緊急車両の事故防止、スムーズな走行を作り出す! 新システム「ITS Connect」って何ですか?

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緊急車両の事故防止、スムーズな走行を作り出す! 新システム「ITS Connect」って何ですか?

最近、救急車両に搭載されている新機能として新車紹介でも目にするようになった、「ITS Connect(アイティエス・コネクト)」。実際にはどんな装置なのか、まだその名前すら知らない救急隊員がほとんどかもしれない。そこで、テクノロジーで自動車の安全性、快適性を実現しようとする特定非営利活動法人ITS Japanに、システムの詳細と自動車業界が見据える未来のクルマの世界について伺った。

取材協力/特定非営利活動法人ITS Japan 理事・青木 仁さん、
企画グループ部長・山田 宏さん
Jレスキュー2022年11月号掲載記事

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救急車の機関員が抱える緊急走行の2大課題「遅延」「事故」

コロナ感染者の感染拡大の波、夏場の熱中症患者の急増など、救急要請がある時期に集中し、救急車の稼働率が100%に近い状態の消防署所も近年散見されている。また、最新の消防白書によると、令和2年中の救急車の現場到着所要時間は平均約8.9分で、10年前と比較すると0.8分延伸している。この延伸の要因の一つには、緊急車両の走行が一般車両になかなか気づかれず、道を譲ってもらえないという理由があるという。近年の自動車は快適性能に優れているがゆえに、防音性能が高く、運転者が救急車のピーポー音に気づきにくいという状況もその要因の一つでもあるようだ。

また、緊急走行を行う機関員がもっとも気を配っているのが走行中の事故の回避であるが、赤信号での交差点進入時や右折時に対向車両が気づかずに進入してきてぶつかりそうになるヒヤリハット事例は救急隊員からよく聞かれる。

こうした緊急走行の状況改善策として、消防庁消防大学校消防研究センターと特定非営利活動法人ITS Japanは、官民連携による走行支援システム「ITS Connect」の効果評価を、名古屋市消防局と豊田市消防本部の協力のもとに平成30年度に実施しており、走行時間の短縮効果が示されたとレポートされている。

ITS Connectを搭載している車両
ITS Connectを搭載している車両は、東京消防庁、豊田市消防本部、長野市消防局など全国の消防本部で、約600車両(令和4年8月末時点、トヨタ自動車株式会社調べ)。写真のように一部の救急車にはITS Connectステッカーが貼られている。(写真/長野市消防局)
ITS Connectの仕組み

ITSとは、Intelligent Transport Systemsの略であり、高度道路交通システムのことである。道路交通が抱える事故・渋滞や環境問題など様々な問題を、最先端の情報通信(情報化)と制御技術(知能化)により解決するシステム全般を指しており、複数の省庁・企業の連携なしには実現しない大きなプロジェクトを取りまとめているのが、特定非営利活動法人ITS Japanである。

同団体では、1996年の発足時から(当時は別名称)「VICS(渋滞や交通規制等の情報をリアルタイムに送信し、カーナビに表示するシステム)」の導入に始まり、「PTPS(公共車両優先システム)」や消防警察等の緊急車両に導入されている「FAST(現場急行支援システム)」の実用化、そして今やほぼすべての一般車両がその利便性を享受している「ETC」の普及など、様々なシステムの実用化と普及で、道路交通環境の進化に貢献している。

「ITS Connect」は、車両同士や道路に設置された路側インラフ設備と車との無線通信による情報をドライバーに知らせ、運転の支援につなげるシステムである。一般車両と緊急車両(救急車等)が相互にこのシステムを搭載していた場合、走行中の一般車両に緊急走行中の救急車などが接近すると、車載モニターに「緊急車あり」という表示とともにおおよその距離と方向が表示される(下図参照)。例えば救急車両が交差点に近づいた時に、直接は救急車を視認できない一般車両が、緊急車両存在通知により早めに停止するという実証実験での例が消防研究センターの公式サイトでもレポートされている。

通知音が鳴る仕組み
緊急車両が接近すると、車両のモニターに右上のように表示され、通知音が鳴る(ITS Connect 推進協議会ホームページより)。

緊急車両の交差点進入時は、特に2車線道路で手前に大型バスやトラックが止まっていると、もう一車線の一般車両が死角に入り、緊急車両から視認できず、緊急車両進入時に対向車が直進してくるヒヤリ例が想定されるが、緊急車両と一般車両がITS Connectを搭載していれば、事前に音とモニターで緊急車両の接近を一般車両に知らせてくれ、事故防止につながる。

【右折時注意喚起】【緊急車両存在通知】

また、すでに救急車にITS Connectを搭載している消防本部からは、「緊急走行中、別の緊急走行中の救急車が近づいている際にITS Connectによってお互いの位置が分かって助かった」

「病院へ患者さんを搬送した後、駐車場で待機していたところ、次の緊急走行中の救急車が近づいてきたのがITS Connectによって分かり、速やかにスペースを空けることができた」等の声も聞かれ、救急車両間でも利便性を感じているようである。

特定の交差点間
ITS Connect 搭載により、特定の交差点間において、救急車の走行時間が平均7.7%短縮したと消防白書にも記載(出典/ITS Japan)

最後に、(特非)ITS Japanに今後の展望を伺った。

「緊急車両の走行中の事故は全国各地で発生しています。このシステムが国内で普及すれば、クルマを取りまく世界が変わると思います。現在は、トヨタ自動車が先頭に立ってシステムの普及に取り組んでいますが、その普及率はまだ国内の一般車両の1%にも届いていない段階です。できれば、このシステムが安全で快適な社会の実現につながることを国に理解してもらい、国内全体の普及を目指すために、例えば法規化するなどは有効な手段の一つと考えています。

今後は、自動運転のクルマが徐々に世の中に出てきます。この自動運転のクルマこそ、ITS Connectを搭載しておかなければ、自動運転のクルマが緊急車両の走行を妨げることになりかねません。未来のクルマ社会も見据えて、このシステムの普及を推進していきたいと思います」
 
現在はまだ助走段階ともいえる同システムだが、救急車両と一般車両への搭載が進むことで、安全でスムーズな緊急走行が実現するかもしれない。

最近、救急車両に搭載されている新機能として新車紹介でも目にするようになった、「ITS Connect(アイティエス・コネクト)」。実際にはどんな装置なのか、まだその名前すら知らない救急隊員がほとんどかもしれない。そこで、テクノロジーで自動車の安全性、快適性を実現しようとする特定非営利活動法人ITS Japanに、システムの詳細と自動車業界が見据える未来のクルマの世界について伺った。
取材協力/特定非営利活動法人ITS Japan 理事・青木 仁さん、 企画グループ部長・山田 宏さん Jレスキュー2022年11月号掲載記事

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