「救急に生きる」インタビュー01<br>新人もベテランも“プロ”

陳場満希子 Jinba Makiko

Jinba Makiko さいたま市消防局 西消防署消防1課救急係 消防副士長

Interview

「救急に生きる」インタビュー01
新人もベテランも“プロ”

救急隊員は一人一人、「人の命を救いたい」という熱い思いを胸に秘めて生きている。その思いをベースに、どんな考えを持ち、どんなことに情熱を注いでいるか。3人の救急隊員に聞いた。

写真◎白石嶺
文◎新井千佳子
Jレスキュー2016年11月号掲載記事
※役職、肩書は取材当時のもの

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「命に関わる現場だから、新人だからできないという選択肢はない」

2年目を迎えた救急救命士、常にベストを尽くすのみ!

「おはようございます!」

朝の出勤時、さいたま市消防局西消防署に元気の良い声が響き渡った。誰よりも大きい挨拶の声の主は、救急隊員・陳場満希子だ。陳場にとって消防官という仕事は、幼少期のころに出初式を目にして以来、憧れの職業だった。中学時代の職場体験学習では消防署ではしご車に乗せてもらったり、救命講習を受けたりして「人の命を助けるってなんてカッコいい職業なんだろう」と思った。

高校を卒業した陳場が選択したのは、専門学校で救急救命士の資格を取得するという道だった。もちろん将来は消防官となり、救急隊として働くためだ。そんな陳場の決意は、北海道で勉強中に東日本大震災を経験したことでさらに強固なものとなる。実家が岩手県ということもあり、未曽有の災害に立ち向かう消防官たちの姿を目の当たりにしたのだ。自分もこの一員となり、人のために働き人命を守りたいと強く思った。そして専門学校で救急救命士の資格を取得し、さいたま市消防局の消防官となった。土地勘のないさいたま市消防局を選んだのは、専門学校の教員のすすめがあったことも理由の一つだが、陳場自身、自分の力を大きな消防本部で試したいという思いがあったからだ。

最初の配属は消火隊で、資格をすぐさま活かせる場ではなかったが、消防のイロハを学ぶことができ、とても勉強になったという。2年目を過ぎた頃から、救急救命士の資格を持つ同期がひとりふたりと救急隊に配属されていったが、陳場に焦りはなかった。

「むしろ、『いつか自分も!』という気持ちで知識が古くならないよう勉強していた。救急救命士の資格を持つ同期4名は、励まし合い、またアドバイスをし合うなど、良い刺激を受けられる関係」

そして2015(平成27年)4月1日、ついに陳場も救急隊に配属となる。

救急に生きるインタビュー01
陳場は「薬剤投与認定」を受けた救急救命士だ。
日々の訓練を活かせた初出動

念願の救急隊員になって初めての出動は、心肺停止の傷病者だった。救急救命士の資格を持っているとはいえ現場経験のない陳場にとって、この事案は緊張の連続だった。日頃の訓練を思い出しながら、心臓マッサージや気管挿管の補助を行う。

「日々の訓練を活かし、適切な対応ができたと思う。また同時に、一緒に活動した先輩方の的確な指示や行動を目の当たりにし、チームで動くことの大切さも学んだ事案だった」

陳場は、日々の訓練をとても大切にしている。訓練でできないことは現場でもできるわけがないからだ。

「知識だけ持っていてもダメ。実際に現場で適切に動けるようにならないと意味がない」

救急隊員になってまだ2年目の陳場にとって学ぶべきことは多い。余談だが、さいたま市消防局を含む埼玉県では、平成25年7月より全救急車にタブレット端末を導入し、病院選定のスピードアップを図っている。また平成28年4月からはさいたま赤十字病院が24時間365日出動するドクターカーの運行(運行範囲はさいたま市、上尾市、北本市、桶川市、鴻巣市、伊奈町)が開始され、救急活動がよりスムーズ・シームレスで質の高いものになっている。その一方で、新人隊員が覚えるべきことや活動の幅も広がっているといえる。陳場はわからないことをそのままにしないで自分で調べたり先輩に尋ね、何度も反復練習して手技動作を身体に叩き込むようにしている。

