ALPASで山積する課題を解決!
水槽付消防ポンプ自動車Ⅰ-A型 成田市消防本部
成田市消防本部 成田消防署飯岡分署 [千葉県]
写真・文◎小貝哲夫(特記を除く)
Jレスキュー2018年7月号掲載記事
意表をつく新型ハイルーフ 角型だから広さはバツグン
署を戸締まりして全員出動
平成30年2月28日、成田市消防本部は成田消防署飯岡分署配備の水槽付消防ポンプ自動車Ⅰ-A型を19年ぶりに更新した。
千葉県北部にある成田市は、管内に成田国際空港を擁し、中心部に位置する成田山新勝寺が多くの参拝客で賑わう。国道、東関東自動車道、新空港自動車道、そしてJR成田線、京成線成田スカイアクセス線が通り、都心へのアクセスが容易な場所でもある。
平成18年3月27日に下総町、大栄町と合併し、新成田市が誕生。成田市消防本部は1本部4署4分署体制を敷き、災害から成田市を守っている。
新車両が配備された飯岡分署は、成田市の北西部、水田や林野が広がる豊かな自然が残された久住、中郷、豊住地区を管轄している。12名が勤務し、一当務あたり人員6名(最低4名)でポンプ車と救急車を運用しており、「火災が発生すると、分署の戸締まりをしてから全員が出動するような状況だ」と、仕様作成を担当した成田市消防本部警防課・安井淳消防司令補は語る。
フロント
リア
ALPAS採用で山積する課題を解決
大きな課題は最低人員の4名でいかに迅速に初動活動を行えるか、であった。そのためには資機材、特に長距離中継送水用のホースをできるだけたくさん積みたい。また管内は水利がある場所、ない場所とまちまちなので、水量を確保することは当然。しかし狭隘路が多いため、従前車両からのサイズアップは避けなければならない。
これらの問題を解決したのが、長野ポンプのALPASシステムだった。オールアルミフレームのため資機材庫レイアウトの自由度が高く、1500L水槽を搭載しながら大量のホースを積載し、コンパクトな車両に仕上がった。
平成28年度から始まった仕様書作成ではまず、日野レンジャーといすゞフォワードが比較検討された。ホイルベースが短く従前車両と取回しが変わらない、いすゞフォワードとした。
この決定には伏線がある。成田市消防本部は日野デュトロベースのポンプ車を5台所有しているが、かつて日野デュトロのリコールが相次いだ際、1台しかない予備車をフル回転させて苦労した経験があった。同じシャーシで揃えるメリットは多いが、この時ばかりは大きなデメリットになってしまった。異なるメーカーのシャーシを採用することで、リスクを低減できると考えたのだ。
新型フォワードでは、排ガス浄化装置が資機材艤装スペースをひとつ占有してしまう問題もあったが、ALPASが持つ自由度で十分な収納スペースを実現している。
新型ハイルーフで外観も一新
もうひとつのコンセプトは、ハイルーフ化により居住性と活動効率を高めること。成田市消防本部ではこれまでに日野レンジャーのハイルーフ車両を3台導入しており、隊員からも好評だった。飯岡分署の管内事情を考慮すると、狭隘路への進入時、樹木などにハイルーフが接触する可能性もあるが、それを承知で使い勝手を優先したい。
ここで問題が起こる。日野レンジャーはハイルーフのラインナップが豊富で、オプションもたくさんある。しかしいすゞフォワードにはハイルーフやオプションが乏しいのが現状であった。そこで、これまでの配備車両でハイルーフ製作を担当していたベルリングに相談したところ、特注での開発が決まった。
CGデザインの段階から逐次確認しついに完成したCFRP製新型ハイルーフは、これまでの主流である流線形のハイルーフに比べて、角型で内部に充分な高さと収納スペースを備えている。前面にはアメリカのポリスカーのグリルを思わせるメッシュマスクが施され、樹木の接触を防いでくれる。主警光灯が見えにくくなるのではと心配されたが、視認性を損ねない納得の仕上がりとなった。
側面のユニットは取り外し可能で、隊名標示だけでなく赤色灯や作業灯に付け替えることができ、メンテナンス性も高い。この新型ハイルーフは「ドラフト シェル(DSシリーズ)」として製品化される。
若手隊員も興味をもつはず!
ホイルベースを短くすることで狭隘路での操作性を向上させ、全体を軽量化して取り回し性も損なっていない。さらに、CFRP製ハイルーフにより従来型ハイルーフの1/4ほどの重量増に抑えてバランスを整えたことで、シャーシが持つ動力性能を犠牲にすることなく、走行の質を高めている。
多くのホースを積むスペース確保が課題だった艤装部分は、ALPASと開口部の広いオールシャッターで解決した。ホースはホースバッグやホースカーをあわせると、30本以上搭載している。資機材の積載位置はすべて現場にゆだねたため、より活動しやすい積載位置を隊員同士話し合いながら今も模索中だ。
「期限内にできあがるのか…特注ハイルーフを仕様書に盛りこんだ時は若干の不安もあったが、我々のコンセプトに沿った素晴らしい車両が完成して惚れ惚れしている。成田市消防本部は団塊の世代の大量退職により、平均年齢35.3歳の若い消防本部に生まれ変わった。若い機関員が新しい車両に興味を持ち、知識を貪欲に吸収する機会になってほしい」と安井消防司令補は話している。
名づけて「ドラフト シェル」 斬新なベルリングの次世代ハイルーフだ!
3Dスキャナで実車データを計測して開発された新型ハイルーフ。前面はメッシュマスクで損傷を防止している。
写真では標識灯が設置されている側面パネルは赤色灯、作業灯など自由に付け替え可能で、LED球が切れても簡単に交換できるメンテナンス性の高さが特徴だ。
製作したベルリングの飯野塁社長は、「成田市消防本部とは創業当時からの付き合い。軽量化して操作性に優れたポンプ車という基本コンセプトに共感した」と語る。
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