救助工作車Ⅱ型 山口市消防本部
山口市消防本部 中央消防署[山口県]
写真◎濱田陽守 文◎井谷麻矢可
「日本の消防車2018」掲載記事
驚異の小型化と高トルク化で手にした坂道走破性!
全長を5センチ短縮と高トルク化で得た取り回し性
管内の7割は山間部という山口市消防本部。救助活動は年間90件程度あり、その6〜7割が交通救助事案と交通事故の発生件数が多いのが特徴だ。この救助工作車Ⅱ型を運用する中央消防署特別救助隊は、1023.23㎢という広大な管内全域の救助事案をすべてカバーしなければならない。そのため、新車両は「1秒でも早く現着し、迅速に活動を終結できる工作車」をメインコンセプトに据えた。仕様の作成にあたっては、救急救助課1名、警防課1名、特別救助隊員3名(主に資機材選定を担当)の5名で検討委員会を立ち上げ、それぞれの立場から意見を出し合い、妥協のない車両づくりを行った。
完成した車両には、いたるところに活動迅速化のための工夫が凝らされている。
まずは出動〜現着までの迅速化の工夫から見ていこう。現場に一秒でも早く到着するためには、管内の地形に適したボディにする必要がある。山間部を抱える山口市は狭隘路や坂道が多いため、車体のコンパクト化が最優先の課題だった。だが、積載容量や隊員乗車室の快適さを考えればバス型が理想的。そこで、ベースとなるシャーシは5.5tタイプとし、その両側面に張り出すアウトリガの持ち手部分の位置を変えて全長を5cm短縮するなど、細部まで徹底的に短尺化を試みた。またエンジンはディファレンシャルギア比を4.333(高トルク型)とし、登坂時の馬力を確保。さらに坂道対策としてデパーチャーアングルを極限まで広く取りたかったため、先代車両のリアに段ボールを貼り付けて、どの程度まで削れるかの実験を繰り返した。その結果、バス型ながら全長7900mm、ホイルベース3950mmという驚異の小型化に成功した。
照明装置の電動化で隊員乗車室の床高を抑える
車体の小型化は狭隘路対策としては有効だが、そのぶん資機材積載キャパの減少は免れない。製作においてもっとも苦労したのは、このキャパの問題だった。
同車は交通救助活動への出動が多いため、左側面を一面交通救助系資機材に割き、交通救助に重点を置いた資機材選定を行った。さらに、高速道路上でのRA連携時の車両火災対応を考え、どうしてもオートハイドレックスを搭載したかった。そこで問題となったのが、オートハイドレックス用の水槽の搭載位置だ。通常、水槽はキャブと積載庫の間に120リットル程度を積載するが、バス型としたため、構造上積載する空間が確保できない。そこでメーカーと何度も協議を重ね、水槽容量を車両火災2件分に対応できる最小量の90リットルまで削り、左側面のキャブ直後位置に収めてこの問題を解決した。
また駆動系統はハイドレックス、クレーン、前ウインチを油圧駆動式、後部ウインチと照明装置をバッテリー直結式、と2系統に分散させている。照明装置をバッテリー駆動にすることで発電機を搭載する必要がなく、軽量化、スペースの確保が可能となり、そのぶんより効率的な資機材の積載が可能となった。
牽引力が変わらない最新ウインチ搭載
次に現場到着〜活動終了までの時間短縮の工夫を見てみよう。照明装置は、操作開始から全伸長まで15秒という速さに着目し、テクライト社製のものとした。照明はLED製(50W×8連)で、マイナス5度〜35度まで広角に照射できる。前部ウインチはロッツラー社製トライマチックウインチを採用。ワイヤーの長さに関わらず常時5tの牽引力を有し、その構造上キンクが発生せず、取り扱いがしやすい。後部は大橋機産製の電動式ウインチにすることで、万が一どちらかの系統にトラブルがあった場合でも柔軟に対応できるようにしている。
資機材の選定にもこだわった。大型油圧救助資機材や送排風機は、重量面や始動時間の短さなどを考慮してすべて電動式で統一した。以前は油圧式だったため、電動式のパワーが十分かどうかが懸念されたが、実際に使ってみて検証したところ、電動でもまったく問題はなかった。
さらに特徴的な装備としてルーフ上に画像伝送装置を設置している。これも活動の迅速化を意識したもので、車上から見える360度の映像をすぐさま本部通信指令課に伝送できる(48万画素・36倍ズーム)。本部が無線による音声情報に加えて映像による視覚情報もリアルタイムで確認できるため、大規模災害時等の作戦立案がスムーズに行える。この映像は本部通信指令課を介して、消防本部の災害対策室にも伝送可能だ。
車上
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機関員の動線に沿った配置