特殊救急車(スーパーアンビュランス)東京消防庁

日本の消防車両

特殊救急車(スーパーアンビュランス)東京消防庁

東京消防庁 第二消防方面本部 消防救助機動部隊[東京都]

写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2019年1月号掲載記事

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人口増加を続ける東京で“動く現場救護所”が進化した!!

スーパーアンビュランスとは

東京消防庁第二消防方面本部消防救助機動部隊に配備される特殊救急車「スーパーアンビュランス」が平成30年3月28日、運用を開始した。

スーパーアンビュランスは、車体の両側面を拡幅することにより内部に処置台を設定でき、大規模災害や多数傷病者事案等において現場救護所として救急活動の拠点となる車両だ。東京消防庁ではこの特殊救急車を第二、第八消防方面本部消防救助機動部隊に配置し、運用している。拡幅後の傷病者室は床面積40㎡、壁体収納型折りたたみ式の処置台が左右拡幅室計8床と平成15年度に配備された先代車両と変わらないものの、全面的に大きく刷新されたといってもいいほどの変貌をとげている。

「製作のコンセプトは、東京2020大会を見据えた現場救護所としての機能向上。大きな特徴は、傷病者室の動線の見直しとユニバーサルデザイン採用の二点だ。従来車両に対する現場からの意見とFRPボディや電動拡幅装置などの艤装メーカーの革新的技術に支えられ、多くの部分を一新した」と、東京消防庁装備部装備課特殊車製作係統括 消防司令補草瀬大は語る。

多様な人々に配慮する

東京の都市人口は年々増え続けており、1400万人を超える勢いと推測される(平成30年10月1日現在)。さらにそれを上回る勢いで外国人観光客が増加している。かくも多様な人々がいる東京都で、さらに2020年には東京オリパラが控えている。国籍はもちろん、弱者、健常者を問わず世界中の誰もが安全に使用できる車両が志向された。

すべての傷病者にわかりやすいよう、ユニバーサルデザインを採用するとともに、バリアフリー法に基づき、スロープ角度は14度に抑え、横面や階段ステップ等の端部を黄色、手すりをオレンジ色に塗装するといった配慮が施されている。

また、傷病者室に配備された2基のメインストレッチャーは、重体重の傷病者搬送を想定し、許容最大荷重約320㎏のものを採用した。頭部側のバックレストは約0度~85度まで無段階調節可能で、足部側にストレッチャー搬送用のハンドルを装備し、スロープなど傾斜面での搬送に適した構造となっている。キャスターは大径のスイベル式で、起伏の多い路面でも安定して搬送できる。スーパーアンビュランスでの搬送中に傷病者を処置できるよう、メインストレッチャー固定部付近に椅子を設置している。

スーパーアンビュランス(救急車)
平成30年3月28日に第二消防方面本部消防救助機動部隊へ配備された2代目となる特殊救急車(通称・スーパーアンビュランス)。いすゞ・ギガをベースシャーシにヨコハマモーターセールスが艤装を手掛けた。
運用面でも改善点は多数

従来車両では傷病者室への搬出入は後方ドアからしか行えず、現場救護所としての使用時に輻輳する恐れがあった。そこで新車両では傷病者室左側前方にも車いす対応スロープを設け、搬出入動線を2本確保した。にもかかわらず、実際の設定時や運転時の煩雑さはなく、むしろ容易になっている。

その理由が、車体をFRP製としたことである。これが数々の改良点を産んだ。そのもっとも直接的なものは車体重量の減少。従来車両では23t近くあった車体総重量が18・9tにまで減少し、20t超車両の規制を受けずに走行可能になり、機動性が向上した。

拡幅部も軽量化されたため、従来必要であった拡幅部の支えが不要となり、停車さえできれば地面の状態を考慮せずに拡幅が可能になった。崖などの地面が落ち込んでいる場所や傾斜地でも拡幅できるほか、片側のみの拡幅もできる。拡幅したままでの小移動も可能で(実際の運用では収納して移動する)、ジャッキを使うことによる基部と拡幅部の連結部分のウエザーストリップなどへの悪影響が排除された。

それだけではない。FRPは鉄と比較すると驚くほど熱伝導率が低く断熱性に優れており、エアコンそのものの能力向上とあわせ、暑熱対策面でも大きな向上が図られている。これは、夏季に実施される東京オリパラ期間でも非常に有効だ。

拡幅部の拡幅・収納動作は先代車両の油圧式に替わって電動式となった。左右同時拡幅が可能となり、現場活動の迅速化につながるほか、油圧機構がなくなった分さらに軽量化し、床下には収納スペースも生まれている。車体後部のスロープはこれまでどおり手動で展開するが、車両側面のレバーを回転させることで、これまで3名必要だった展開・収納が1名で可能となった。

また車体後部右側には、従来の手洗い器にかわり車外シャワー設備が設けられ、活動後の隊員が迅速に付着物等を洗い流せるようになっている。

現場救護所としての機能強化

傷病者室・情報管理室ともに現場救護所としての機能は大幅にパワーアップした。傷病者室を含む全照明装置はLED化して電力効率を向上させるとともに、各処置台に無影灯を設置し、室内のLED照明と組みあわせて医療機関の処置室と同等の照度を確保した。また壁面に移動可能な手術灯を計2基装備し、隊員のみならずDMATの医師等の活動性を向上している。各処置台は電動式の高さ調節機構を設け、傷病者の状態に応じて任意の高さに調整できる。さらに、惨事ストレスなどによる傷病者の心的負荷を軽減するため、内装を人にやさしいパステル調に塗装するといった工夫もみられる。

傷病者室と運転席の間に設置された情報管理室は、これまでの1名分から大幅に拡大し、3名分の乗員席が確保された。ここには2基の発動発電機の発電状況やモニター付きインターホンを通じて傷病者室の様子をモニタリング・連絡でき、扉を開放することなく傷病者室内の状況を確認、連絡できる構造とされた。傷病者室とはスライドドアで区切られており、拡幅室収納時でもキャブ内の情報管理室と傷病者室の間が行き来できる。これにより、エアコンが後部にしかない傷病者室でも、スライドドアを開けることで前方からも情報管理室の空調効果が期待できる。

スーパーアンビュランス 外観

スーパーアンビュランス(救急車)
東京消防庁第二消防方面本部消防救助機動部隊に更新配備された特殊救急車は、左側拡幅室前方の出入口とスロープによって傷病者室に動線が2系統確保されている。ボディ材質は軽量で高強度かつ断熱性に優れたFRPを採用し、室内の空調効率が大幅に向上した。
スーパーアンビュランス(救急車)
ベースシャーシにはいすゞ・新型「ギガ」が採用されキャブハイルーフ化された。
スーパーアンビュランス(救急車)
全長約11300mm。左側面のみに情報管理室の乗降口が設けられている。
スーパーアンビュランス(救急車)
車体側面には英語表記による組織名と「SUPER AMBULANCE」で外国人にもアピールしている。
スーパーアンビュランス(救急車)
後面は先代の観音扉からガルウィング式へと変更。後部の傷病者室入口の雨避けにもなる。
スーパーアンビュランス(救急車)
空中から見るとひと目で特殊救急車と判別できるため、対空表示は「東京消防庁」のみ。

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