消防にとって、リーダーの条件とは何か?

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消防にとって、リーダーの条件とは何か?

リーダーの如何は部隊活動の成否をも左右する。
命の危険が伴う現場で、どんなリーダーならば
人命救助という消防のミッションを成し遂げられるのか?
今の時代に求められるリーダーシップ像について解説する。

Jレスキュー2014年9月号掲載記事

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Profile

伊藤克巳

伊藤克巳いとう かつみ

元東京消防庁 防災部長
1952年8月生まれ。1977年東京消防庁入庁。1991年総務省消防庁消防大学校助教授、2001年東京消防庁神田消防署長、2005年東京消防庁第八消防方面本部長、2007年東京消防庁企画調整部長、2009年東京消防庁警防部長、2010年東京消防庁防災部長、2012年退役。
(写真/笹谷美佳)

3つのリーダーシップを使い分けられるリーダーが必要

専制・民主・人間の3要素

消防組織とは、隊長・リーダーの命令を絶対として動く部隊であり、災害現場では部下や市民に対して一方的に命令し、服従を求めるものである。

しかし今、こうした専制的なリーダーが育ちにくい時代になっている。その一つの要因に、消防行政において災害対応以外の予防、査察、救急、住民指導の比重が増えてきたことがある。職員の価値観も変化してきた。頭はいいが危険を体感したことがない、スポーツをしたことがない若者が少なくなく、人の痛さを感じたことがない、親からも怒られたことがない若者が職員として入ってきているのだ。彼らに対しいかに厳しく指導するとしても、パワハラのような指導は許されない時代である。加えて災害件数は大幅に減少し、東京都で10年前は1万件あった災害も今は3000〜4000件程度だ。隊員の災害経験が圧倒的に少なくなっているため、時間の経過と災害拡大の関係性、落下速度と衝撃の予測、輻射熱がどれほどのものであるかを体で学ぶ機会がないのである。訓練ではガスバーナーの火で熱を体感する訓練施設もあるが、それでは実火災の輻射熱は再現できない。現場の真の危険性を理解しにくい環境になってきているのだ。

そんな中、すでに女性の消防隊員も出現しており、指導する口調も優しい民主的なリーダーシップが主流になりつつある。さらに消防団や地域の防災市民組織、少年消防団との協力体制の確立や一般市民向け防災救急講習を行っていくような関係性のなかでは人間性主体のリーダーシップが求められる。

とはいえ、東日本大震災では253名の消防団員、27名の消防職員が殉職している。部下の命を預かる災害現場ではやはり強い専制的なリーダーシップが欠かせない。例えば危険な現場で最後の砦ともなるハイパーレスキューの隊長はほぼ専制的なリーダーシップのほうが良いともいえるが、それだけでは多人数の上に立つ中隊長、大隊長は務まらない。逆に救急隊長には民主的リーダーシップが求められるので、強さは必要ないかもしれない。消防業務は多岐にわたることから、隊の種類や、リーダーの階層によって求められる要素は異なるが、現代の消防に求められているのは、専制的、民主的、人間性主体の3タイプのリーダーシップを兼ね備え、異なるリーダーシップを使い分け組織を一体化させられるリーダーなのである。

リーダーシップは隊長と部下の相互責任

一般社会におけるリーダーとは、仲間や上司から推薦されてなる場合、あるいは利己的動機につき動かされ努力して専制的なリーダーになる場合があるが、消防職員のリーダーはこれらとは少し異なる。消防の場合、リーダーというポジションは任用に階級が与えられることにより生じるものであるため、必ずしも適性がある人だけがリーダーになるわけではない。適性があってもなくても、昇任したことで部隊の長としてリーダーシップを発揮しなければならない状況に置かれるのだ。また、階級があがるにつれて求められるリーダーシップは徐々に変化していく。その状況下で、部隊に大小の違いはあるが、熟達したリーダーシップを発揮するためには上司、部下、同僚との人間関係に対して地道に絶えざる研究と実践を重ねていかなければならない。

