ベテラン隊長に見る未来のリーダー養成術

宮本英樹 大阪市消防局警防部司令課 消防司令

大阪市消防局警防部司令課 消防司令 本部特別高度救助隊 隊長

Interview

ベテラン隊長に見る未来のリーダー養成術

Twitter Facebook LINE
一人の先輩として助言する

今回の訓練は都市型捜索救助などを任務とする阿倍野消防署特別救助隊(BR)が実施調整を担当しており、警防部警防課が指導のサポートを行っている。そして本部特別高度救助隊は訓練の安全管理が主任務となる。宮本隊長は基本的にはあまり口を出さず、訓練の進行を見守る。

サーチングの訓練では、まずベーシックサーチとして隊員らが五感を駆使して検索を行う。その結果、反応がなかったことから高度救助器具が投入される。まず、電磁波探査装置で生存者の存在を探り、地中音響探知機により位置の特定を図る。センサーのセットが完了すると、地中音響探知機のオペレーター2名を残し、総員が一旦現場を離れる。

「誰かいませんか?」

サイレントタイムを設定し、呼びかけを行う。声を出すか、物で壁などを叩くよう声かけを行い、反応をみる。しばらくするとオペレーターが声を上げた。

「1番、4番センサー強反応あり」

順調に検索が進み、生存者の存在、そしておおよその位置特定ができた…と隊員の皆が思ったが、その時宮本隊長が訓練小隊の隊長に声をかけた。

「その音、意図を持った音なのか確認した?合図の方法を指示して再度確認したほうがいいぞ」

訓練や現場で起こしやすい凡ミス、あるいはミスとはいえないが、より活動の確実性を増すために行いたいポイントがある。直接的な安全管理に限らず、些細なことでも気になったことは漏らさず声をかける。各救助部隊の指導的立場にある本部特別高度救助隊だからというよりも、宮本隊長自身の判断で行っている。幾多の現場をくぐり抜けてきた救助のエキスパートとしてのアドバイスだ。

宮本隊長は現在53歳。同局の救助部隊の中では最年長であり、最も経験が豊富な救助人といえる。昭和54年に消防士を拝命し、卒配直後や方面隊に所属していたわずかな期間を除き、およそ20年にわたり救助の道を歩んできた。そんな宮本隊長の言葉だからこそ、隊員らも素直に受け入れる。

指導は自身が学ぶ場

この日はショアリングの訓練もあり、建物と建物の間や廊下などの通路部分において、強度のある側の壁面を利用してもう一方の崩壊危険のある壁面を補強する「ホリゾンタル・ショア」の手法がレクチャーされた。

これらの訓練は、宮本隊長をはじめとする本部特別高度救助隊にとっては安全管理だけでなく、自身の見取り訓練であったり、指導することで自らも学ぶ機会と位置づけている。そのため、日中は大阪市消防局高度専門教育訓練センターで時間の限り各種の救助訓練に立会うことが多く、宮本隊長ら本部特別高度救助隊は一日の大半を出向先で過ごすことが多い。

「訓練の機会を通し、28隊ある所轄の救助隊と、それを束ねる56名の救助隊長をしっかり見るようにしている」と宮本隊長はいう。現場経験は人によって異なる。宮本隊長のような救助の猛者と呼べる者もいれば、なったばかりの若手隊長もいる。訓練中に宮本が気付いた点があれば、どんどんアドバイスをおくる。

「本部特別高度救助隊の隊長など、いきなりなれるものじゃない。後進を育てる意味でも、56名の救助司令をしっかり育てないとならない」

救助隊長を育てる。つまりは大阪レスキュー全体のボトムアップを図ることが、これからの大阪を担う特別高度救助隊の隊長を育てることに繋がるのだ。

【ショアリング研修】
救助隊
ショアリングの訓練ブース。ショアリングは「段取り8分」と言われており、段取りの良し悪しで作業スピードや精度が変わってくる。つまり、リーダーの仕切り方が重要となってくるのだ。
矢印
救助隊
ショアリングの作業では切断や仮組み、そして本組みなどの工程別にチームを分け、それぞれにリーダーを置く方が効率的。リーダーは前後の工程の進捗状況や全体の状況を踏まえつつ指示を与える。
矢印
救助隊
通常活動とは異なる、慣れない作業。釘打ち器の使用に際しては、実施隊員であれば構える向きなどに注意が必要。そしてリーダー役は資機材の使用状況が正しいか、万が一釘が飛散した場合に備えての安全措置が図られているかといった視点が必要。こうした安全管理ポイントも指導される。
矢印
ドア
完成したホリゾンタル・ショア。設定が完了したら分解し、再度ショアリングを実施。何度も繰り返して精度を上げていく。

救助隊のトップに立つとは?

