【ドキュメント】御嶽山噴火災害<br>―長野県警察―

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【ドキュメント】御嶽山噴火災害
―長野県警察―

未曾有の大惨事となった御嶽山の噴火災害に対して、警察は警視庁から約100名、岐阜県警察からも約50名が参加して捜索・救助活動にあたったが、中心となったのは長野県警察だった。
長野県警察は災害発生時、県機動隊、長野県警の管区機動隊、警察署の警察官で編成される第二機動隊を合わせ、約400名を災害時の捜索・救助活動の主力としているが、うち約200名(最大)を御嶽山に派遣し、捜索が打ち切られた2014年(平成26年)10月16日(木)まで、厳しい環境下での救助・捜索活動にあたった。これらの部隊の中で最初に現地に入って活動を行ったのが県機動隊だ。

Jレスキュー2015年1月号掲載記事
文◎竹内修
活動写真◎長野県警察

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捜索のため士気高い長野県警察

初動は山岳救助班とレスキュー班で

2014年(平成26年)9月27日、噴火発生直後の第一報が長野県警察機動隊本部に入り、待機が命じられた。同隊の副隊長を務める金森勉警部は、前回御嶽山が噴火した1979年(昭和54年)に警察学校に入校し警察官としての第一歩を歩み始めたことから、その時の噴火を記憶していた。だが、まさかこれほど大きな噴火災害が起こることになるとは、想像だにしていなかった。

県機動隊に出動命令が下ったのは12時55分。金森副隊長以下12名の隊員が現場に向けて出動した。約40名の精鋭からなる県機動隊は山岳救助班と水難救助などを行うレスキュー班、柔道班、剣道班の4班から構成されており、まず待機班の中の山岳救助班とレスキュー班を中心としたメンバーが出動したが、翌28日日曜日から30日火曜日までは、隊長以下4班のほぼ全員が出動して捜索・救助活動を行った。

今回捜索・救助活動にあたった機動隊員の多くは20代から30代と若いが、厳しい訓練を重ねながら東日本大震災の救助活動にも出動するなど、災害現場での経験も積んでおり、1人も脱落することなく任務を完了した。

金森副隊長は過去に管区機動隊で勤務した経験があるが、県機動隊へは半年前に着任したばかりだった。今回の任務を完遂できたのは、猛者揃いの隊員の指揮を執るため、半年間身体を鍛え直していたからだという。金森副隊長は平成7年に発生した阪神淡路大震災の救助活動にも従事し、また昭和60年の日航ジャンボ機墜落事故の際にも現地で捜索・救助活動にあたるなど場数を踏んできた指揮官だが、歴戦の指揮官からこのような言葉が聞かれるほど、今回の捜索・救助活動はハードなものだった。

御嶽山噴火災害 長野県警察
捜索活動の最終日となった10月16日の模様。今回の救助活動で最大規模の人員を投入し、警察、消防、自衛隊によるローラー作戦が展開された。
自力下山者の救助へ

噴火発生当日の27日、木曽町に到着した機動隊は、まず木曽警察署で署長以下署員から状況説明を受けた。そこで、現場では火山性ガスが発生しているため、まず登山道王滝ルートの入り口である田の原口(王滝口)で待機するようにとの指示があった。田の原口には地元の木曽広域消防本部と王滝村役場の人員も待機しており、御嶽山のいくつかの山荘と連絡を取り合っていた王滝村役場の担当者から、山荘のスタッフが負傷者を連れて下山するとの連絡が入ったことが明らかにされた。

これを受けて県機動隊と地元消防の隊員10名程度からなる救助チームが編成され、途中で下山してくる山荘のスタッフと負傷した登山客を発見した。彼らに後続する下山者がいるとの情報を得た救助チームは、さらに2名の登山客を発見。そこで、まだ下山してくる人がいるようだという情報を入手した。

このため下山する山荘スタッフと登山客をサポートする4名を除いた残りの救助チームは8合目まで向かったが、すでに日が落ちて視界が悪く、これ以上登頂を続けるのは危険だった。そこで救助チームは少し登山道を上り進め、そこから山頂に向けて声をかけ、要救助者の有無を確認したところ、登山者のものと思しきライトを確認。前進して、1名の男性を発見した。男性によれば、これ以上後続する下山者はいないとのことで、救助チームは男性と共に下山した。

御嶽山噴火災害 長野県警察
長野県警察の救助部隊の隊長を務めた金森機動隊副隊長が使用した活動靴。どんなに洗っても、泥は取れなかった。
灰色の世界、足下は岩だらけ

翌28日、県機動隊の12名は管区機動隊の10名と共に、救助活動のため登山道の田の原口に向かった。田の原口には災害派遣出動した自衛隊と緊急消防援助隊、長野県内の消防相互応援隊が到着しており、金森副隊長と自衛隊、消防の指揮官で救助方法の進め方について協議。その結果、王滝頂上山荘まで登頂することが決まった。前述したように、山頂付近では有毒な火山性ガスの発生が確認されていたため、ガス濃度測定器を持つ自衛隊と東京消防庁のハイパーレスキュー、そして各部隊の指揮官が先導し、自衛隊、消防、機動隊の部隊が続くという形で登頂した。

その後の活動でも、警察機動隊と自衛隊、消防による合同チームの活動にあたっては、王滝村役場の現地対策本部で指揮官による話し合いを行い、任務の分担や救助活動にあたる人員の配置などを決定していった。指揮系統の異なる組織が協働していくには綿密な調整が絶対不可欠となる。県機動隊は陸上自衛隊の第13普通科連隊とテロリストの襲撃を想定した共同警備訓練やレンジャー訓練などを実施しており、また消防とも災害対応の共同訓練や、河川事故などでの合同救助活動を実施している。金森副隊長によれば指揮官はもちろん隊員同士も交流があり、これが現場指揮所での意思の疎通や方針の決定をスムーズにしたという。

また金森副隊長は自衛隊や消防の士気や技量はもちろん、自衛隊のヘリコプターの性能やパイロットの操縦技術、陸上自衛隊が行方不明者の捜索活動に投入した金属反応を画像として投影する89式地雷探知機(画像型)などを高く評価しているが、このように他の組織への信頼を互いに持っていたことも、困難な状況下での捜索・救助活動を共にする上で大きかったのではないかと思われる。

午前10時ごろに登頂を開始した合同救助チームは、約2時間で王滝頂上山荘に到着したが、そこは灰色の世界だった。前述したように金森副隊長は阪神淡路大震災の救助活動に従事しているが、噴火後の現場をみた瞬間、大火災により一面が灰となった長田区の光景を思い浮かべた。指揮官として口に出すわけにはいかなかったが、危機迫る思いだった。県機動隊が救助した登山者によれば、噴火の際に軽自動車大の岩石が火口から飛んできたとのことである。

御嶽山噴火災害 長野県警察
急峻で、登山道がどこかの判別もつかなくなった灰色の山頂。噴石と火山灰に足をとられないよう、慎重な活動が求められた。

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登頂の倍以上の時間をかけ担架で搬送

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