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高潮にのまれた救急車から決死の緊急脱出【湯河原町消防本部】
高波を受けて脱輪、走行不能
救急隊長の報告では、救急車は山側に押し流され、引き波でガードレールにぶつかるという動きをくり返し、衝撃で窓ガラスが割れ、すべてのドアが変形。「引き波の強さで海に引き込まれそうだ」ということだった。このままでは救急車ごと海へ流される可能性もあるが、脱出できたとしても、高齢の傷病者と関係者を安全に避難させるには大きなリスクがある。
二者択一を迫られた高吉は、躊躇せず後者を選んだ。真鶴方面まで戻るか、あるいは先の江の浦付近ならゆるい上り坂になり、安全を確保できる。どちらへ向かうかの最終判断は現場に委ねた。
隊員らは左後方の割れた大窓の窓枠にカーテンとブランケットを敷き、破面を保護しつつ車外に脱出。江の浦方面に向かって移動し、救急車に備えた20mロープとカラビナを使って傷病者と関係者2名の計3名を山の斜面の崩壊対策用防護ネットに縛着しながら、ひとりずつ誘導して避難を完了した。待機していたパトカーに旧道までの傷病者搬送を依頼し、小田原市消防本部の救急車に引き継いだ。帰署は22時57分頃。高波による事故発生から3時間以上が過ぎていた。
翌日、現場を訪れた高吉は目を疑った。救急車は左側面が激しく大破し、ルーフも大きく変形。脱落したフロントバンパーが100m離れたところまで流されていた。
紙一重の差で重大事故に至らなかったのは不幸中の幸いであった。湯河原町消防本部では今回の事故を受け、既存の道路情報の収集に加え、独自の情報収集と判断を積極的に行うことを共通認識とした。
消防司令 髙吉裕二
湯河原町消防本部
湯河原町消防署長
「波か雨かもわからないような水しぶきで、動かなくなった車両の中、身の危険を感じる長い時間だったに違いない。その状況下でも、隊員らは傷病者と関係者の安全を第一に、冷静に判断し行動してくれた」