都市部を走るベテランに学ぶ機関員の心得01〈指揮隊の場合〉

野口邦雄

さいたま市浦和消防署 指揮隊(埼玉県大隊指揮隊) 消防司令

Interview

都市部を走るベテランに学ぶ機関員の心得01〈指揮隊の場合〉

【さいたま市消防局】

写真・文◎小貝哲夫
Jレスキュー2018年3月号掲載記事

Twitter Facebook LINE

さいたま市消防局浦和消防署が管轄する浦和区は、埼玉県庁が位置する旧浦和市中心市街地を含む人口密度がきわめて高い地域である。一日の利用者が約17万人の浦和駅と約10万人の北浦和駅を抱え、駅周辺の繁華街には大型商業施設が集まる一方、狭隘な路地も多く木造家屋が点在している。埼玉県庁のほかに地方裁判所、地方検察庁といった官公庁施設も多いことから、この地域に不慣れな歩行者も少なくない。

こうした市街地には、緊急走行を阻む危険要素が数多く存在する。交通量が多く渋滞する車両の陰からはいつ歩行者や自転車が飛び出してくるかわからないし、斜め横断や信号無視も後を絶たない。路上には駐停車車両、店が置いた看板、道路にまで張り出した簡易的なタープ、駐輪自転車など進路を妨害するものがたくさんある。埼玉県は自転車の保有台数が全国でもトップクラスであり、さいたま市は自動車に過度に依存しない交通体系をめざして『自転車のまちづくり』を推進しているため、多くの市民が通勤や通学に、日常的に自転車を利用している。

そのため、すべての消防車両の機関員は「だろう」運転の排除の励行を心がけている。相手はきっと止まってくれるだろう、という思い込みを排除するということだ。とくに、赤信号や見通しの悪い交差点では、一時停止と目視による確認を徹底している。また、繁華街でサイレンを吹鳴しながら走行していれば、走って見に来た子供が路上に飛び出してきたり、自転車が慌てるあまりに突然車道上で自転車を降りてしまうこともある。イヤホンをつけて自転車に乗っている若者も多く、サイレン音に気づかず飛び出すかもしれない。高齢のドライバーは視界が狭く聴覚も衰えることにより、緊急車両の接近に気がつかないこともある。さらに中高層建築物も多く、サイレン音が反響して、どの方向から走行してきているかを市民が把握しにくい環境もある。

さいたま市消防局の機関員教育は、機関員養成研修として運転技術、ポンプ運用など計100時間以上の訓練を実施した後、機関員認定審査を受験して認定される。機関員になれば、地域や道路事情の習得、災害活動時に対応できる能力、現場到着までの時間短縮など管轄地域の事情を熟知した先輩からの助言や支援を受けてスキルアップしていく。

冷静に対応できるよう、知識、予測力、判断力を鍛錬する

さいたま市消防局の指揮隊は1隊3名。最高指揮者と指揮係で編成されている。指揮隊は通信機器などの装備をすべて装着した状態で運転するため、機関員はそれらがハンドル操作の支障にならないような工夫とそれに伴ったドライビングポジションをとらなければならない。

指揮隊は現場に向かう走行中、出場経路を選び、少ない指令情報(災害場所、気象情報、119番入電内容)からポンプ隊や救助隊の障害にならず、指揮活動に最適な部署位置を割り出し、災害状況を予測し、適切な部隊管理を推考し、活動資機材を選定するなど複数のタスクを一度に実行しなければならないが、それらに意識が集中して運転中の安全確認がおろそかになってはならない。さらに最高指揮者を乗せて災害現場へ向かっているというプレッシャーもあるので、指揮隊機関員はこのプレッシャーに負けない強い使命感を持ち、常に冷静に最良の運転を行わなければならない。そのためには、日頃からどんな状況下であっても冷静に対応することができる知識、予測力、判断力を養っておく必要がある。

曲がるときは目視により前方と後方の安全確認を行う。
報道等メディアツールから入手した交通事故情報を活用する 

緊急走行のスキルアップおよび事故防止対策については、メディアツールより知り得た交通事故情報を活用し事例研究等を行っている。特に緊急車両が関係した事故については、事故事例の検討を速やかに行い機関員同士が注意事項および安全対策を共通認識として共有し、類似する交通事故の発生防止対策を実施している。

仕事以外に運転できる環境を持つこと

機関員たるもの、仕事以外に運転できる環境を持つことは必要だ。日常的に管轄内を運転していれば、道路の状態や危険箇所、混雑する時間帯など道路事情に精通する。そうすれば緊急走行時にも精神的なゆとりができ、安全かつ迅速に現場に到着することが可能となる。

ハンドル操作の邪魔にならないようなポジションといっても、後方にシートをスライドし過ぎるとアクセルワークとブレーキングに支障をきたすので注意。
指揮隊は複数の無線機を装着する。
消防司令 野口邦雄

消防司令 野口邦雄さいたま市浦和消防署 指揮隊(埼玉県大隊指揮隊)

機関員歴25年。あらゆる消防車両の機関員を務めた経験あり。

【さいたま市消防局】
写真・文◎小貝哲夫 Jレスキュー2018年3月号掲載記事

Ranking ランキング