【ドキュメント】御嶽山噴火災害<br>―陸上自衛隊―

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【ドキュメント】御嶽山噴火災害
―陸上自衛隊―

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陸上自衛隊 第12ヘリコプター隊の活動

吊り上げ救助も、隊員輸送も、陸自のヘリだから可能だった

御嶽山は標高3000メートルを超える。さらに今回の災害では噴煙・噴石・火山灰などヘリコプターの運用に支障をきたす要因が多かった。情報収集では各機関のヘリが出動し、救助では岐阜県警察が噴煙のない岐阜県側で吊り上げ救助を行ったが、被害が大きかった長野県側で救助活動のために運用できたのは自衛隊のヘリコプターだけだった。そして、ヘリコプター部隊として長野県側の救助活動で終始活動にあたったのが第12ヘリコプター隊である。

御嶽山噴火災害 陸上自衛隊
御嶽山頂上付近で、ホイストによる吊り上げ救助を行う第12ヘリコプター隊の中型機のUH-60JA。
全国に緊急展開する空中機動旅団

記者:第12ヘリコプター隊とはどのような部隊か?

第12ヘリコプター隊長・1等陸佐鈴木力(以下、鈴木):第12ヘリコプター隊は平成13年(2001年)3月に創隊された部隊で、隊本部、本部付隊及び2個飛行隊によって構成されている。群馬県の相馬原駐屯地に隊本部、本部付隊と第2飛行隊、栃木県の北宇都宮駐屯地に第1飛行隊が所在しており、本部付隊には観測ヘリコプターのOH-6D、第1飛行隊には多用途ヘリコプターのUH-60JA、第2飛行隊には輸送ヘリコプターのCH-47J/JAが、それぞれ配備されている。OH-6Dは小型機だが、一部の機体には赤外線監視装置などが装備されており、高い観測能力を持っている。中型機のUH-60JAは強力なエンジンを2基備えており、万が一1基のエンジンが停止しても飛行を継続できる。CH-47J/JAは人員や大型貨物を輸送する大型ヘリコプターで、今回の派遣では山頂で捜索を行う自衛隊、警察、消防の隊員の輸送などを行っている。

記者:御嶽山以前にも災害派遣の出動実績があるが、これまでどんな災害で活動してきたか?

鈴木:平成13年以来、災害対応には60回以上出動している。第12旅団管内で発生した新潟中越地震などはもちろん、平成23年の東日本大震災にも出動している。第12ヘリコプター隊が属する第12旅団は、ヘリコプターの空中機動力を活かして全国に緊急展開する空中機動旅団と位置づけられており、第12ヘリコプター隊は管轄区域の栃木・新潟・長野の各県以外で発生した、空中からの救難を必要とする災害へも派遣されている。

御嶽山噴火災害 陸上自衛隊
活動4日目から隊員の輸送に活用された大型輸送機CH-47J/JA。
ローターで火山灰を吹き飛ばしながら降下

記者:御嶽山噴火の災害派遣は、どのような形で行われたのか?

鈴木:9月27日14時31分に、長野県知事から第13普通科連隊長に対して災害派遣要請が発出された。これに伴う旅団からの命令を受けて第12ヘリコプター隊では15時14分に、北宇都宮駐屯地からUH-60JA、続いて15時26分に相馬原駐屯地からOH-6Dがそれぞれ離陸し、現場の上空へ向かった。

記者:初日の上空から見た御嶽山は、どのような状況だったのか?

鈴木:当日現地に行ったパイロットの話によれば、降灰がひどく、あまり山頂に近づける状態ではなかったという。このため当日は目視とカメラによる情報収集を行い、翌28日からUH-60JAを用いたホイストによる人命救助活動を開始した。なお、翌日からの救助活動開始に備えて、1機のOH-6Dと2機のUH-60JA、そして1機のCH-47を松本駐屯地に、さらに2機のCH-47を松本空港に待機させていた。

記者:過去の救難活動と今回の御嶽山の救難では、何が異なっていたのか?

