフキャブにすれば、もちろんキャブ内の室内高は確保できるが、着替えとなるとそれなりの空間が必要となる。ハイルーフキャブというだけでは不十分だ。それに広い室内があれば火災時の事情聴取にも活用できる。バス型なら容積が増えるので、資機材の積載スペース拡大にも繋がる。

一方で、「バス型ではなく一般的なダブルキャブをハイルーフにして予算を抑え、余剰分を資機材の拡充にあてたほうがいいのでは?」という意見も出たが、安永消防司令補はバス型のメリットを熱心に説き、隊員たちを説得していった。

ベースとなるシャーシは、救助工作車によく使われる日野レンジャーGX型ではなく、FE型7tを採用した。FE型7tならば先代車両と同サイズでエンジン馬力を向上させることができる。またバス型に艤装する場合、通常3750㎜のホイルベースを4250㎜まで延長する必要があるが、FE型7tは登録規格が4250㎜なので車両総重量も14.5tまである。艤装時に大幅な改変を加えずに済み、ひずみが出にくい。最大の決め手となったのが、オートマチックトランスミッションで運転できる点だ。若い隊員らはMT(マニュアルトランスミッション)車に慣れていない者も多いため、AT車にすることで緊急走行時の安全管理をより確実なものにできると考えたのだ。

外観
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クレーンや三連はしごをなくしたことで、車上は非常にすっきりとしている。キャブ上にははしご車上伸梯用の丸形ストッパーも設置している。
救助工作車Ⅱ型 中間市消防本部
隊員乗車室へのアクセスドアは狭隘路対策として両側面とも折り戸を採用。
救助工作車Ⅱ型 中間市消防本部
左側面。シャッターデザインは中間市にある世界遺産「官営八幡製鉄所遠賀川水源地ポンプ室」のイラストとNAKAMAの文字。市のキャラクターである「なかっぱ」もいる。MとAの文字で119を表現している。
庫内をぶち抜くはしご収納

艤装面の最大の特徴はリアにある。通常車上に積載されている三連はしごが、同車ではなんとリア側から資機材庫のど真ん中をぶち抜いて長尺物とともに収納されているのだ。この位置に三連はしごを持ってきたのは、ひとえに車上をフラットにするためである。

中間市は先代車両の時代からクレーンを搭載しておらず、新車両も非搭載とした。あれば便利かもしれないが、管内で発生する救助事案への対応に関しては、これまでなくても特段困ることはなかったからだ。また、クレーンを搭載した場合、維持費用や産業用の免許取得費用などが必要となる。費用対効果の面でも、搭載する必要性は感じられなかった。だが活動においてハイポイントでアンカーを取らなければならない場面は多々ある。そのためにも車上の活動スペースは極力広く確保しておきたかった。そこで三連はしごを車内に収納して車上の無駄を省き、骨材を通常の1.5倍に増量した。そうすることで車上デッキの強度も上がり、一時的にアリゾナボーテックスを立てて支点取りするなどの活動が可能となった。

右側面
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右側面は、前部に一般救助系資機材、後部にロープレスキュー資機材を収納。後部スカートボックス内には車両火災用のオートハイドレックスも搭載している。
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エンジンカッターやチェーンソーはこれまで各々の燃料比率に合わせてオイルを調合していたが、それでは壊れやすかったため、車両の更新に併せてメーカーを統一し、燃料の汎用性を持たせた。
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三つ打ちロープラックは引き出し式。手前はパンチングボードにすることでカラビナ等をかけられるようにしている。奥の4段横置き収納棚はアリゾナボーテックスが置ける長さに設計し、最上段にアリゾナ、下段には袋に入れたスタティックロープ類を整然と並べている。
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クレーンの代替として、チルホールを積載している。
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今回こだわって採用したブローハード。折りたためるためスペースを取らず、電池内蔵型(AC電源からも使用可)のため静寂性、即効性に優れている。

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