資機材搬送車 座間市消防本部
座間市消防本部[神奈川県]
写真・文◎小貝哲夫
日本の消防車2019 掲載記事
緊援隊の後方支援小隊、NBC、水難など
幅広く活躍するマルチ資機材搬送車
専用コンテナを積み替えるパッケージ方式を採用
平成30年3月27日、座間市消防本部は資機材搬送車を更新配備した。同本部では特殊災害事案、水難事案、緊急消防援助隊(後方支援小隊)での対応車両として、出動態勢を万全にするため、消防車両の機能強化を図った同車両を『災害救助資機材搬送車』と分類している。
座間市消防本部は消火小隊を平成13年に1隊、救急小隊を平成18年に1隊、後方支援小隊を平成27年に1隊、計3隊を緊急消防援助隊に登録している。後方支援小隊の運用車両となる資機材搬送車には、被災地で必要になる物資や後方支援資機材、人員の搬送、宿営場所の設営、車両の維持管理、現地での物資調達などさまざまな任務がある。同本部は平成16年の新潟中越地震、平成23年の東日本大震災へ派遣出動した経験があり、それがこの車両に活かされている。
キャブと資機材庫がそれぞれ独立している旧車両は3名乗りで、緊急消防援助隊として派遣出動した時は、隊員が資機材庫で仮眠することもあった。人員の輸送の観点で支援車Ⅲ型を整備する選択肢も候補に挙がったが、維持管理が難しいという問題があった。機関員の免許も考慮すると、3tワイドベースとすることはすぐに決定した。
座間市内には一級河川の相模川が流れており、毎年1〜2件の出動がある。座間市消防本部は兼任隊の水難救助隊を持ち、20名の潜水士が日頃から訓練を重ねている。河川事故が多発する6月〜10月の期間、資機材搬送車には水難対応資機材を常時搭載して即応体制を整えることになる。旧車両では、荷室部分にゴムボートと潜水器具などを積載していた。これらは小さなコンテナに小分けにして収納していたが、雑多に収納していたので積み替え時に時間がかかり、積み残しなどに神経をとがらせていた。
そこで車両運用のバリエーションを増やすため、新車両では用途別にコンテナを載せ替える仕様とし、コンテナはNBC対応コンテナと水難対応コンテナに分類して積み替えるパッケージ方式を採用し、対応強化を図ることにした。
資機材搬送車といえども 多用途で活躍する車両
旧車両はシングルキャブ車両だったため、当然のことながら隊員は3名しか乗車できなかった。水難事案の出動時には機関員が潜水士としてウエットスーツに着替えることもあり、現着後にキャブから降りて資機材庫へ移動し、隙間で着替えるということが多かった。座間市消防本部では「海水パンツを常に履いていろ!」という言い伝えが残るほど、水難事案への迅速な対応には苦慮していた。
そこで車両内で隊員の動線を確保するために、キャブは資機材庫と一体型としウォークスルーに改造。後部の資機材庫にも対面で折りたたみ式の3座を確保し、乗車定員を5名とした。後部座席を折りたためば資機材搭載マックスモード、5名乗車の場合は人員を擁する標準モードと使い分けられる。法規上の制約で座席と荷室部分に手すりと扉を設け、乗員の安全を確保しなければならない。マックスモードの時、資機材の出し入れに手すりや扉が邪魔になってしまうので、コンテナは扉の幅を考慮したものを選定した。
キャブと荷台を一体化することで、前席と資機材庫の間を自由に移動できるので、迅速な対応が可能になり、水難災害や特殊災害時の初動体制を整えた。
日本初のゴムボート用手動昇降装置を開発
新車両のユニークな点は、6名乗りのゴムボートを車体上部に取り付けたアルミラックに常時搭載できることだ。このラックはスライド式で、少人数でも積み降ろしが可能な優れもの。消防車両とゴムボート用の手動昇降装置のマッチングは日本初のシステムだ。
通常、ルーフにゴムボートを積載する方法としては専用クレーンを装備するかリアドアの昇降装置をルーフ上端まで延長するなどがある。しかしそれでは車両重量が増し、コストもアップしてしまう。対策に苦慮して辿り着いたのが、このスライド式のラックだったのだ。
バスボートをルーフに積み下ろすスライド式のラックを知った担当者は、そのシステムを流用できないかと考えた。試行錯誤の末に完成した専用ラックは、100kg以上あるゴムボートを手動で積み降ろすことができる。エアーテントなどの重量物をルーフに積み込むこともできるので、緊急消防援助隊として被災地に派遣出動する時にも汎用性の高さを発揮するだろう。
救助工作車では人気のバス型だが、資機材搬送車のキャブ一体型は前例のないユニークな構造だ。少人数で様々な災害に対応しなければならない小規模消防本部ならではのオリジナル資機材搬送車に仕上がった。
車体
ウォークスルーキャブ
資機材庫乗車スペース
次のページ:
積載資機材を詳しく紹介!