救助工作車II型 横浜市消防局
横浜市消防局 警防課[神奈川県]
写真・文◎木本晃彦
日本の消防車2021 掲載記事
横浜消防伝統の「完全バス型」
5代目はシンプルで機能的!
伝統仕様を継承しつつ
どこを改善させるか?
横浜市消防局・特別高度救助部隊(通称「SR」)が運用する特別救助工作車は、日本に初めてバス型救助工作車をもたらしたという特別な車両である。その初代車両が昭和41年に運用が開始されて以降、本部直轄の救助部隊が運用する車両は伝統的にバス型仕様が配置されている。今回更新された車両はその5代目となる。
仕様書の作成を担当した施設課車両係の高橋一基消防司令補は、約3年前の平成29年度中から警防課訓練救助係及び部隊との検討を重ねて、仕様を検討。初代から4代目までの基本仕様は、災害現場で速やかに活動を開始できるように、車内で個人装備の装着や救助資機材の組み立てなどができるスペースの確保、荷室部のウォークスルー化、車両の内部からも外部からも資機材を取り出せる構造が採用されてきた。5代目である今回の車両はこの設計思想を継承し、全体的なレイアウトは先代車両を踏襲した「完全バス型」としつつも、長期にわたって現場で使いやすい車両とするため、現在の運用隊員の要望をフルに盛り込んだ。
「シンプル」であること
新車両は、修理などによる欠隊(運用停止期間)を極力なくすため、「シンプル」であることをコンセプトに掲げ、電動構造や複雑な機構をできるだけ排除することで故障リスクを減少させ、DIYで修理できるメンテナンス性を向上させている。例えばはしご昇降装置やシャッターは手動式とし、資機材収納庫の引き出し(スライド)はダブルハンドル式のロックではなく、あえて丸落とし式のロックを採用、資機材を固定するバンドはすべてプラスチック製のバックルとし、破損時の交換を容易にする等、使用する部材や構造をあえて簡素でシンプルなものにした。
横浜の「顔」が イメージチェンジ
車両の外観は、先代車両のイメージを踏襲しつつ新デザインが盛り込まれている。まず先代は丸い印象だったが、新車両は少し角ばったイメージに変更。フロントの主警光灯部分から側面に入る黒ラインは、キャブとのつなぎ目に使用されている黒色コーキング剤を目立たないようにすることが一番の目的だが、デザインのアクセントになっている。
灯火類は、前面の赤色点滅灯はウイレン製を採用し、対向車からの視認性を確保した。部隊表示灯である「横浜救助」および「機動第2」は、発光にムラがない札幌ボデー工業(株)の特製品。また令和2年から横浜市消防局の局名標示がロゴタイプに順次変更され統一化が図られることになり、同車両にも新ロゴを使用。その新ロゴ文字に合うよう、「機動第2救助隊」等の文字は前年度までの丸ゴシックからゴシック体へ変更された。
手動式や 簡素なアイテムを多用
シャーシは5.5tシャーシを使用し、乗車定員は8人。床をフラットにすることで車内空間が大きく確保されている。また先代車両では腐食により床面に穴が開いてしまったという経緯を踏まえ、床の防錆対策として「ディックユーパネル」を採用。車内は前から後ろまでウォークスルー仕様で、車内での個人装備の着装や資機材の組み立てができる。特に迅速性が求められる水難対応や防護服着装が必須となるNBC災害対応にこの仕様が有効で、市内全域の救助事案に出場するSRには重宝されている。
資機材の収納部は各部にパンチングメタル構造を使い、特注フックでカラビナもかけられる。また積載資機材が変更されても積載に困らないよう、収納庫には極力ブラケットを設けず自由にレイアウトができるようにした。大型油圧救助器具やそのアタッチメント、エンジンカッター、チェーンソー等の重量物は車体左側面に引き出し式で収納。収納部分の床面には、出し入れを容易にし、傷防止になり、オイルが垂れても手入れがしやすいとの理由からアクリル板を施工している。この他、迅速対応可能な水難資機材の積載方法、約18種の縛着器具の使いやすい配置等デッドスペースをなくしたレイアウトに苦慮した。
「全国的に有名な、横浜の顔とも言える車両なだけに、隊員の期待と要望がとても強く、どれだけ応えられるかプレッシャーもあった。とりわけ資機材収納庫のレイアウト決めが大変で、メーカー担当者は車両が配置されている本牧和田消防出張所にデスクトップパソコンを持ち込み、私も含めて丸1日かけて打ち合わせをしたが、それでも終わらない量だった。先代の特別救助工作車と同様に、長期間活躍することを願っている」(総務部施設課車両係・高橋)
車内
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