雪国消防の緊急走行テクニック「なるほど、雪氷路はそうして走るのか!」

Special

雪国消防の緊急走行テクニック「なるほど、雪氷路はそうして走るのか!」

【横手市消防本部】
関連記事:雪道を走るテクニック ~安全走行のポイント~

写真・文◎橋本政靖
Jレスキュー2018年3月号掲載記事

Twitter Facebook LINE

注意すべきは「発進できるか?」より「止まれるか?」

雪氷路の緊急走行には危険がいっぱい

冬季間の緊急走行において十分注意が必要なのが降雪による路面凍結などの雪氷路である。雪氷路とひとくちに言っても路面の状態は一様ではなく、降雪が始まってからその強さ、気温、通行量、除雪状態、経過時間などにより刻々と変化する。路面の状態としては、雪が積もった状態の新雪、雪が溶けかかったシャーベット、雪が踏み固められた圧雪、圧雪が凍結した圧雪凍結、圧雪凍結がさらに進んだアイスバーン、アイスバーンが磨かれたミラーバーン、薄い凍結状態であるブラックアイスバーンなどがあげられる。これに強風や吹雪をともなえば、さらに悪い状態となる。

アイスバーン
写真は圧雪が融解凍結を繰り返し、表層の水分が氷となった状態。
ブラックアイスバーン
路面が薄く凍結し黒く濡れたように見える状態。スタッドレスでも滑る。

走行時の基本としては、「急」のつく急加速、急ブレーキ、急ハンドルが厳禁であるのはもちろんのこと、スタッドレスタイヤや四輪駆動などを過信することのないように心がけたい。路面状態や気象状況を把握してスピードを出さないようにするのは当然である。そして、走行(発進)できないことより、止まれないような状態にならないことを主眼とすべきである。

そのためにまず念頭に置くべきは、次のような点である。

1 自車以外に周囲の車両や歩行者などが止まれない、スリップすることも想定し、十分な保安距離を保つ。
2 発進はできるだけゆっくりとする。
3 制動はより気をつけて行ない、エンジンブレーキや排気ブレーキも併用して徐々にスピードを落とす。
4 カーブや交差点などではよりスピードを落として徐行する。

また、経路上に急坂がある場合には、やむを得ない場合を除き多少遠回りになっても迂回することを検討すべきである。雪氷路は通常の走行でも不安だが、緊急走行となるとより危険性が増す。機関員は十分に注意する必要がある。

必要なのは路面状態を読む力

雪国で消防車両を走らせるためには、まずさまざまな路面状態の特性を見抜く目を養う必要がある。

雪の降り始めには、降雪が積もったままになっている「新雪の道」に出くわすことが多い。とくに平地で周りに建物がなく深く積雪していると、どこが道路でどこが道路外なのかがわかりにくくなる。このような場合には除雪誘導標(道路両側にある赤白ポール)、電柱、ガードレールなど目印となるもので道路を把握する。また、路肩などの落ち込み部や中央分離帯・縁石などの突起物も雪で見えなくなるので十分注意する必要がある。機関員や乗車隊員が目視で判別不可能な場合には、隊員が下車して確認・誘導する。このほか、タイヤの半分程度までの積雪がある場合にはスタックする可能性があるので、速度を十分に落としつつもなるべく停車しないように走行すべきである。さらに深い圧雪となっている場合には、急発進をするとタイヤが雪を深く掘りこんでしまい、窪みとなってスタックする可能性があるので、できるだけゆっくりと発進する必要がある。

赤白ポールの除雪誘導標
雪国では風や吹雪、地吹雪が発生しやすい道路に防風防雪柵が設置されている。赤白ポールの除雪誘導標は道路路肩や障害物の明示および視界不良時の目印として設置されている。
地上式消火栓
地上式消火栓は雪に埋もれてもわかるように目印が取り付けられている。

次によくあるのが、積雪が若干融けた「シャーベット状の路面」。凍結していないのでスピードを出しがちであるが、わだちが深くなりやすいのでハイドロプレーニング現象(路面とタイヤの間に水がはいりこみブレーキが利かない現象。水膜現象ともいう)のようにシャーベット状の路面の上にタイヤが浮いたりハンドルを取られてスリップする危険性がある。とくに車両重量が軽い救急車や指揮車などではその傾向が強く、車線変更時などでわだちを斜めに乗り越える場合は十分にスピードを落とし、ハンドルを取られないようにしっかり保持する必要がある。

圧雪が踏み固められて凍結した「圧雪凍結」は、チェーンを着装していれば極端に滑ることはないが、操舵輪である前輪が滑る場合がある。

一度融けて再凍結した「アイスバーン」は、その名のとおり路面に氷が形成されているのでかなり滑りやすい状況であり、十分にスピードを落とす必要がある。さらにアイスバーンがスタッドレスタイヤなどで磨かれて鏡面になったものが「ミラーバーン」で、スケートリンクと同等の状態になる。このような状況では停止寸前の速度でもスリップしてしまうため、速度はかなり控えめに十分注意して制動をかける必要がある。また、乾燥路面でも日陰や橋上などが部分的に凍結している場合もある。

薄く積もった雪が薄い氷膜となった「ブラックアイスバーン」はアイスバーンと基本的には同じであるが、路面が黒く見えるため乾燥路面や湿潤路面と判別することが難しく、とくに注意が必要である。車両重量が軽く横受風面積の大きな救急車や指揮車などでは強い横風を受けると車両が横滑りする場合もある。

次のページ:
雪用のツールを紹介!

Ranking ランキング