30m級はしご付消防自動車(大量救出・車いす対応型)
東京消防庁
東京消防庁 四谷消防署[東京都]
写真・文◎伊藤久巳
日本の消防車2020掲載記事
バスケット定員を3名から5名に増強
バリアフリーを推進したバスケット構造
車いすユーザーと介助者の搭乗が可能
東京消防庁が平成30年度に整備したはしご車は、伸縮水路管を装備した最大地上高約30mのバスケット型5連はしごを備え、バスケット定員を従来の3名から5名(2700Nから4500N)に増強するとともに、車いすユーザーと介助者の搭乗が可能となっている。東京消防庁装備部の担当者が、「今までできなかったことができる車両ということで、可能性を広げられた」と自負する一台だ。
昨今、ヨーロッパでは、バスケット定員を5名とするはしご車が主流になりつつある。東京消防庁では、5年ごとに開催され、2015年にはドイツのハノーバーで開かれた「インターシュッツ国際防火・防災・救助サービス見本市」の情報等を得て、海外情勢の調査を行った。その際、注目したのが、バスケット定員5名で車いすにも対応するオーストリア・ローゼンバウアー社の先端屈折式はしご車L32A-XSだった。当時の納入台数はすでに年間100台程度と、実績十分であった。今回の車両の構想の源流は、このときのインターシュッツにおける海外情勢調査に求めることができる。
一方、国内においては障害者雇用促進法が一部改正され、事業主に障がい者の雇用を義務付ける法定雇用率が引き上げられた(施行は平成30年4月)。こうした社会情勢を踏まえ東京消防庁では、車いすユーザーの社会進出がこれまで以上に進むことを想定し、車いすに対応できるはしご車の導入機運が高まることとなった。これらの状況を鑑み仕様が決定され、競争入札の結果、国内初の「大量救出・車いす対応型」はしご車は、モリタが手掛けることになった。
バスケット装置に採用ユニバーサルデザイン
平成30年度に新はしご車が配備されたのは、四谷消防署と赤坂消防署。いずれもはしご車の更新時期に重なったことはもちろんだが、現在建設中の新国立競技場が第一出場区域に入っていることも考慮された結果だ。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のパラリンピック開催時、新国立競技場内に747席の車いす席が予定されており、既存の避難計画に併せて本車両を有効活用し、高層階からの迅速な救出を行うことが配備計画のコンセプトにあったからだ。
バスケット装置には車いすのまま搭乗できるよう、二つ折れ展開式スロープが横方向に装備されている。さらに障害物等により横方向に展開できない場合は、カーボン製で軽量の補助スロープを使って前からも搭乗できるという二段構え等、製作全般において車いすユーザーである東京消防庁 防災安全課の職員の意見を取り入れた。国内にはこれまで存在しなかったものなので、東京消防庁は製作段階で実際に原寸大のモックアップで確認するなど念には念を入れて仕様に盛り込んだ。
さらに二つ折れ展開式スロープの床面は網状で特殊な構造とし、通常の縞鈑では滑ってしまうような雨天時や放水時にも介助者が滑りにくいよう工夫を凝らした。さらに車いすユーザー救出時に車いすが動かないように、バスケット装置の床面にレールを設け、レールに取り付けたベルトにより車いすを前後からワンタッチで固定できる構造になっている。
同時にバスケット装置には、障がい、年齢、性別、国籍によらず多様な人々への対応を想定し、たとえば手すりは弱視の方でも見やすいような黄赤色にするなど、配色や構造、電光表示などにユニバーサルデザインを取り入れた。このため従来のバスケット装置とは一見して色合いが異なっている。
キャブ前にはしごを屈折し要救助者を救出
さらにこのはしご車ならではの運用面における特徴がある。それがキャブ前の屈折操作機能だ。新宿歌舞伎町ビル火災(平成13年)で救助活動に携わった職員のヒアリングを踏まえ、盛り込まれた。
救出活動において、要救助者をはしご車で地上に救出するときに、繁華街の現場ということで車などの障害物が多く、やむなく単はしごを架けて下ろさざるを得ず、困難な救出活動となった。その当時の教訓をもとに、一度に大勢を救出できるようなバスケットの大型化に加え、先端を屈折することでキャブのに車いすを使用する要救助者をそのまま下ろせる機能が仕様に盛り込まれ、本車両の運用面・機能面における大きな特徴となっている。
同仕様の大量救出・車いす対応型はしご車は、令和元年度にさらに1台が整備されることとなっており、今後も配備部隊からのフィードバックや管内特性に応じた検討が進むものと思われる。
外観
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