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【コラム】ランクル消防車「ポン太」と北海道の旅
―第1回目―

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2024年8月30日(2日目)

さて、さんふらわぁでお決まりのイベントと言えば、海から上がる朝日を眺めること。
この時、誰もが「あれ、いま世界で一番俺がかっこいい?」と錯覚してしまうほど美しい朝日を眺めることができる。
だが、時刻は11時。世界で一番かっこいい男になれるチャンスをみすみす逃がした。
甲板に出ると空は晴れ、海風が心地よい。

ポン太と北海道の旅
晴れ渡る空とシンボルの太陽。
ポン太と北海道の旅
入港を歓迎するように飛び回る海鳥。

苫小牧港に入港すると海鳥たちが歓迎するように船の周りを飛び回る。バターになってしまわないか心配になる。
接岸後は船内が活気づく。アナウンスが流れると皆一斉に車両甲板へ向かう。準備ができると乗船員に誘導され下船。
初めて北海道に降り立ったポン太号。
余韻に浸ることなく目指すは一路、襟裳方面。
天気はこの先雨。
しかし、どうしても見ておきたいものがあった。
国道235号線に並走するように走っているJR日高本線。

ポン太と北海道の旅
鵡川駅。閉鎖された様似方面のホーム。

JR日高本線はもともと、現在終点の鵡川駅からさらに南下し様似駅まで伸びていた。
しかし、2015年の台風23号接近による高潮被害を受け同区間は長年休止。
バス代行が行われていたが、2021年、鵡川駅 ― 様似駅間は正式に廃止となった。
今回はその区間をめぐることにしたが、なんせ距離にして116kmある。
全部を見ることは難しいうえに昨年12月に一度めぐっているため今回は印象に残っている“とある現場”を目指した。
それまでの道中、町に残る鉄道の面影を探す。
これらの景色も撤去が進めば、すべてが消えてしまう。
やがて、資料片手に探さなければわからないほどになってしまう。
かつて人々の暮らしと産業を支えた、この鉄路の最後の姿をカメラに収めることも旅の目的である。

ポン太と北海道の旅
いずれ撤去される切断された線路。

鵡川を起点として着実に歩みを進め、今日の目的地、 “とある現場” 近くにポン太号を止めた。
その現場とは線路流出箇所。台風によって防潮板とともに損壊流出線路が路盤ごと流され、大打撃を受けた。
初めて見たのは昨年12月の来道時。その光景たるや、言葉を失うものだった。
浜辺へ墜落するように落ちる線路。
受け売りの言葉でいえば、自然の恐怖を知った。
今日も海は荒れていた。帰れと言わんばかりに海風が頬を殴る。それでも、浜辺を進み現地へ向かった。

ポン太と北海道の旅
線路流出箇所。2023年12月撮影。

しかし、今回の来訪時にはきれいさっぱりなくなっていた。

ポン太と北海道の旅
撤去された線路。

それもそうだろう。そんなものをいつまでも残しておく必要はない。
余計なトラブルの火種となる前に撤去してしまうのが世の常である。
浜からかつて線路があった場所に上がると、まだ線路が残っていた。

ポン太と北海道の旅
遠く苫小牧方を望む線路。
ポン太と北海道の旅
防潮板があるところまでが陸地だった。
ポン太と北海道の旅
路盤流出区間(様似方)を望む。
ポン太と北海道の旅
浜辺に落ちる駅間キロポスト、上記写真の左側に位置するもである。

ぶつりと切れた線路をたどれば苫小牧まで行けるだろう。
きっと、現役時代、多くの人は海を見ながら汽車に揺られて旅をしたのだろう。僕は敷石の上、あおむけで寝転がった。
目先の雲はせわしなく流れ、浜辺へ押し寄せる波の音、トラックが国道を駆け抜ける轟音、海風が草花を揺らす音達が辺りを支配していた。
この場所で黙するのは僕と線路だけである。

どれほどの時間を過ごしたのだろう。
雨が降り出した。急いで浜辺を歩きポン太号に戻る。
ポン太号に着く頃にはすっかり肩が冷たくなっていた。
エンジンをかけ一路、様似方面を目指し国道を走る。
大きな粒の雨が降り始めた。

ポン太と北海道の旅
切断された線路の向こうに荒れる海が見える。

相変わらず、波は激しく消波ブロックへ体当たりしている。
そのたびに波しぶきが空へ打ちあがる。
塩分を多量に含んだ空気がポン太号へ襲い掛かる。

進むうちに夜が忍び寄る19時。
風呂を探そうとナビを開くがない。
1時間先にかろうじて銭湯があるが、20時で閉まってしまうため間に合わなかった。
そうして、転がり込むようにたどり着いたのは静内駅。
日高本線の途中駅では最大の規模を誇る同駅。
交換設備、保線設備を有する駅であったが今となってはバスターミナル代わり。
とはいえ、係留地を確保できたことの安心感は大きい。
しかも、道の駅のようにトイレもついている。最高である。
荷台に入り寝床を調える。
コンビニで買ったおにぎり5つを胃袋に放り込む。
ビールでとどめの流し込み。
豪華な食事も終えたら歯を磨き、ボディーシートで全身を拭く。
22時過ぎ、町は静まり返り波の音だけが聞こえる。僕はそのまま眠りに落ちた。

ポン太と北海道の旅
夜10時の静内駅。バス停の代わりとして今も使われている。

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旅の3日目は広尾町、富良野方面を旅する

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