全地形対応車[総務省消防庁貸与車両]岡崎市消防本部

日本の消防車両

全地形対応車[総務省消防庁貸与車両]岡崎市消防本部

岡崎市消防本部 中消防署[愛知県]

写真・文 ◎ 伊藤久巳
「日本の消防車2014」掲載記事

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水深1.2mの水中走行も! 瓦礫、水没地でもガンガン進入する 2台連結クローラ車上陸

ゴム製クローラ方式で人員・物資搬送、救出活動を展開
岡崎市消防本部中消防署に配備された全地形対応車両。前後のユニットを連結した状態で1台とみなされる。陸運局のカテゴリーは消防車ではなく原野作業車で、9ナンバーが交付されている。平成25年3月18日配備。

総務省消防庁は震災対応型の車両として全地形対応車両を整備し、専用搬送車と併せて平成25年3月、愛知県の岡崎市消防本部に無償配備した。

総務省消防庁では広域、大規模災害などの発生に備え、緊急消防援助隊の活動体制の充実強化を図ることを目的とし、全国の消防本部に消防組織法第50条「国有財産等の無償使用」に基づき、必要に応じて消防車両、航空機などを配備しており、全地形対応車両もその一環として行われた。車両の形状は2両連結車体で、2両ともに動力伝達装置はゴム製クローラという変わり種だ。あらゆる災害現場へ人員、物資の搬送、救出救援活動を行う観点から、荒地、不整地、段差、溝、土砂、がれき、大きな水たまり、ぬかるみなど、一般車両では走行不能な悪路でも、特別な装備品などを装着することなく走行可能だ。

東日本大震災の教訓から悪路に対応

ベースとなったのはシンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリング社の陸上戦兵器開発部門であるSTキネティックスが製造する災害対応車両「レッドサラマンダー」。事はモリタが一昨年の危機管理産業展2011に同車を出展したのが発端となった。モリタでは、道路が瓦礫にふさがれて車両がまったく前に進めなかった東日本大震災の教訓から、啓開することなく乗り越えて人命救助に向かえる車両の研究、開発に即座に着手した。そのベース車両として選んだのがレッドサラマンダーだったのだ。

車体は前部ユニットと後部ユニットの2個1台運用で、前部ユニットの後部にあるエンジンルームにディーゼルエンジンを搭載。そのすべての出力で油圧ポンプを回して油圧に変換し、前後のユニットに搭載した油圧モーターを回して動力とする。動力は最前部の動軸からクローラに伝えられる。

前後ユニットそれぞれには操舵能力はなく、前後ユニットを連結装置の左右にシリンダーを設け、それを左右別個に伸縮させることによって前後ユニットを変位させ、車両を操舵する。この連結装置には縦方向の動作を制御するシリンダーもあり、これによって前後ユニットがお互いに相手を保持する動作を行い、溝や地割れなどを走破する。

モリタでは完成したレッドサラマンダーを総務省消防庁に提案。同庁では、これを全地形対応車両と名付け、近い将来南海トラフ巨大地震が想定される地域で、なおかつ大震災では液状化現象が予想される愛知県の岡崎市消防本部に配備した。

岡崎市消防本部では全地形対応車両を専用搬送車とともに中消防署に配置。同署の特別救助隊が運用し、大規模災害発生時には緊急消防援助隊として広域出動することになる。

前後のユニットは中央の連結装置で半永久連結され、前後別系統の油圧モーターを同時に制御することによって動軸でクローラを回す。動軸は前後ユニットそれぞれ最前軸。
前車両
前部ユニットの前面のデザインはシンガポールのSTキネティックス社が行った。日本の「兜(かぶと)」をイメージしてデザインしたという。
前面は前照灯の高さ、方向指示器のガラス、大きさなどを日本の保安基準に合致させるため細心の注意が払われた。
米国ウォーン社製の電動ウインチ。最大牽引力は5443kgf。
前部ユニット。前方が定員4名のキャブで、後方がエンジンルーム。エンジンルーム内には容量40Lのサブ燃料タンクがあり、後部ユニットの主燃料タンクの燃料も一度ここに入ってからエンジンに供給される。
CLOSE UP! クローラ機構
前部ユニットのクローラを前方からのぞく。中央はフラットで、地上0.6mの障害物を乗り越えることが可能。
前部ユニット、最前部の駆動軸。油圧モーターによって駆動し、クローラを回転させて前進後退する。
キャブは中央床下に走行用機器が設置されているため、左右の座席間の移動はできない。
機関員席は右席。操舵は通常の円形ハンドルによって行う。アクセルとブレーキも通常のもので右足操作。前進後退の切り替えは左手のレバーで行い、前面パネル右には前後ユニットの垂直方向の角度を切り替えるピッチングスイッチが設けられている。
非常時は天井から脱出!
前部ユニットには前席左右の天井部に脱出用のハッチが設けられている。
大きな冷却ファンの付いたエンジンルーム。最大出力300PSのディーゼルエンジン、油圧ポンプを搭載し、エンジン出力が油圧として取り出される。
前後ユニットの連結装置。写真右側が前部ユニット、左側が後部ユニット。下部の左右のハの字の油圧シリンダーが動作することによって操舵する。前後ユニットの垂直方向の制御のための油圧シリンダーが連結装置の上部左右にあり、これによって幅2mの溝や割れ目を渡ることができる。前後ユニット間のたくさんのホースは、油圧、電気、軽油の引き通し。

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後部ユニット

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