鈴木:噴煙はもちろんだが、高標高地での活動という点も、過去の救難活動にはなかった状況だ。ヘリコプターの出動に際しては、山頂の気温、航空機の重量などから、どの機体がどの程度の性能、とりわけホバリング性能を発揮できるかを事前に計算していたが、当初の計算よりも厳しい環境であったことは確かだ。またわれわれの保有しているヘリコプターには、空気吸入口へのフィルターの装備といった、火山灰への対策は特に施されていない。火山灰を吸い込むとエンジン出力の低下や、エンジンの停止といった事態が起こる可能性がある。火山灰がどのあたりに積もっているかは、上空からの偵察である程度把握できたが、どのくらい積もっているのかといった情報までは入手できない。このため火山灰を吸い込まないように注意を払いつつ、メインローターで火山灰を吹き飛ばしながら降下を行った。

記者:かなり難しいフライトだったのでは?

鈴木:その通りだ。特に最初に人命救助活動を行ったUH-60JAに関しては、手探りのフライトだったと思う。

記者:地上との連携はどのように取っていたのか?

鈴木:地上から救助に向かった自衛隊の部隊とは、無線機を使って意思の疎通を図った。また救難活動の中核となった松本駐屯地の第13普通科連隊は王滝村役場に現地指揮所を設けているが、第12ヘリコプター隊からも捜索活動の方針などを共有するため、その指揮所に連絡幹部を派遣している。また捜索の焦点を把握するため、私自身も現地に飛んで第13普通科連隊長と話をしている。王滝村役場には警察と消防の現地対策本部が置かれていたので、第13普通科連隊を通じて、捜索活動のニーズを把握することもできた。

記者:28日には何名の要救助者をヘリで救出したか?

鈴木:28日には合計23名の要救助者をUH-60JAのホイストによる吊り上げと接地により救助した。大部分の生存者は自力で下山できたので、われわれがヘリで救助したのは負傷などの理由で、自力下山が不可能だった方々だ。救助には前日、松本駐屯地で待機していた2機のUH-60JAがあたり、どこで収容するかなどを地上の部隊と無線ですり合わせて収容した。

御嶽山噴火災害 陸上自衛隊
活動後期は、灰の上に約5cmの積雪があり、現場活動をさらに困難にした。
高標高でのホイストは訓練で経験

記者:29日以降の救助活動はどうであったか?

鈴木:29日は火山性ガスの発生により、地上から救助に向かった第13普通科連隊の第1中隊が退避を余儀なくされた。われわれはUH-60JAにより一部の捜索隊員を山頂まで空輸するとともに心肺停止状態となった要救助者の救出を継続し、同日8名の要救助者を搬送した。火山性微動が活発化した30日はOH-6Dによる情報収集活動のみにとどまったが、10月1日からは松本駐屯地で待機していたCH-47J/JAが捜索隊の空輸を開始し、同日だけで自衛隊員約70名、警察約40名、消防隊員約70名と、削岩機やスコップなどの捜索機材の空輸を行った。また、UH-60JAによる心肺停止となった要救助者の搬送も、並行して実施している。

記者:CH-47J/JAがすぐに運用されなかったのは、大型機の離着陸が難しかったからか?

鈴木:CH-47J/JAはダウンウォッシュ(注:ローターの回転によって生じる下向きの気流)が大きいので、すぐには投入に踏み切れなかった。そこで最初はUH-60JAで捜索隊の空輸を行ったが、山頂の状況などを検証した結果、CH-47J/JAが投入できるという結論に達し、決行する事になった。

記者:CH-47J/JAを、あの山頂の狭いスペースにどのように降ろしたのか?

鈴木:CH-47J/JAの離発着には約100m×約100mのスペースが必要とされているが、地盤が脆弱でなく、周囲に障害物などがなければ、もう少し小さいスペースでの離発着も可能なのだ。御嶽山の山頂には若干平坦なスペースがあったため、この高い標高で火山灰が堆積している状況ではあったが、離着陸することができた。

記者:第12ヘリコプター隊は、今回のような標高3000m超での救助活動を過去にも何度か経験されていたのか?

