Special
深夜の歌舞伎町に指揮隊が出場! 大久保第1小隊と連携で危険排除
明日、けがをしないで帰るために 、空ぶりでいいからどんどん呼んで
●指揮担当者へインタビュー
外から見ていても新宿消防署は花形というか、災害も多いですし、行政需要も高いです。わたし、今46歳なんですが、身体が元気なうちに中隊長や指揮担当として自分の腕を試したいという想いがあり、5年前に新宿消防署への異動を志願しました。
指揮隊のメンバーは通常、指揮本部長(大隊長)、指揮担当、情報担当、機関員を兼ねる通信担当、大隊長を補佐する伝令の5名。指揮隊は、火災にはすべて出場しますが、それ以外の救助事案や危険排除、緊急確認などでも、指揮本部長である大隊長の判断で出場します。
指揮担当は、たくさんの部隊が出場した際の部隊運用を任されています。たとえば火災では筒先配備を決定するなど、被害を最小限に抑えるため、消火戦術を立案して大隊長に具申します。消防力劣勢時の増援要請も指揮担当の役割です。また活動が長引くと判断すれば、冷水などを積んだ補給車を他消防署に要請したり、要救助者がいることが予想されたときはその段階で救急車を手配するするなど、安全管理のために常に先手を打って処置しています。
歌舞伎町にはお酒を飲まれた方がたくさんいらっしゃいまして、二次的な災害が起きることが多いです。それらを排除しながら活動しなければなりません。そこでポンプ隊や救急隊には、「いやな予感がしたら指揮隊をすぐ呼んでくれ」、応援命令がかかってから現着するには5〜10分かかるので、そのタイムラグをなるべく作らないよう、「空ぶりでもいいから、なるべくすぐ呼んでくれ」といっています。
実際に行ってみて、もう喧嘩は終わってましたとなっても一向にかまいません。「これくらいで大隊長を呼ぶわけにはいかない」とみなさん遠慮しますが、そこは指揮担当として、「どんどん呼んでください」と強調しています。それでみなさん、明日、けがをしないで帰れるのであれば、何回空ぶりがあってもかまわないです。
部下とは年齢が20歳くらい離れていますが、ふだんはプライベートの話を意図的にするなど和やかな雰囲気を心がけています。またなるべく怒らず、ほめるようにしています。わたしも昔、隊長の意図が汲めずに怒られたこともよくあったんで、部下が失敗したりミスするのは、わたしの教え方なりやり方が悪いと思うようにしています。その代わり火災現場など切迫した環境では、「佐藤がこうだといったら絶対にこうだ」と思わせる、そういう環境を作っています。
今日は前の当務にあった火災における消火活動の検討会を、指揮担当として招集しました。本当は災害当日にやりたかったのですが夜通しの活動だったものですから、今夜7時5分から8時5分まで、1時間だけ区切ってやろうと決めていました。管理職の課長さんがいるとみなさん本音が出ませんが、焦げ臭いところにいって、みんなでキツイ目にあった人たちだけで話すと本音が出やすい。そこが一番意図するところでした。
階級だとか、機関員だからとか隊長だからとか関係なく、「ここが怖かった、危なかった」って話してもらって。かっこつけてもしょうがない。わたしは火の中に入っていないんで、危ないところがわからない。それを話してもらって、こういう場合はああいうことは危ないので絶対にやめてくださいね、など本音で話し合います。それをやることで、危ない箇所は本当に危なかったんだなという共通認識をみんなもてますし、俯瞰して活動をふり返ることができるのです。
Profile
新宿消防署 指揮隊 指揮担当 消防司令補
佐藤友雄さとう・ともお
平成9年、水難救助隊員をめざして消防職員に。以来、キャリアの半分以上を大森消防署と臨港消防署にて、水難救助隊員として過ごす。5年前、隊長職に昇任する際、水難救助隊でやってたことが陸上でも通用するだろうかと考え、腕試しのつもりで新宿消防署に着任した。歌舞伎町を管轄する大久保出張所の中隊長を3年間務めた後、平成30年4月から現職。