救急に生きるインタビュー01
傷病者が社会復帰した姿や、ありがとうの言葉が救急隊員としての陳場を支えている。
救急救命士として感じる役割と責任

救急救命士は、傷病者の状態を適切に観察し、確実な処置を施すことが求められる。救急救命士として「薬剤投与認定」を受けている陳場は、MC(メディカルコントロール)協議会が策定したプロトコルの確認や訓練を怠らない。

「市民の皆様にとってみれば、ベテランも新人も“プロ”の救急隊員に変わりない。命に関わる現場だから、知識や技術不足による“できない”という選択肢はありえない」

また、陳場は非番などを利用してJPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care:病院前救護にかかわる人々が習得すべき知識と体得すべき技能が盛り込まれた活動指針)やICLS(Immediate Cardiac Life Support:日本救急医学会)の研修や講習にも赴いている。

「自分のスキルアップも含めて、活動に活かせると思っている。また、研修等で一緒に受講する他消防の消防官や職種の違う方々と会うことが刺激になっている」

それもこれも、すべては救急救命士として現場でベストを尽くすためだ。急病や事故などに遭遇した瞬間から、命のカウントダウンは始まる。傷病者のもとにいち早く駆けつける『プロの救急隊員』として、陳場は妥協することなく貪欲に知識の吸収に励んでいる。現在、自らの活動範囲を広げるべく目標としているのが『挿管認定』。認定を得るために不断の努力は続く。

そうした陳場の思いが伝わるのか、救急搬送した傷病者が快癒後に消防署へお礼を言いに来てくれたこともあるそうだ。

陳場は平成27年の冬からは機関員としても活動している。

「先輩にルートをアドバイスしてもらったり、非番の日に自分で道を確認したりして、マイ地図をこつこつ作成中。病院への連絡をいかに的確に伝えられるかも課題のひとつ」

現場へのルート選定、スムーズな現場活動を想定した駐車、病院への連絡など覚えることや判断しなければならないことが山積みだが、傷病者の元気になった姿と「ありがとう」の一言があるから、陳場は頑張ることができる。

救急に生きるインタビュー01
挿管訓練中の陳場。現在の目標は「挿管認定」を受けることだ。
活動はチーム力があってこそ

「救急に限らず、消防の活動はチームで活動するからこそ成し遂げられること、救える命がたくさんある」と陳場は言う。陳場の所属する救急隊はコミュニケーションを大切にしており、職務に関することもプライベートなことも上司・先輩に気軽に相談できる関係を築けているという。

「現着前には救急車内で、チームでシミュレーションを行う。搬送後には他にどんな活動ができたかを検討する。これによって自分の考え、上司・先輩の考えを共有できるし、現場でのスムーズな連携・対応に繋がっている。現場で気持ちに余裕ができれば、イレギュラーな事態にも対応できる」

人のためになり命を守りたいと思い、志した消防官の道。救急隊員となって2年目を迎え、そろそろ後輩も出てくる頃だが、いつまでも初心を忘れずに市民に寄り添える救急隊員を目指していきたいと陳場は語る。

救急に生きるインタビュー01
事務処理作業も大切な業務のひとつ。救急隊員2年目の陳場が覚えることは多い。
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陳場の大切なチーム。左から消防司令・小川正救急隊長、陳場、消防司令補・鈴木正克。
陳場満希子

陳場満希子じんばまきこ

平成2年、岩手県生まれ。専門学校にて救急救命士資格を取得。平成24年10月1日消防吏員拝命。緑消防署美園出張所消防第1係を経て、平成27年4月1日より西消防署消防1課救急係に配属。

救急隊員は一人一人、「人の命を救いたい」という熱い思いを胸に秘めて生きている。その思いをベースに、どんな考えを持ち、どんなことに情熱を注いでいるか。3人の救急隊員に聞いた。
写真◎白石嶺 文◎新井千佳子 Jレスキュー2016年11月号掲載記事 ※役職、肩書は取材当時のもの

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