水槽付消防ポンプ自動車I-B型 上田地域広域連合消防本部
上田地域広域連合消防本部 上田東北消防署[長野県]
写真・文◎木本晃彦
Jレスキュー2021年7月号掲載記事
車両軽量化と大型液晶パネル採用でスピーディな「消火戦術」を導入
大型液晶パネルを導入
長野県北東部に位置する上田市は、「六文銭」の旗印で有名な真田氏発祥の地として知られている。長野県下3番目の都市で、盆地状の市内を東から北西にむけて千曲川が流れる。上田城址の近くに本部を置き、2市1町1村を管轄するのが上田地域広域連合消防本部だ。8つの管轄消防署のうち、上信越自動車道に近い上田東北消防署へ令和3年2月15日、水槽付消防ポンプ自動車Ⅰ-B型が配備された。先代車両の老朽化による更新だが、昨今の情勢を踏まえて大幅な機能強化が施された。
本車両の持つ大きな特徴は、ポンプ室に日本ドライケミカルから提案された液晶式操作盤を取り入れたことだ。圧力計・連成計をはじめ、放水流量や水タンクの残量などを12インチ液晶モニターへ表示。優れた視認性と項目ごとに独立したボタン操作で、手袋をはめた状態でも確実な動作が可能だ。操作パネルに連動する自動調圧機能が備えられており、負荷の変動へも機敏に対応。衝撃を軽減して、隊員・機械双方のダメージを抑える効果が発揮される。特にポンプ機構への衝撃は、機器の寿命を大きく左右する要因だ。メンテナンス面でもアドバンテージが高い機能と言えよう。従来タイプの圧力計・連成計も非常用として設置しており、万が一の故障時でも放水作業を行えるように配慮されている。液晶式操作盤へ分離していた機構を集約したことで省スペースが図られ、他の艤装が柔軟となるメリットも大きいものだ。
他消防本部の消火戦術を取り入れたマルチな車両仕様に
装備品類をみると、タンク車とは思えないほど救助資材が充実していることに驚かされる。上田地域は菅平高原や湯ノ丸高原といった2000m級の山を背にした盆地だ。その中を千曲川が流れ、山裾を上信越自動車道が走るため消防隊が救助活動もマルチに行う必要性が生じる。新車両は三連はしごをチタン製にするなど各部を徹底的に軽量化。先代とほぼ同等の寸法に収めながら、装備の充実と山岳部への登坂力を両立している。さらに、オールシャッター構造を採用し、資機材の搭載スペースを確保。消火器具類や水中対応型電動油圧救助器具といった資機材をラック上へコンパクトかつ整然と搭載している。速消ボックスの廃止により、ホースバッグとガンタイプノズルを活用した消火戦術を新たに採用。隣県の群馬県渋川広域消防本部に赴くなど様々な消火戦術を同署の活動に取り入れている。
上信越自動車道の事故対応として、路側帯での活動を考慮した資機材配置がなされ、火災発生時には泡消火薬剤クラスAを用いた消火活動が可能だ。泡消火薬剤による消火能力向上により水槽容量は先代の2000Lから1500Lへ変更。容量の減少による軽量化は、資機材の充実と登坂力に大きく寄与している。
山岳エリアの地域特性を反映
また消火活動を支援するため、風向・風力が目視できる「吹き流し」も装備。山間部の橋梁や高架区間が多い上信越自動車道では風向きが目まぐるしく変化するので、簡便ながら有効な装備と言えよう。後部シャッターにはシェブロン・マーキングを採用し、反射と視覚効果により夜間やトンネル内などでの追突を抑止している。車上も資機材搭載に有効利用されており、右側に大型の収納ボックスを配置。ここに山岳救助系の長物資機材を中心に搭載している。車体両淵のアオリを高めに設定しているのも特徴点で、車上作業時の転落防止効果を狙ったものだ。高速道路上で資機材の転落事故が発生した場合、大きな二次災害が引き起こされる。そのような事象を防ぐためにも有効な形状と言える。昇降はしごからの導線や手すり類も効率的に考えられており、作業能率の向上と安全確保に寄与している。
救助活動で大きな力となる電動油圧救助器具も刷新された。初期救助に注力し、スプレッダー・カッター・ラムシリンダー3機種ともにLUKAS社製のバッテリー駆動式を採用。1個のバッテリーで約1時間30分駆動可能とされ、3機種それぞれに互換性を持っている。さらに防水防塵機能(IP 57等級・水面下15㎝~1mで30分間)により天候や場所に左右されず迅速な救助展開を可能としている。バッテリーは各機種装着分と、予備を3個の計6個を携行。活動中に充電も可能な体制とされている。
長野県の災害というと、令和元年10月の台風19号による千曲川水害が思い起こされる。また高速道路での車両火災も増加傾向にある。多様化する災害や事故に対処すべく進化した上田東北消防署の新タンク車がこの地域の安全・安心を守る要となることを期待したい。
リア
左側
操作パネル
右側面
車上
車内
取材にご対応いただいた方
【SPECIFICATIONS】
車名 いすゞ
通称名 フォワード
シャーシ型式 2PG-FSS90S2
全長 7150mm
全幅 2360mm
全高 2950mm
ホイルベース 3790mm
最小回転半径 6.4m
車両総重量 10880kg
乗車定員 6人
原動機型式 4HK1
総排気量 5190cc
駆動方式 4×4
水ポンプ A-2級
ホースカー 手引き・加納式
水槽容量 1500L
配備年月日 令和3年2月15日
艤装メーカー 日本ドライケミカル