【ドキュメント】御嶽山噴火災害<br>―長野県警察―

Special

【ドキュメント】御嶽山噴火災害
―長野県警察―

Twitter Facebook LINE
登頂の倍以上の時間をかけ担架で搬送

この時点で救助チームは山頂に要救助者が何人いるかという情報を得ていなかったが、王滝頂上山荘内に要救助者がいることだけは把握していたため山荘へと向かい、生存者6名と心肺停止状態の要救助者1名を発見した。その後、救助チームは周辺の捜索を続け、剣ヶ峰へ進む山道で生存している女性1名と、3名の心肺停止状態の要救助者を発見。救助チームの各指揮官の間で協議をした結果、自衛隊と消防が生存者の下山をサポート、長野県警察の機動隊と自衛隊で担架を使って心肺停止状態の要救助者の搬送を行うことになった。機動隊は要救助者1名につき6名程度の隊員を搬送に付かせたが、登頂時には2時間だった行程に、下山時は約4時間を要した。

この日の活動は、火山性ガスの発生が確認されたことから14時をもって終了した。なお、この時点で山小屋に退避していた生存者は全員の下山が完了し、翌日以降の活動は行方不明者の捜索が中心となる。

29日も機動隊・自衛隊・消防による合同救助チームは山頂へと向かい、心肺停止状態の要救助者を発見したが、火山性ガスの濃度が上昇したことや、風向きにより噴煙が迫っていたことなどから、13時30分に捜索・救助活動を終了した。30日も早朝から救助活動を再開したが、火山性微動の振幅が大きくなったため、活動の中断を余儀なくされている。県機動隊は30日に一旦待機状態となったが、翌10月1日にはようやく状況が落ち着き、目視で確認できた心肺停止状態の要救助者の搬送を行っている。

今回の捜索・救助活動は、捜索チームが再噴火や火山性ガスによる二次災害による被害を避けることを最優先で行った。二次災害を防ぐため、金森副隊長は山頂で自衛隊、消防の指揮官と噴火の状況や風向き、火山性ガスの濃度などの情報を共有し、常に三者で協議をしながら作業を進めた。

四方を山に囲まれた長野県には活火山も多く、県東部の浅間山などでしばしば噴火も発生しているが、今回の御嶽山のような水蒸気爆発や火山性ガスが発生する噴火事案への対処は長野県警察にとっても経験がなく、それゆえに活動には慎重を期す必要があった。

御嶽山噴火災害 長野県警察
王滝頂上山荘から王滝奥の院の捜索模様。火山性ガスの濃度は高く、防毒マスクが欠かせなかった。
園芸用の支柱を検索棒に

このように時々刻々と変化する火山活動は捜索・救助チームの行動を阻み、また活動を制約したが、10月に入ると、さらに捜索・救助チームの活動を阻む大きな要因が発生する。二度にわたる台風の襲来だ。最初に襲来した台風18号により、10月5日と6日、続いて一週間後の台風19号により、10月13日と14日の捜索活動が中断させられたが、それ以上に救助チームの活動を阻んだのが、雨によって泥濘化した火山灰の存在だった。長野県警察機動隊は5日に再び現地入りしたが、活動を行うことができないまま麓での待機を余儀なくされている。

台風18号が去り、捜索・救助活動が再開された10月7日、金森副隊長をはじめとする機動隊は、陸上自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターに搭乗して山頂へ向かい、火口付近にある二ノ池付近に降り立ったが、金森副隊長によれば、CH-47の後部ランプドアから地上に降りた瞬間、泥濘化した火山灰の中に膝まで漬かり、履いていた警備靴の中には瞬く間に水が入り込んできたという。雨によって灰が洗い流されたことで、数名の心肺停止状態の要救助者を発見することができたとはいえ、火山灰の泥濘化により埋もれてしまった行方不明者の捜索は困難を極めた。

泥濘化した火山灰は粘度が高く、スコップにこびりつくたびに手でぬぐって作業を進めた。捜索には金属探知機も用いられたが、岩石に含まれる鉱物に反応してしまったため、行方不明者の発見に大きく寄与することはできなかった。

こうした事態に対処するため、県機動隊は様々な資機材を臨時に調達して対処した。県機動隊は土砂災害などでの行方不明者を捜索にゾンデ棒を用いているが、装備していたゾンデ棒では長さが足りなかったため、ホームセンターで園芸用の支柱を購入して、ゾンデ棒として用いることにした。また、警備靴への水の浸入を防ぐためのスパッツや、スコップについた火山灰をぬぐうためのゴム手袋などを大量に調達している。ちなみにスパッツは山岳班の経験から調達されることになったという。

