中型水陸両用車 山武郡市広域行政組合消防本部

日本の消防車両

中型水陸両用車 山武郡市広域行政組合消防本部

山武郡市広域行政組合消防本部[千葉県]

写真・文◎伊藤久巳
日本の消防車2020掲載記事

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陸上、水上を問わず
どこでも走っていって活動開始!!

中間サイズの中型水陸両用車
パワーがそこそこあり、小回りが利く

山武郡市広域消防事務組合消防本部では令和元年5月、中型水陸両用車および搬送車の運用を開始した。

近年では世界的な気候変動などの影響により、日本国内でも毎年のように大規模水害や土砂災害が多く発生し、各地で甚大な被害がもたらされている。そこで、総務省消防庁では水害や土砂災害の際、不整地や泥ねい地などの悪路、さらには水上などで高い走破力を持った水陸両用車、同車両を積載する搬送車を無償使用車両として全国2消防本部、千葉県の山武郡市広域事務組合消防本部と徳島県の板野東部消防組合消防本部に配備し、自らの管内はもちろんのこと、緊急消防援助隊などでの出動に備えることとした。(取材当時)

総務省消防庁では水害や土砂災害の際、悪路でも人命救助や資機材搬送を行える消防車両として、大型車では愛知県岡崎市消防本部に全地形対応車を、小型車では全国道府県の13消防本部に水陸両用バギーおよび搬送車を配備して以前から対応してきた。(取材当時)今回の中型水陸両用車は、文字どおり、その中間の大きさの水陸両用車だ。

陸上ではゴム製クローラ、水上ではプロペラによる駆動で走行。不整地、泥ねい地、ガレキ、池、河川、水たまり、雪上など、一般消防車両では進入が困難な場所でも走行が可能となる。

ベースとなったのはアメリカ・ハイドラテック社製の水陸両用車。同社では一般業務向け、観光向け、災害時向けに水陸両用車を生産しているが、それをベースにトーハツが日本の災害活動向けに艤装した。

軽量アルミニウム構造油圧駆動で車体重量を抑える

中型水陸両用車の最大の特徴は、自動車としてはコンパクトなサイズの車体に、陸上では時速20㎞、水上(浮上するため水深は問わない)では時速5㎞で走行可能な、いわば手頃な性能だ。わずかなスペースでも旋回、方向転換などができる小回りが利く車体で、どんな場所でも走行でき、しかも要救助者はもちろん、ある程度の資機材まで積載できる性能だ。

車体は軽量アルミニウム製で、左右にもっとも張り出した車体のベース部分は、内部に発泡ウレタンが封入されて浮力を稼ぐほか、車体下部の動力伝達部なども空気が封入されて水上に浮くことができる。さらには、水上走行時には水中に沈むゴム製のクローラ、タイヤなども「浮上水上走行」のために一役かっている。

動力はエンジン。だが、動力伝達をミッションやトルクコンバーターで行うと重量の問題が出てくる。とにかく、水に浮かなければならないのだ。そこで、このシャーシはギアなどによる駆動ではなく、油圧駆動というパワートレインが採用されている。つまり、エンジン馬力をPTOで受け止め、油圧ポンプを動作させて、そこで発生した油圧を動力とする。

陸上では、左右4輪ずつ、全8輪のタイヤを駆動させることにより、左右各4輪に巻いたクローラが回転して走行する。水上では、後部の左右に並ぶようにプロペラを装備。これを油圧で回転させることによって推進力を得る。

中型水陸両用車を搬送するのは専用の搬送車。いすゞ「フォワード」をベースとして、後部を荷台とし、荷台が後方へとスライドして展張することによって中型水陸両用車を地上へと降ろす。

搬送車はキャブがシングル式で、その分空いたキャブ後方のスペースに資機材収納庫を設けて、水上救助用の資機材が積載可能となっている。

外観

消防車
中型水陸両用車。アメリカ・ハイドラテック社製D2488D型水陸両用車をベースに、トーハツが艤装を担当した。車体はアルミニウム製で、駆動系統は油圧。操縦には大型特殊自動車運転免許のほか、水上では2級小型船舶操縦士免許が必要となる。
消防車
迫力満点のフロントビュー。
消防車
中型水陸両用車の後面。水面ではクローラ上に張り出した車体ベース部分までが水中に沈んで航行する。
消防車
中型水陸両用車を積載した状態の搬送車、左側面。荷台が後方へとスライドして展張する。
消防車
中型水陸両用車を積載した搬送車。いすゞ「フォワード」をベースにトーハツが艤装を担当した。いずれの車体にも緊急消防援助隊のマークが描かれる。
消防車
中型水陸両用車は搬送車の荷台上にストッパーがかけられた上で4カ所のチェーンで固定される。
消防車
搬送車の荷台を展張して中型水陸両用車を地上に降ろしている状態。
消防車
プロペラの駆動により水上を航行する中型水陸両用車。水上での航行速度は5km/hとされているが、最大速度はプラスアルファ出ている。

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