救急小隊長の「よい救急隊とは何か?」

岩壁 州 Iwakabe Shu

Iwakabe Shu 茅ヶ崎市消防本部 警備第二課 海岸救急小隊長 消防司令補

Interview

救急小隊長の「よい救急隊とは何か?」

Jレスキュー2019年5月号
特集「—命の現場— 進化する救急隊」より

写真◎伊藤久巳

Twitter Facebook LINE
岩壁 州

岩壁 州いわかべ・しゅう

平成6年に拝命。本署の第一小隊に配属される。平成10年、松林救急小隊に異動以来、救急隊勤務。救急救命士の資格取得は平成18年。平成29年から海岸救急小隊に所属とともに小隊長になる。「海岸出張所は出動件数が特に多いところですが、みなさんからサポートをしていただいてがんばっています」

重症患者であっても軽症患者であっても、一件一件の救急事案を大事に活動する!

「よい救急隊とはなんだと思いますか?」

このたび24時間、密着した海岸救急小隊の小隊長、岩壁 州に、そう尋ねられた。

たとえば、清潔感があることか?

柔らかい話し方や接し方など接遇に優れていることか?

医療知識が豊富なことか?

迅速な行動だろうか?

適切な処置で症状が改善すればよい救急隊なのか?

さまざまな要素が思い浮かぶが、とても難しい質問だ。

「常に自問しています。わたしたちも傷病者のニーズに応えられる救急隊になりたいわけですし、感謝されればそれが活力になります。でも、ニーズはひとによって違うんですよね」(岩壁小隊長)

たとえば軽症なのに119番通報した人がいたとする。「こんなんで呼んじゃだめだよ」と思う人も、なかにはいるだろう。しかし、「軽症でもいいんですよ。なにかあったら呼んで下さい」というように、救急要請を肯定してくれる救急隊は、通報者にとってはよい救急隊になる。傷病者やその家族のニーズは多岐にわたる。そのニーズに応えるのが、その患者にとっての理想の救急隊なのだろう。

かつては救急隊へのニーズはほぼ、「早く病院へ運んでください」ということであった。しかし最近は、安心を求めて救急車を呼んだ、あるいはただ話を聞いてもらいたかったという事案が増えている。

「重症患者だったらもちろん私たちも早く搬送しますし、早い処置を施したうえで、病院で治療を受けてもらうようにします。しかし、倦怠感や脱力感、不安からの動悸などに苦しまれているひとり暮らしのおじいちゃんやおばあちゃんなど、ちょっと話を聞いてほしかったという傷病者の話を聞いてあげてしまったら、よい救急活動とはいえないのでしょうか?」(岩壁小隊長)

救急救命士をはじめとする医療従事者の言葉には重みがある。隊員たちが話を聞いてあげて、「だいじょうぶですよ」といえば、不安は少なからず解消するものだ。もちろんそういうことにつきあっていたら、管内の救急隊が一隊つぶれてしまう。本来救うべき重症患者を救えない、という意見もあるだろう。しかし不安を抱えた患者にとっては、救急隊が話をすることで安心感を与えてあげることがある意味、応急処置になっているのだ。

「だからわたしたち海岸救急小隊は、重症患者に適切な処置をして迅速に運ぶことのみがよい救急隊の条件ではないと考えています。救急隊の英語表記は『EMS』で、そのSは『サービス』の頭文字です。軽症の患者さんのニーズに応えるというサービスも、わたしたちの役目と考えて、重症患者であっても軽症患者であっても、一件一件の救急事案を大事に活動しています」(岩壁小隊長)

そんな岩壁小隊長に、現場で迅速に活動するために大切なことは何かと問うと、「コミュニケーションですね」と即答であった。

「救急の現場で隊員は、互いが同じ目標に向かいつつばらばらに活動して、その結果を集約しますが、隊員間のコミュニケーションをきちんとして情報を共有していないと、患者さんの不安を取り除くことは不可能です。また、狭あい路で車をぶつけてしまったり、患者さんに既に聞いたことをもう一度聞いてしまったり、といったことが発生することも懸念されます。そこでわたしは、当務中はできるだけ隊員に話しかけて、積極的にコミュニケーションをとるようにしています。そうすると、『あれ、今日ちょっと顔色が悪いな、疲れているんじゃないかな』など隊員の状態がすぐわかるようになります。またふつうなら小隊長にはなかなかいえないような悩みでも、いってきてくれるようになります。そうなれば互いに信頼し合えるし、現場でのよい活動につながるのです」

小隊長は43歳(取材当時)、最年少の吉川隊員は31歳と若い海岸救急小隊。訓練中は厳しく接するが、休憩時間にはみな子どもがいるので子育ての話などでコミュニケーションをとる。「狭い道を行くのもコミュニケーションがとれていないとぶつけてしまったりする。運転席からは見えないところを、誘導員の『あと何センチ!』というのを信頼してバックしたり曲がったりするわけで、コミュニケーションがとれていないとできないですね」(岩壁小隊長)

次のページ:
感謝の言葉をかみしめたい

Ranking ランキング