鈴木:実任務としてはないが、訓練では標高の高い山間部でのホイスト降下訓練を年に数回行っており、火山灰と似た環境として、積雪地での離着陸降下訓練も行っている。その訓練の教訓を活かし、今回の救助活動ではホワイトアウト(注:雪などで視界が白一色となって方向・高度・地形などが識別不能となる現象)のような状態を避け、もし何かあった場合に回避できるよう、通常よりも少し高い場所から少しずつホイストを降ろした。

御嶽山噴火災害 陸上自衛隊
ヘリコプターの離発着場となった松原スポーツ公園では、搬送されてくる要救助者の引き渡し訓練も警察、消防が参加して行われた。
毎日の整備で火山灰のダメージを回避

記者:指揮官として、救助活動でどんな点に特に注意を払われたか?

鈴木:やはり何をおいても、再噴火を含めた二次災害による被害を避けること。幸いなことに再噴火はなかったが、気象庁から再噴火の予兆を緊急連絡してもらえる仕組みを作っていたので、再噴火の予兆があれば、回避するという態勢は作っていた。

記者:細心の注意を払って山頂に接近したとはいえ、ヘリコプターのエンジンは相当ダメージを受けたのでは?

鈴木:大きなダメージは受けていない。自衛隊のヘリコプターには、火山活動状況下で行動する際の整備マニュアルが事前に定められており、任務に投入されたヘリコプターはマニュアルで定められた点検整備を行い、翌日の任務に備えるという形で運用したため、翌日の任務に支障を来たすことはなかった。これはなるべく火山灰を吸い込まないように飛行したパイロットと、1日の任務終了後に丁寧な整備・点検を行った整備員の技量によるところが大きいと思う。

御嶽山噴火災害 陸上自衛隊
山麓と山頂の間を何度も往復し、自衛隊を始め、警察、消防の救助隊員を輸送した大型輸送機CH-47J/JA。
ヘリコプターの機動力が活かされた現場

記者:派遣された隊員の方々はどのような心構えで、任務にあたられたのだろうか?

鈴木:全員、使命感に燃えて任務にあたっていたと思う。他方で二次災害の危険性も十分理解しており、航空機の性能、自分たちの技量の範囲を踏まえた、冷静な対応をしたのではないかと思う。

記者:火山の噴火災害という状況下において、どのような点でヘリコプターの有用性を感じられたか?

鈴木:28日の救難活動では、怪我などをされた要救助者の方々を一刻も早く救助する必要があった。ヘリコプターを用いたことで、地上から救助するよりも早く救助でき、ヘリコプターの有用性は証明できたのではないかと思う。もう一つ、自衛隊、警察、消防などの捜索隊を山麓から山頂まで空輸し、迅速に現場に送り込むことができたことでも、ヘリコプターの有用性を改めて感じた。地上から現場まで徒歩で向かうと、時間もかかるし、また捜索隊員は体力を消耗する。CH-47J/JAによる捜索隊員の空輸は、捜索活動の効率化に大きく貢献できたのではないかと思う。また標高差があるという点でも過去に例がないシチュエーションだったが、そのような状況下でも、ヘリコプターの持つ機動力は十二分に活かされたのではないかと思う。

1等陸佐 鈴木力(すずき・つとむ)

1等陸佐 鈴木力(すずき・つとむ)

陸上自衛隊 第12旅団 第12ヘリコプター隊長

陸上自衛隊のべ7150名、泥まみれの活動 「全員を探し出したい」一心で捜索活動を続けた自衛隊 3000メートルを超える山頂の噴火現場での人命救助という前例のないミッションにおいて、自衛隊は自衛隊にしかできない高度な活動を次々に展開した。自衛隊ヘリ以外では不可能だった吊り上げ救助、レスキュー隊員の山頂への輸送。そしてマンパワーを生かして降灰舞う現場で行った捜索活動。今回の御嶽山噴火災害では、隊員約600名(のべ7150名)、車両約130台、航空機17台を動員し、21日間にわたる決死の活動を行った。 (注)UH-60JAは他の御嶽山噴火の関連記事ではUH-60、CH-47J/JAは他のページではCH-47と表記しています。
Jレスキュー2015年1月号掲載記事 文◎竹内修 現場活動写真◎陸上自衛隊

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