1000床を持つ世界最大の病院船「マーシー」

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1000床を持つ世界最大の病院船「マーシー」

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メインデッキ2# 放射線科
アームを使ったレントゲン装置(写真)や超音波検査装置など移動できる機器も完備。
CTスキャンは64の断片を撮影できる。機器は船体が揺れても影響しないよう固縛されていることが地上の病院と異なる。
メインデッキ3# 血液バンク
10年間保存可能な血液製剤はマイナス80度の保管庫で冷凍保存されている。グリセリンを添加すると冷凍可能となり、解凍してグリセリンを取り除き使える状態にする。 
解凍後の血液は14日保存する。血液型はすべての血液に輸血できるO型(+/-)。「今回の航海で使用しなかった血液製剤は海軍病院に戻します」とキャラウェイ大尉。
メインデッキ4# Pre-Op
Pre-Opでは手術を行う前の最後の点滴を行ったり、準備を行う。
メインデッキ5# 手術区画
標準的な米海軍病院の手術室と同じ。衛星通信で陸上の海軍病院と情報を共有し、連携して手術を進めることもできる。
メインデッキ6# 集中治療室
ICUは隔離患者用ICUも含め4部屋あり、各室20床計80床。透析もできるベッドを完備する。MICUは設置していない。
ロボット手術装置ダビンチは、洋上で機能を検証するためにテストケースとして初めて搭載。「座って手術するので揺れる洋上には向いている」と医師のガドボイス少佐は話す。
ダビンチを使って胸部、腹部、男性器女性器などの手術を行う。写真は胸部用のシミュレータ。今回の航海ではスリランカで胆石除去手術1例とベトナムで婦人科手術3例を実際に地元民に施術した。
2個の8mmレンズで撮影した3D画像を見ながら操作。「サンディエゴ海軍病院にも2台あり、私も週に数回使用する。将来的にそこから遠隔手術できるかもしれない」とガドボイス少佐。
横須賀に入港した「マーシー」。(photo U.S.Navy)

今回、マーシーのメインマストの上には「31」と書かれた旗が掲げられていた。これは第31駆逐隊の指揮官がマーシーに乗船していることを示している。第31駆逐隊は6隻の駆逐艦を指揮下に持ち、西太平洋やインド洋などで活動している。なぜ戦闘艦の指揮官が病院船の作戦行動を指揮しているのか? 指揮官に直接質問してみると、「この海域を一番よく知っているのは我々だ」と話した。マーシーはサンディエゴをベースに訓練航海しており、短期の航海では船長が指揮を執るが、今回の派遣では高速輸送船「バーンズウィック」が帯同しているので指揮官が必要になるという。ただし、マーシーは戦闘指揮系の通信能力がないためマーシーからはイージス艦に指揮は出せず、イージス艦に乗りこんだ駆逐隊の副指揮官が全体を指揮するという。

こうした体制をとるのは、戦時には作戦海域内で病院船が医療活動するケースが想定されているからだ。場合によっては病院船の海域が不安定になり、駆逐艦の護衛が必要になるかもしれないし、あえて戦闘地域に近づく必要があるかもしれない。今回、マーシーがバーンズウィックと共にパシフィック・パートナーシップ演習に参加しているのは、有事の際に作戦海域で駆逐隊が病院船を運用することを想定した行動であるともいえ、アメリカ海軍が病院船を維持するために必要な訓練だったともいえる。

2018年6月13日から21日まで、アメリカ海軍の病院船「マーシー」が、東京港と横須賀港に初めて寄港。6月15日には東京港で関係者に公開された。日本が病院船を持つべきかどうかは過去に議論されたことがあり、沿岸部が壊滅的な被害を受けた東日本大震災後も、来たるべき南海トラフ巨大地震や首都直下地震等を見据え、内閣府主導で海からアプローチする医療支援として病院船が検討された。この公開は、災害医療への船舶活用について知見を得ようと政府が招致したもので、実際の病院船を学ぶ貴重な機会となった。 令和6年能登半島地震で改めて病院船の必要性が浮き彫りになったことから、Jレスキュー2018年9月号に掲載した記事をJレスキューWebで公開します。
写真・文◎柿谷哲也 Jレスキュー2018年9月号掲載記事

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