空港用化学消防車 成田国際空港株式会社

日本の消防車両

空港用化学消防車 成田国際空港株式会社

空港用化学消防車 成田国際空港株式会社[千葉県]

写真・文◎伊藤久巳
「日本の消防車2017」掲載記事

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日本の空港用車両で初のブーム型放水銃

成田国際空港株式会社(以下、NAA)では空港用化学消防車2台の更新にあたり、米国オシュコシュ社製「ストライカー6×6」を導入した。

今回導入した消防車両の最大の特徴は、車上に高位置対応伸展型放水銃「HRET」(High Reach Extendable Turret:エイチレット)を装備したことだ。NAAを含め、これまでの国内に配備されている空港用化学消防車は車上に装備する主タレット(放水銃)の射台はすべて固定されているタイプだったが、同車では初めて主タレットにブームが備わった高位置対応伸展型放水銃「HRET」が搭載された。主タレット自体がブームにより最大地上高15.2m、最大回転半径10.5mの範囲で可動し、風の影響を軽減し、効率的・効果的な放水を実施できる。また、垂直尾翼にエンジンを架装している機種(MD‐11など)に対しても、ピンポイント放射することができる。

ちなみに15.2mという高さは、成田国際空港に就航しているボーイング747、エアバスA380といったダブルデッキタイプの大型機の垂直尾翼を除くすべての機種の胴体全高を上回る。

高位置だけでなく低位置から、あるいは前方位置からの放射も可能で、低位置からの放射は機体の下部に漏洩した燃料火災などに対し、直近からより効果的かつ安全に消火剤を放射することができる。これによって、従来は地上からハンドラインによって隊員が火点に接近して消火しなくてはならないケースでも、主タレットを低位置に下げることによって車内から消火剤放射を行うことができ、より安全な消火活動が確保されている。

空港用化学消防車 成田国際空港株式会社
成田国際空港化学3号車。高位置対応伸展型放水銃「HRET」を装備したオシュコシュ社製で平成28年6月1日、運用開始。
機体を貫通させて、内部も注水する

HRETにはもう一つ大きな機能が加わっている。それは穿孔ノズルだ。穿孔ノズルは、平時は主タレットに収納され、必要な場合には前方へと展張する仕組みになっており、機内の消火活動を行う際は、穿孔ノズルを展張させたのち、先端を航空機の胴体面に当て、そこからブームを伸ばすと、その油圧でノズルが胴体を貫通する。スノーズルタイプ方式と呼ばれており、貫通させる位置は旅客機で窓の上部25~30cm、貨物機で胴体を輪切りにした際の2時方向と10時方向(メインデッキ)、4時方向と8時方向(床下)が効果的である。これにより、キャビンで火災が発生している際にはドアを開放するよりも早く効果的な消火活動が可能になる。航空機火災で、内部の消火を行うというのは緊急を要する事態のため、貫通位置は被害を最小減に喰い止められるように計算した位置が指定されている。

従来とは大きく異なるHRET付き車両を運用するため、NAA消防ではアメリカのダラスフォートワース空港にある消防研究センターに管理者、隊員12名を派遣し、同車両の消火戦術および高い操作技術を習得してきた。その隊員たちが指導者となり、運用する隊員たちへ教育訓練を実施している。

NAAでは今回の更新にあたり、HRET装備のストライカー6×6を2台製作。化学3号車としてA滑走路横の西分遣所に、化学4号車としてB滑走路横の東分遣所にそれぞれ配備した。いずれの分遣所でも従来からの1万2500リットル水槽の空港用化学消防車とのペア運用としている。

今回、お話をうかがったNAA空港運用部門保安警備部警備調整グループ・堀正樹副主幹は「航空機火災のケースにもよるが、主タレットで火災を一気にノックダウンしたのちHRETのブームを活かした細かい消火に入るなど、新たな消火戦術が期待される」と話す。HRETという資機材の配備により、空港消防は新たな展開を見せている。

左側面
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主タレットは折りたたまれたブームの先端に装備される。前方(写真左側)から、キャブ、ブーム基部、ポンプ装置、水/薬剤タンク、エンジンが配置されている。車両総重量は34.9t。
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前輪上に資機材収納庫、車体中央部にハンドラインのホースリール室、消火装置パネル室が並ぶ。ハンドラインの放水量は毎分240Lで、右側側面にも同様の装備がある。消火装置パネル室には左下に2つのタンクへの吸口、中央に放口、右に中継口が設置されている。
右側面
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6輪駆動で、最高速度は時速110km、時速0-80kmは35秒。成田国際空港はICAO(国際民間航空機関)でカテゴリー10に指定されており、消防車両は空港内のあらゆる場所に3分以内に到達できなければならない。
空港用化学消防車 成田国際空港株式会社
空港用化学消防車 成田国際空港株式会社
右側面には前輪上に粉末消火装置室があり、車体中央は左側と点対象になるように消火装置パネル室とホースリール室が並ぶ。消火装置パネル室には放口と中継口のみ設置。この他、粉末消火用の窒素ガスボンベが置かれている。
リア
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上部左右には照明灯。下部右側には右からオイルパンヒーター用の110ボルト電源インテーク、バッテリー充電用の110ボルトインテーク、エアインテークが並ぶ。中央のはしごは折りたたみ式で、はしごの上部には屋根上の三連はしごを降ろす際のローラーが収納されている。
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車体最後部のエンジンルーム。総排気量約15.87Lで、最大約700馬力。1基のエンジンで走行用とポンプ用を兼用する。ドアを開放すると車体の下に奥からステップが飛び出し、足元灯が点灯する。
フロント
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従来の空港用化学消防車と同様、どのような悪路でも走破できるブロックタイヤを装着。
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バンパー上に設置されたバンパータレット。高流量で毎分4732L(到達距離75m)、低流量で毎分2366L(同65m)。
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車体下部(フロント側)は、中央に奥(後方)からバンパータレット用の水管が走り、その右に自衛噴霧装置が見える。後方のトルクコンバーターから前輪に向かって長いプロペラシャフトが伸びる。

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