口だけでなく、己ができることが重要

隊長にはゆとりが必要

現場でどのような活動を行うかの判断材料で、何を置いてもまず優先するのは要救助者の情報。要救助者が居るのか居ないのか、居るのであればどこにいるのかをまずは把握する。その上で、部署したポイントからの最短・最速進入経路を検討する。この時に、隊長として広い視野で現場を見据え、後着部隊との連携を考慮しながら行動するのがポイントだ。ドア開放の可否や内部の延焼状況といった隊員らも考える要素だけに集中せず、隊長は一歩引いた視点で「反対のベランダ側はどうなっているか?」という部分にも意識を向けるゆとりが必要だ。

「状況により玄関側からの進入しかできないという状態であれば、後着隊も必然的に玄関側に集中してしまう。先着隊として情報を送り、後着隊をベランダ側に誘導するといった心のゆとり、余裕が必要である。これができなければ、結果として活動が後手を踏んでしまうことになる」

隊員が陥りがちな目前の状況に意識が集中してしまうという心理に隊長もはまってしまえば、臨機応変な対応も不可能になる。だからこそ、心にゆとりや余裕が必要なのだ。

救助隊
事務処理は夕刻から、局庁舎にて行う。
言って、やれて、動ける隊長であれ

リーダーの条件として欠かせないものは、冷静さと一瞬で判断する決断力だ。時にはマニュアルどおりに活動を進められない極限の状況に出くわす。そんな時も最低限の安全が確保されているのであれば、危険な状況にも飛び込んでいく。この行くか、止まるかの判断指針になるのが、適切な現場状況の見極めといえる。冷静に状況を分析した上で、隊員らの力量でその状況に打ち勝つことができるのかをジャッジする。

そして、隊長は口だけでなく、実際に己ができるということが重要だ。まず第一に、口先だけの隊長では、部下である隊員も命を預けて危険の真っ只中に入っていこうとは思えない。経験もあり、実際に困難な活動を行うことができるスキルや体力が必要なのだ。また、隊員と同等のスキルや体力をキープするというのは、極限下での下命を行う際のモノサシとしても重要なのである。

「俺と同じことができる、あるいは俺以上に動けるといったように、比較対象として自らの能力を基準に考える。基準があれば判断も早くつけることができる」

百戦錬磨のベテラン隊長である宮本隊長は「隊長という役割を課せられてから、現場に行くということが心底怖くなった」という。隊員だった頃はそんなこと考えたこともなかったが、部下をきちんと家へ帰すという責任の重さを痛感させられた。だからこそ、己を磨き、これまで培ってきた経験を若い隊員らに伝えるよう心がけている。

出場をはさみ、事務処理を終え西方面隊庁舎へ戻ってくる。出場に備え、個人装備を着装しやすいように準備しておく。
救助隊
この日は以降何事もなく朝を迎えた。2部のメンバーに引継ぎ、勤務が終了する。
消防署
大阪市消防局庁舎からほど近い位置に建つ西方面隊庁舎。

Profile

消防司令 宮本英樹

消防司令 宮本英樹

昭和35年生まれ。昭和54年4月大阪市消防局入局、同年10月阿倍野消防署消防士拝命。昭和55年11月から平成4年9月まで11年間救助隊員として勤務。方面隊員、消火隊員、救助隊員、局日勤職員を経て平成21年4月より阿倍野特別救助隊長。BR隊長を計4年、救助指揮支援隊長1年を経て平成26年4月より現職。

大阪市消防局に各救助隊を統括する本部特別高度救助隊が発足した。 複数の部隊を動かす隊になった時、その隊長はどこを見据えて指示を出すのか 平時の部隊づくりから、現場活動までレスキュー隊のリーダーの一日を追う。 [写真]大阪レスキューを束ねるトップ2のうちの一人といえる、本部特別高度救助隊の宮本英樹隊長。
写真◎伊藤久巳・木下慎次(特記以外)  文◎木下慎次 Jレスキュー2014年9月号掲載記事

Ranking ランキング