築地市場火災 ―火災に勝つ消火戦術―

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築地市場火災 ―火災に勝つ消火戦術―

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この延焼をどこで食い止めるか

梯上放水で制圧

ポンプ隊が屋内注水に苦戦する中、効力を発揮したのが京橋消防署・芝消防署のはしご車と特命出動で要請した二本部消防救助機動隊の屈折放水塔車による梯上放水だった。はしご車は毎分1100リットル、屈折放水塔車は毎分3800リットルの放水能力を持つ。

出火元の区画は火災により屋根が抜け落ちたため、地上から放水にあたっていた隊員を一時退避させ、梯上放水で集中的に叩いた。また隣接する建物はトタン屋根で燃え抜けないため、梯上放水では火元に水が届きにくいという問題もあったが、それでも火勢は抑圧され、勢いが弱まったところで地上のポンプ隊らが建物内部に向けて放水するという活動を交互に繰り返し、活動開始から4時間を経過した21時頃、目標とする延焼阻止線より数メートル手前での火勢制圧の見通しが立った(鎮圧は24時40分)。

梯上放水で活躍した屈折放水塔車には先端にカメラが搭載されており、状況のモニタリングにも活用された。

「指揮隊は、現場状況の推移や変化に対応しつつ、到着隊や活動隊に次々に下命しなければならず、瞬時にピンポイントで火勢の状況を把握できなければ、的確な指示ができない。その点、指揮本部に近い位置に部署してモニタリングを行っていた屈折放水塔車には、『この部分をもっと拡大して写せ』といった細かい指示が出しやすく、状況把握に非常に役に立った」(原田)

残火処理は徹底的に

24時40分に鎮圧したこの火災は、日付が変わってもくすぶりを残し、翌日8時11分に鎮火。鎮圧後も残火処理を含め、出動から計15時間23分の活動となった。原田大隊長の京橋消防署配置は平成28年4月。それまで特別救助隊、消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)で隊長を歴任し現場経験は豊富だが、これほどの規模の火災は初めてだった。場外市場という特殊な場所の火災は一般的な住宅火災やビル火災とは勝手が違うため、苦戦を強いられた面もあり、時間を追うにしたがって活動隊にも疲労の色が濃くなっていったが、休憩も部分的に取らせるなど鎮圧してからも気を抜くことなく、徹底した残火処理を隊員に要求した。

「再燃は消防の恥。再燃だけは絶対に起こしてはいけないという考えがあったので、活動隊員の疲労も理解していたが、消防のプロとしてはここまではやらなければならないと思っていた」(原田)

残火処理の段階になると隊員も気が緩みがちで、それだけに怪我などの事故も起こりがちだ。夕方4時から長時間におよんだ活動は、休憩をはさみつつも隊員にとっては非常に厳しいものであったが、鎮圧までの激しい延焼を阻む8時間弱の活動を果敢にやり遂げ、さらに残火処理を含む15時間以上の消火活動を完遂した。

一週間後に緊急立入検査

この火災の一週間後、京橋消防署では築地場外市場122事業所に緊急立入検査を実施し、148事業所に防火安全指導を行った。さらに一週間後、追加で255事業所にも防火安全指導を実施している。しかし今回のような店舗閉店時間帯の火災では市場関係者による初期消火が難しく、またシャッター開閉の問題が課題として挙がっている。緊急時の対応については、現在、京橋消防署と築地場外市場商店街振興組合で協議を進めている。

延焼している建物に対して、はしご車2台と屈折放水塔車1台の計3台による梯上放水を行う東京消防庁。(写真/東京消防庁)
延焼している建物に対して、はしご車2台と屈折放水塔車1台の計3台による梯上放水を行う東京消防庁。(写真/東京消防庁)

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【伊藤克巳の火災事例レポート】

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