水難救助車 仙台市消防局

日本の消防車両

水難救助車 仙台市消防局

仙台市消防局 若林消防署六郷分署[宮城県]

文◎小針かなえ
写真◎井上健
日本の消防車2018年掲載記事

Twitter Facebook LINE

大規模災害と戦うために!
ワンボックスをフルオーダー

東日本大震災を教訓に体制強化を図る

消防体制の再整備と大規模災害への強化を積極的に図っている仙台市消防局(取材当時)。その一環で2017年(平成29)年9月、若林消防署六郷分署(庁舎も新築移転)に水難救助車を新たに導入した。

宮城県沿岸部は東日本大震災で壊滅的な被害を受けた。仙台市消防局は荒浜分署が被災し、車両や資器材もままならないなか、浸水地域に取り残された被災者の救出救援にあたらなければならなかった。この時の経験と教訓が、水害をはじめとする大規模自然災害への体制強化につながったといってもいい。

仙台市消防局が管轄する区域には海・河川・山地がある。津波による名取川の氾濫とそれに伴う浸水被害、山岳地域の土砂崩れなど、自然災害だけでもさまざまなパターンが想定される。大型船が往来する仙台港では船舶や人身事故も過去に何度か起こっている。

仙台市消防局の特別機動救助隊(スーパーレスキュー仙台)は、大規模自然災害での対応を数多く経験してきた隊員で構成されており、平成28年の台風10号時には岩手県岩泉町の被災地でも緊急消防援助隊として出動している。

消防体制の再整備に伴い、仙台市消防局の特別機動救助隊は六郷分署(若林消防署)と八乙女分署(泉消防署)の2署に集約された。同局の水難救助隊員は全50名。六郷分署の須田拓也隊員もそのひとりで、水難救助車の企画立案段階から携わっている。

「地理的にも多様な市内で有効な活動につながる水難救助車とは何か――」

須田隊員をはじめとする特別機動救助隊、管理課施設係、警防課計画救助係の間で検証と検討が重ねられていった。

「車両としては、市街地でも沿岸や山岳などの自然地域でも、機動力のあるものがふさわしいと考えた。ワゴンタイプをベースに、地域の消防活動に特化しながら改良していこうということになった」(須田)

この地域で考えられる水害には、湾岸河川・山間地の河川や湖沼、ダムなどの事故がある。車両に積載する資器材もそれぞれの活動に適ったものが必要となる。

水難救助車 仙台市消防局
さまざまな場所で有効な活動が期待できることから、機動性の高いワゴンタイプが選ばれた。すべての仕様がフルオーダーで、水上バイクの牽引装置を備える。
水難救助隊の装備は活動に応じて3タイプ

積載する資器材を検討するにあたり、須田隊員らは水難救助隊を所有する全国の41消防本部に独自のアンケートを募った。

調査は平成27年に実施。潜水活動の装備、冬の装備、水質による使い分け、水難救助隊の設置状況、隊数および隊員数、構成隊員、隊配置状況についての回答を依頼し、その集計結果や実際に使用した隊員の具体的な感想を判断基準として、自分たちに必要な装備や資器材を厳選していったのである。

ウエットスーツ・ドライスーツ・流水用ドライスーツ・シェルドライスーツ・フルフェイスマスクを併用等々、潜水活動の装備には地域による特性が表れており、仙台市消防局では潜水装備(ウエットスーツまたはドライスーツ)、河川装備(ウエットスーツ)、汚染水装備(ドライスーツ+フルフェイスマスク)の3タイプとした。

車両は機動性の良さから4ドアタイプワゴンとすることに決定。各装備のレイアウトは、過去の経験に基づいて有効と考えられる配置やサイズを徹底的に検証していった。

照明装置や車内専用棚の設置、防水加工、後部座席の変更、後輪サスペンションの強化、ルーフキャリアの取り付け、車内照明、水上バイクの牽引フックの取り付け、サイドミラーの視認性の確保、ナビゲーションシステムの搭載等々、細部にまで拘ったプランを練り上げ、艤装要望として車両メーカーに提案した。

「車両作成の際、とくに優先したのは、隊員が着替えるスペースの確保。現場への移動時間に車内で立ったままの姿勢で着替えができる高さだった。また、走行中に助手席の隊長と後方の隊員が交替できるよう往来スペースも確保したかった」(須田)

十分な積載性と資器材が取り出しやすい構造とする点も改良の優先順位として提案された。

車両の基本的なデザインも隊員らが考えたものだ。当初は、仙台市消防局の特殊車両に共通するナックルマークを入れることを検討していたが、指揮車と外観が同じことから、特殊車両であることを明示するため青いラインを入れたデザインとした。オールオーダーによる消防車両はいわば、地域の特性やニーズを写し出す鏡のようなものだ。それはまた地域を守りたいという消防人たちの願いのかたちでもある。

なお、車両の製作にあたり全国の水難救助隊から集ったアンケートの結果は、全国の水難救助隊が参考になる貴重なデータであることから、各消防署へ情報を提供している。

外観
水難救助車 仙台市消防局
車体には特殊車両であることを明示するため、水をイメージした青ラインが入る。
荷室内
水難救助車 仙台市消防局
水で濡れた資器材の積載を考慮し、全床面に防水処理が施されている。
水難救助車 仙台市消防局
車内へのアクセスは左側面と後部からの2カ所。コンソールボックスを取り除き、後部荷室と助手席との間を往来するためのスペースも十分にとられている。
水難救助車 仙台市消防局
走行中に立ち姿勢のまま車内で着替えできるよう天井部を改良し車高を確保。
リア
水難救助車 仙台市消防局
車内壁面はパンチングボード。資器材積載量をふまえて後輪サスペンションも強化。後部荷室の荷室高は1880mm。飛び出し防止のステンレスバーが取り付けられている。
水難救助車 仙台市消防局
車内後部ドア部にカーテンフックを設置し、隊員の着替えやシャワー時のプライバシーを確保。
運転席
水難救助車 仙台市消防局
運転席。AT車で機関員の負担も少なく運用のしやすさにつながっている。

次のページ:
最新の装備&資器材

Ranking ランキング