リーダーシップは隊長が部下に対して命令責任を果たすだけの一方通行的なものではなく、隊長と部下両者間の相互責任である。災害現場において適切な指揮をし、十分な指揮をし、十分な成果を挙げるためには、消防職員として肝に銘じておかなければならない基本的な原理原則がある。それは、隊長命令に対する部下の服従、信頼、尊敬、忠実な協力である。

災害現場で求められるリーダーシップ

消防の基本は現場活動であり、そこでは平時とは異なるリーダーシップが求められる。災害現場で必要とされる具体的なリーダーシップの方策は主に次に挙げる8つだ。

1.状況判断力

指揮者のミッションは、災害現場に到着する前に災害通報の内容や場所、危険物資、要救助者の状況、災害の進展度合いなどからどのような災害なのかイメージし、先に到着した隊から情報を得ることである。

まず指揮者が現着後、直ちに取るべき情報は

◎災害の実態

どの範囲に災害が及んでいるのか、何が起こっているのか、要救助者はどこに何人いるのか。特にCBERN(NBC+Radiological+Explosives等の特殊災害)関連情報は極めて重要で、関係者、予防業務資料、先着部隊から情報を入手しなければならない。

◎人命危険

消防活動は人命救助を最優先に行わなければならない。このため人命危険に対する情報を迅速に収集する必要がある。人命危険に関する情報は正確なものが少なく、曖昧であったり、噂のように情報源も伝達経路も不明のことがある。しかし人命に関する情報はどんなに不確実なものであっても、無視したり軽視したりしてはならない。一つ一つ確認して消去していくことが必要だ。

◎作業危険

崩落のリスクなど、現場の危険に関する情報は消防隊の安全に直結する極めて重要な情報である。具体的には危険物、爆発物、電気、ガス、化学物質、生物剤、核物質類であるが、対象物によって構造的に危険性があるもの、あるいは災害の進展によって倒壊危険、崩落危険、落下危険もある。指揮者はこのような情報を敏感に収集し、または積極的に報告を求め、部下の安全を確保しなければならない。

◎拡大危険

災害には、ある時点でどんな消防力でも抑えきれなくなる臨界点がある。その臨界点を超えないように部隊配備、あるいは応援要請を行う必要がある。

2.早期の決心

状況判断は、現場の最高責任者だけではなく、各級指揮者も行うが、決心は最高責任者ただ一人だけである。最高責任者は様々な状況判断から自ら全責任を持って早期に部隊の活動方針を決心すべきだ。重要な決断にもスピードが要求される。しかも、状況不明下においては、危険を伴う選択も考慮に入れて決心しなければならない。そして、一旦決心したならば、基本的には多少の状況変化があろうとも、これを変更せず、強固な意志を持って遂行すべきである。災害現場は変化の連続だが、そのたびに決心が揺らぐようでは、部下はよりどころを失い混乱に陥ってしまう。ただし、重大な新事実が発生した時、それによって部隊を一時退避させる必要があるときには、活動方針を変更して対処することが必要である。そして、決心変更はその内容が関係部隊に対して迅速かつ正確に伝達されることを徹底させなければならない。

3.命令

命令はリーダーの決心に基づく意志の発動であり、指揮下の部隊または隊員に実行を命ずるものである。また消防の専制的リーダーシップの根源であり、受命者である部下には命令を理由なしに拒否したり無視することは許されず、命令を忠実に遵守し実行する義務が課されていることを認識させておかなければならない。同時に、発令の内容、およびその結果についての一切の責任を発令者であるリーダーが負うことも互いに認識しておかなければならない。

また、リーダーが発令する内容には組織全体の達成すべき目的、受命者の達成すべき任務、目標を明確に示す必要がある。つまり、わかりやすい明確な命令でなければならない。そして受命者がその任務を達成する手段については、特に統制が必要な事故のほかは示さず、受命者(=部下・隊員)が状況に応じて工夫する余地を残すことが大切である。

