暑熱順化訓練を考える<br>―対応能力低下と重大事故を防止するために―

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暑熱順化訓練を考える
―対応能力低下と重大事故を防止するために―

最近では、『暑熱順化』という言葉を聞くようになった。そもそもこの暑熱順化訓練とは何なのだろう? どんな効果があるのだろう? どれくらいの早さで慣れるものなのだろう? どんな風にやればいいんだろう? そんな問いかけに答えていきたいと思う。

文◎浜田昌彦

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消防隊員にとっての暑熱順化

消防の暑熱順化訓練をみてみると、おおむね東京消防庁の研究成果などがベースになっているようである。その実行は、各消防本部のそれぞれの部隊に任されているという話が多い。一方で、陸上自衛隊では化学学校や防衛医科大学校、中央病院を主体に暑熱順化のプロトコールが作成されている。これは、消防にとっても参考になりそうである。

もともと消防隊員は、火災の際に防火衣を着用して現場で一定時間活動する。それだけで熱い。さらに、近年の夏の暑さが加わる。また、CBRN関連の特殊災害対応の部隊はレベルA、B、あるいはCで暑苦しいPPEでの活動に耐えなければならない。そのための訓練ガイドのようなものは、全国の消防にとっても必要なものではないかと思う。それにより、暑熱順化訓練を最適化し、同時にその訓練間に熱中症患者を発生させてしまうリスクも最小限にできるだろう。

そこまでやる必要があるかという声もあるかもしれない。ただ、気温40℃に達した愛知県名古屋市の守山駐屯地で第十特殊武器防護隊と協同訓練する名古屋市消防局のレベルAの隊員を見た時、やはり陸自化学科と同様の暑熱順化プロトコルが必要だなと感じた次第である。実感として、日本の夏は年々暑くなりその期間が長くなっている。暑い中での消防活動で、状況判断も含めた普段の能力を発揮するために暑熱順化訓練は不可欠である。

暑熱への順化とは何か

暑熱順化とは、生物学的な“慣れ”の一種である。暑熱の影響は体に現れる。心拍数が上がり、体温も上がる。これらを減じることができる。したがって、暑い中でも仕事の効率が改善され、脳や肝臓、腎臓などの重要な内臓、筋肉へのダメージを抑えられる。最も顕著な変化は、発汗が早くなり、かつ汗が増加することである。

このような暑熱順化訓練のメリットをまとめてみると、深部体温の上昇が抑えられ、発汗が早く大量になり、皮膚の血流も早くなり、身体からの熱生成が低下する。また、心拍数は低下し、のどの渇きも改善され、汗や尿からの塩損失が減少し、内臓の防護も改善される。正しくやれば、いいことばかりである。

暑熱順化訓練を考える
陸自化学学校教育部BOC学生による化学防護衣装着下の筋力トレーニングの様子。

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暑熱順化の仕組み

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