[ 座右の銘 ]
訓練は災害現場のように緊張感を持って行って、
災害現場では訓練のように落ち着いてやれ
もともと隊長から教わったことで、今でも実践しています。訓練では本当に家が燃えているようにやって、災害現場では訓練のように中に訓練用人形がいるんだと思って人助けをする。生身の人間が災害現場にいらっしゃるんですが、それくらい落ち着いてやらないと。
また災害現場で想定外のことがあったら指揮担当失格なんで、常に最悪の事態を考えて訓練しています。想定外の事態に指揮担当が動揺してしまうと、隊員に伝染してしまう。だから災害現場では絶対にぶれません。
大隊長からの意見があれば判断を変えることはありますが、それ以外はぶれないです。ぶれてはいけないポジションが指揮担当です。
女性の指揮担当
私が入庁した平成18年4月は、ちょうど東京消防庁で女性の職域が拡大され、女性吏員のポンプ隊乗務が可能になりましたが、武蔵野消防署はポンプ隊1隊配置で、1隊5名のうちのひとりを自分が担うには体力面に不安があったため、男女の体力差があまり業務に影響しない指揮隊を希望しました。それ以後、指揮隊で経験を積んできましたが、本庁指令室勤務となった2年間の経験が、指揮を執る上で大いに役立っています。
本庁指令室では東京都内で発生するありとあらゆる災害に対処しています。消防署で2年間勤務する何倍もの災害事例を知り、通信業務を通じて経験できました。指令室では、無線報告を受けながら、状況を判断して先に救急隊に出場指令をかける等の判断をしなければならず、うまくいかずに辛い思いもしましたが、常に先、先を考えて行動する思考回路を身に付けることができました。この指令室での経験から、現場で指揮隊の指揮担当を勤めるときも、想定外の事が起きても焦ることなく臨機応変に動けるようになりました。
情報担当として、話し方にはとても気を遣っています。指令室勤務時の先輩にいわれたことですが、自分にとっては毎日何十件も入ってくる119番通報のひとつで、つい淡々とこなしてしまいがちですが、通報者にとっては119番通報をするような事態は一生に一度あるかないかのこと。動揺で頭が真っ白になっているという状況を理解し、落ち着いて話せるよう、言葉を引き出しやすいように、順序立てて聞きだし、「この人に対応してもらってよかった」と思ってもらえるよう心がけました。
指揮隊・情報担当となった今は、我々公安職は制服を着ているだけで、都民に対しては威圧的な印象を与えてしまっていますので、情報を聞き出す前にはまず、「私は〇〇消防署の浅田です。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか」と自分の身分を説明するようにしています。特に新宿ではとても沢山の人が行き来していますが、そのなかでたまたま通りかかった人に立ち止まってもらって話を聞くのはとても難しいので、日々工夫しています。
今後は正規の指揮担当を目指していますが、ほとんどの指揮担当が、ポンプ隊の隊員、小隊長、中隊長と段階的に現場経験を積んできています。それに対し、自分は現場の中に入っていった経験が一切ありません。その差を補うためには、火災検討会で発表される皆の経験を聞くしかなく、過去の事例、災害の教訓など、よいことも悪いこともすべて吸収し、自分の経験として消化していき、他人よりも努力して勉強していかないといけないと思っています。他の指揮担当に追いつけるよう、なおいっそう勉強に励んでいくつもりです。
Profile
新宿消防署 指揮隊 情報担当(兼・指揮担当代行) 消防司令補
浅田裕子あさだ・ゆうこ
平成18年武蔵野消防署消防士拝命(毎日勤務)。平成19年より指揮隊伝令に。昇任異動先の消防署でも指揮隊・伝令を勤め、平成26年に本庁指令室へ移動。119番受信と無線運用を担い、平成28年10月より新宿消防署で指揮隊・情報担当。平成29年4月以降、指揮担当の代行も務める。