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ショアリング&リフティングの新たな可能性を探る【前編】
特定非営利活動法人ジャパン・タスクフォース(以下:JTF)が2017年6月24日~25日の2日間、兵庫県三木市の兵庫県広域防災センターの施設などで、これまでの活動を検証するイベントを開催した。
JTFは年に数回、検証イベントを開催しており、今回はこれまで行ってきた災害支援活動を振り返り、課題などを検討する内容とした。全国からJTFの会員が一堂に会し、様々な意見を交わした。
その模様を前後編に分けて紹介する。
Jレスキュー2017年9月号掲載記事
テーマ1:ショアリング×PPバンドの可能性 〜建物倒壊のリスク軽減を図る〜
※ (Presenter:一般社団法人ZENKON-nex 齊藤正氏)
JTFの熊本地震の支援活動中、ある団体と知り合う機会があった。その団体は、建物の危険度応急判定士が「赤」「黄」と判定された建物を再評価し、応急的な施工を加えることにより建物内で一時的に生活できるように支援する取り組みを行っていた。
震災で、自分の家が傾いていれば、たとえ建物が倒壊していなくても「赤」と判定され、建物内への進入は基本的にできない。家主は、まだ使用できる家財道具などを取りに帰りたいが、余震が頻発する状況では建物内に易々とは入れない。ZENKON-nexは、そのような状況を少しでも解消できないか? と支援を考えていた。
ZENKON-nexに施工の方法をうかがっているうちに、その方法の根幹は、ショアリングの概念と一致するのではという思いが生じた。ぜひとも参考にしたいと考え、共同で施工を行うことを申し出た。今回は、その施工の際に使用された「PPバンド」とその施工要領、施工の効果などを紹介する。
PPバンド施工を行うことで感じたことは、「建物評価」の重要性である。施工前にZENKON-nex代表の齊藤正氏によって建物評価がなされ、どの場所にどれくらいのPPバンドが必要になるかを図面化される。(図参照)
この図面化により、効果的かつ効率的に作業ができるのである。これを災害活動に当てはめるなら、安全対策にもなり得るはず。「建物評価」=「状況認識・評価(サイズアップ)」によって危険箇所を認識し、どのように安定・固定を図るかを計画する。これは、米国US&Rの緊急支柱作製(ショアリング)でも行われている手順である。大規模な建物のショアリングでは、実際にエンジニアが作成した図面をもとに作業がより安全に行われている。
さらにPPバンドの優位性は、資機材の調達である。災害現場で支柱を作製するための木材を調達する方法を確立している緊急消防援助隊は少ないのではないか? 木材の現地調達に限界がある中で、木材を最小限に抑えるためにPPバンドを活用することはできないだろうか。PPバンドをショアリングに組み込むという過程で必要なのは、木材とPPバンドの相性である。ショアリングは縦圧に強いが横揺れに弱く、PPバンドは横揺れに強いが縦圧には無力である。このお互いの弱点を補うことで、より効果的な支柱作製ができないであろうかというのが今後の検討課題である。ZENKON-nexとJTFでは、この課題を共同で研究し、倒壊建物内で活動を強いられる隊員の安全及び応急危険度判定で要注意以上と判定された建物の仮補強での活用を目指したいと考えている。
構造実験の様子
PPバンドは強度実験の結果、1本平均150kgの引っ張り力を支えることができることがわかった。7本使えば1tの荷重にも耐えられる。
※ 注意事項:必ず建築士の資格を持った技術者の立ち会いのもと、家屋の持ち主の了解を得て施工を行って下さい。 あくまで余震からの危険性を少なくするための応急的な補強です。 大きな地震時は必ず避難をして下さい。そして早い時期に復旧耐震工事をお勧めします。
PPバンドとは
PPバンドとは、荷物を結束するためやダンボール梱包の破損防止に用いられるプラスチック製のバンド。プラスチック製の部品で固定したり、表面を溶かして固定して用いる。PPとは、ポリプロピレン【PolyPropylene】の略であり、ポリエチレンと同様プラスチック樹脂として広く使用されている。汎用性プラスチックの中では最も軽く、ポリエチレンよりも耐熱性が高い。
施工時のチェックリスト(要約)
□ 要本人確認(持ち主の同意書)
□ 屋内作業は持ち主立ち合いで
□ 作業終了時も持ち主立ち合い
□ 要建築士有資格者の立ち合い
□ 建築士の平面見取り図と状況写真を残す
□ 写真と図面の適合(A,B,C等の札で)
□ ヘルメット、革手袋着用
□ ボランティア保険への加入(作業者全員)
□ ラジオ等の緊急情報取得
□ 施工は1チーム2名以上
□ 90分以内に水分補給と休憩
□ X軸とY軸の壁量一定以上、バランス良くPP筋交い配置。(目安は一つの壁に5本×以上、壁量はX方向Y方向ともに5間以上の補強)
□ 外周に補強を集中させる
□ 土台梁のホゾ抜けを感知した場合は、75角以上の横架材で補強
□ 最終確認後、事務局へ作業参加者、図面、写真の送付
※ (以上、事務局PPバンドプロトコルより抜粋)