4.部下(部隊)掌握

災害現場において、指揮者は全隊員がどのような状況下でどのような活動をしているか掌握していなければならない。総指揮者は、各級指揮者からの適切な報告をもとに部下を掌握することになるが、災害の進展や時間の経過によっては積極的に報告をもとめ、指揮に活かさなければならない。また心の掌握も大切で、日頃からのよきリーダーシップにより相互の信頼関係を確立しておく必要がある。

5.災害の変化に対応する力

災害にはそれぞれの個性があり、同じものは2つとない。災害の不定性とも言われる。一般の事務のような業務は定型的意思決定といわれ、マニュアルが完備されているが、災害のような非定型的意思決定には活動マニュアルはあるものの、それに基づいて対応するには限界がある。

災害現場での意思決定には創造性、経験則、訓練の3つの要素が求められる。創造性は知識や経験だけにとらわれることなく、新しい事態にふさわしい対応の仕方を創造する能力であって、指揮者には不可欠の能力である。経験則は、新しい事態に類似した過去のケースにおいて体験した自らの経験、あるいは他の人の経験を生かして、現下の状況に対応しようとするものである。しかし経験は万能ではない。災害には個性があるので、経験則に依存しすぎたり、成功体験に拠ってしまうと思索の柔軟性を失いやすいので注意が必要だ。

訓練は類似体験とも呼ばれ、突発的事態あるいは変化に対応する能力を養うことに大きな効果がある。しかし訓練は時間経過や熱量、ガス、危険物などにおいて実災害とは根本的に違うため、行動を固定化して反復するような方策は好ましくない。もちろん基本訓練は反復して行うことが重要で、実戦訓練ではできるだけ訓練想定を明かさないブラインド訓練が効果的だ。

6.用意周到な事前命令

ひとたび災害が発生したなら、そこからは時間との闘いである。災害が発生してから戦術を協議し検討している暇はない。このため、原則的なことやあらかじめ決定しておくことは平時に十分な議論を行い決定しておき、かつ災害発生時には命令がなくともそのとおりに実施されるようにしておく。これを「事前命令」という。これがスムースな消防活動には欠かせないのだ。

事前命令の種類は、市街地の特性や地下街、高層ビル、工場、特殊災害等と分類し、各ケースに応じて基本的な活動方針を示し、平時よりこれに基づいた訓練を行っておく。

7.部下の消防士気を高める力

災害現場における士気は消防活動の原動力であり、部隊の生命ともいえる。消防活動は、単に効率的な組織、技術、指揮だけによって遂行されるものではない。人がばたばた倒れているような現場や、放射線量が高く熱、濃煙、有毒ガスなどの大変厳しい環境や緊迫した状況の中では、自分のリスクをかえりみず任務を遂行しようとする隊員の高い士気をもって救命活動が実現する。

では、どうすれば部下の消防士気を高められるのか。部下の高い士気の中心は、やはり隊長の強いリーダーシップだ。部下の士気は指揮者の士気によって決定される。指揮者が高い品性を維持し、部下から尊敬と信頼を受けるにたりる徳と能力を持って、優れたリーダーシップを発揮すれば、それだけでも士気は高まる。部下は上司をよく観察しており、「上司が部下を知るのには何ヵ月もかかるが、部下は上司を3日で理解する」ともいわれている。部下の士気を高められるかどうかは、指揮者である自分次第。そして士気の高まりは、組織の連帯感の強化につながり、規律の保持にもつながるのである。

8.自己研鑽

災害現場における指揮者は、識見に依存することなく、自らの能力を部下に信頼させることによって、指揮命令に積極的に従わせるだけの実力を持つことが必要だ。そのため、指揮者はその立場にふさわしい能力を自らの努力により習得するとともに、過去の災害検討結果や代理体験、各種訓練による類似体験などによって、さらなる向上を図るよう自己研鑽を劣らない姿勢が大切である。

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