通常県機動隊が着用している合羽は化学繊維を素材とするものだが、徒歩により登頂する隊員のために、通気性の良いゴアテックス素材の合羽が調達されたほか、前述した金属探知機に関しても、東北大学から陸上自衛隊の89式地雷探知機(画像型)と同様に、金属を画像として検知できる探知機を借り、捜索活動の終盤に投入している。

こうした機材の中には県機動隊から要望が上がる前に、長野県警察から先んじて調達・支給されたものもあるという。また、泥濘により水が入ってしまった警備靴も、県機動隊が捜索活動から戻ると、すでに新しいものが用意されていたという。土木機械などが持ち込めない山頂での捜索活動は人間の力が頼りとなるが、その人間すなわち隊員たちの健康を維持し、効率的な作業を行うためのロジスティックスの充実が、捜索活動の大きな力になったと金森副隊長は語る。

県機動隊には昼食としておにぎりが支給されていたが、火山灰が降り注ぐ環境下ではとても食べられるものではなく、また日没時間との兼ね合いから山頂での作業時間は4~5時間程度に限定されたので、自衛隊、消防とも昼食抜きで作業を続け、体力維持のためゼリー飲料やチョコレートなどで栄養を補給したという。

御嶽山噴火災害 長野県警察
活動の後半に入ると、警察の機動隊が備える盾を自衛隊や消防に貸与し、噴石避けに活用された。
御嶽山噴火災害 長野県警察
検索棒として当初はゾンデ棒が使用されてたが、長さが足りず、ホームセンターでも購入可能な園芸用の支柱が用意された。
捜索打ち切り

火山灰の泥濘化と共に捜索を困難にしたのが気候の変化だ。台風一過後は急激に気温が下がり、10月7日の時点ではすでに薄氷が張り、またつららも目撃されたという。2度目の台風が去った10月16日には、山頂で初の冠雪が記録されており、泥濘化していた火山灰が凍結し、捜索にあたった隊員たちに凍傷のおそれすらあったという。この事態を受けて長野県災害対策本部と岐阜県火山災害対策本部は、山頂付近での積雪などによる二次災害の危険が強まったとして、同日をもって大規模な捜索の打ち切りを決定した。

取材当時ではまだ6人の行方がわかっておらず、行方不明者の近親者にとって捜索の打ち切りは身を切るような思いであったことは想像に難くないが、その思いを県機動隊は共有している。

金森副隊長は1人の脱落者も出さずに、与えられた任務を完遂できたことには満足しているが、時間が許さず全員を発見できなかったことは残念であり、県機動隊の隊員全員はもちろん、苦労を共にした消防や自衛隊の隊員たちも同じ気持ちでいるのではないかと語った。

阿部長野県知事は来年以降の捜索活動に関して、火山活動や天候などの状況を総合的に判断し、来年の春以降に警察、消防、地元自治体などと協議した上で、来年春以降に再開の判断を行うと述べている(注:取材当時、翌平成27年7月29日に捜索活動を再開)。金森副隊長は長野県から命令が下ればいつでも出動できるように、隊員の士気を維持していくことを決意しており、行方不明者の近親者のための説明会で聞いた近親者の方々の思いを隊員たちに語り伝えている。また、来年以降の捜索活動では自衛隊のヘリコプターの支援を受けられないため、体力の充実も図っていくという。

金森副隊長の強い決意を受け止めた隊員たちの士気は高く、来年春以降の捜索活動の再開に向けて現在も体力と気力の充実に努めている。

御嶽山噴火災害 長野県警察
降雨後の山頂では、写真のように泥濘化した火山灰に膝まで埋まってしまう事もあった。
御嶽山噴火災害 長野県警察
ロープで確保した降下しないとならない現場でも、ロープレスキューを導入しているレスキュー隊員が対応し、崖になっている現場も隈なく検索した。
御嶽山噴火災害 長野県警察
要救助者の捜索は難航し、金属探知機も活用して検索されることになった。
未曾有の大惨事となった御嶽山の噴火災害に対して、警察は警視庁から約100名、岐阜県警察からも約50名が参加して捜索・救助活動にあたったが、中心となったのは長野県警察だった。 長野県警察は災害発生時、県機動隊、長野県警の管区機動隊、警察署の警察官で編成される第二機動隊を合わせ、約400名を災害時の捜索・救助活動の主力としているが、うち約200名(最大)を御嶽山に派遣し、捜索が打ち切られた2014年(平成26年)10月16日(木)まで、厳しい環境下での救助・捜索活動にあたった。これらの部隊の中で最初に現地に入って活動を行ったのが県機動隊だ。
Jレスキュー2015年1月号掲載記事 文◎竹内修 活動写真◎長野県警察

Ranking ランキング