Special
笹子トンネル 天井板落下事故
【災害事例ドキュメント】
Profile
大月市消防署 当直司令 消防司令 蔦木正文
昭和54年4月拝命。山梨県消防防災航空隊・第一期副隊長。現在は当直司令として指揮隊長を務める。
2次災害だけは絶対に起こせない
どんな災害も現場に行ってみなければ分からない事が多い。とにかく状況把握を優先させなければならない。現場はどんな状態で何台の車両が埋まっているのか。災害の規模、状態が分からなければ救助活動の方針も決まらないし、応援をかけるかどうかの判断もできない。今回の災害は第一報だけでは不明なことも多く、とにかく現場確認が急がれたが、再崩落の危険性を常に抱えていた。現場確認のために数名が最初にトンネル内に入ったが、天井板が落下しない保証はなかった。消火活動が難航し、化学隊を投入したい場面もあったが、化学車からホースを伸ばしている間に天井が落ちれば隊員を負傷させることになる。その選択はできなかった。
安全が確認されるまで、待機時間が長く、多くの隊員が「早く救出を開始したい」という思いを抱えていたが、このような災害では、2次災害を起こしてしまう事の方が怖い。消防活動は賭けができない。活動中に崩落があれば、活動どころではなくなる。第一に安全確認であることを再確認させられる現場であった。
Profile
大月市消防署 救助隊長 消防士長 小俣貴史
平成4年拝命。山梨県消防防災航空隊を経験。平成24年より救助隊隊長。
トンネルに限らず
あらゆる施設での災害想定を
トンネル内で起こりうる災害としては、車の衝突事故などを想定してきたが、天井の板が落ちてくるとは考えもしなかった。今回の事故では、老朽化が原因ではないかという専門家の見解もある。老朽化という点では、同じく高度成長期に造られている施設は全国各地に多数ある。トンネルに限らず橋など管内にある建物でどんな災害の危険性があるのか想定して備えていかなければならないのではないだろうか。
また、高速道路を日本道路公団が管轄していた時代は、年に1回のトンネル点検の日に合わせて、車両を通行止めにする夜間に、公団と管轄する2消防本部、警察による合同訓練を実施していたが、民営化され組織が変わってしまって以降は、消防のトンネルでの定期訓練も途絶えていた。トンネル内の消火栓の位置は日頃から確認を行っていたが、今回はトンネル内の活動に不慣れな若手の隊員もいた。今後は東山梨消防と合同訓練を定期的に計画していきたい。
Profile
大月市消防署 救急隊 (救急救命士) 消防副士長 牧野公則
平成16年拝命。 平成24年 救急救命士資格取得。
DMAT4チーム、ドクヘリ出動
万全を期した救急対応
笹子トンネルの事故は、死者計9名を出す大惨事となったが、現場でトリアージを要するような、重症・中等症の被災者は少なく、救急搬送されたのは軽症者1名、中等症者1名、重症者1名(後に死亡確認)の3名のみだった。とはいえ、事故発生直後は状況把握に時間がかかり、負傷者に人数など災害の規模がなかなか確定できずにいた。重傷者は現場での医師の判断、迅速な救急搬送が必要になると判断し、10時13分に山梨県ドクターヘリを要請した。医師2名が臨時離着陸場から救急車で現場入りし、その後は医師と救急隊による判断で、山梨県DMAT3隊(山梨県立中央病院、山梨大学医学部付属病院、山梨赤十字病院)に出動を要請し、13時45分には東京DMAT(災害医療センター)にも出動を要請した。
トンネル西坑口では、トンネル内で立ち往生していた後続車両からの避難者が多数いたため、東山梨消防がトリアージシート、応急救護所を設定して対応していた。とくにトンネル内を歩いて避難する人が多かったため、トンネル内で発生した火災で煙を吸って具合が悪くなることが想定されたが、幸い軽症者がわずかであった。結果的に今回はトリアージを必要としなかったが、多数傷病者発生の可能性の高い事案であっただけに、救急は適切な即時対応体制が整えられていた。