救助工作車Ⅱ型 網走地区消防組合消防本部
網走地区消防組合消防本部 網走消防署[北海道]
写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2018年1月号掲載記事
8tシャーシで広がる救助活動の幅
道内62本部にアンケートを実施
網走地区消防組合消防本部では平成29年3月、網走消防署に配備する救助工作車Ⅱ型を19年ぶりに更新した。網走消防署では平成26年12月から救助工作車整備計画案策定委員会を設置。約2年にわたって従前車両の改善点の洗い出しと艤装案の作成を実施した。
今回の更新にあたり、網走消防署では道内の62消防本部すべてにアンケート調査を実施するという壮大な計画に打って出た(実施が消防本部ではなく署なのは、市が更新予算を支弁するため)。配備しているすべての救助工作車について、シャーシのトン数や駆動方式、タイヤはスパイク加工かスタッドレスか、救助器具は油圧か電動かなど、10項目以上におよぶアンケートだ。
これと並行して、道内の他消防本部に資機材の使用感や収納状況を直接聞くために出向し、参考にした。これらの結果を踏まえ慎重に検討し、行きついた結果が、この更新車両に大きく反映されることになった。
8t級シャーシは雪道を走れるか?
先代の救助工作車では冬季の氷雪を考慮してデフロック付の4WDを選択したため、5.5t級シャーシがベースだった。しかし駆動システムに起因するエンジンの力不足により、坂の多い市街中心部では乗用車に追い越されるほどスピードが出ないことがやや難点になっていた。また積載すべき救助資機材は年々増えており、いかに積載スペースを確保するかも大きな課題であった。
そのため今回の車両では、シャーシに日野プロフィア8t級2WDを採用した。これはアンケートの結果、5.5t級4WDシャーシとともに、8t級2WDシャーシが道内の救助工作車の大半を占めていることが決め手となった。
事実、網走消防でもポンプ車などの第一線車はほとんどがAWDではなく後輪駆動である。「氷雪路では『後輪駆動だから滑る、AWDだから滑らない』という法則は一切成り立たない」という。要は無理をしなければどちらでも滑らないということだが、機関員が寒冷地での運転に慣れているからこその言葉でもある。ただし、氷雪路での安定した走行のためにリミテッドスリップデフ(LSD)を装備する。
網走消防署が実施したアンケート内容
・救助工作車を導入しているか、タンク車で救助事案に対応しているか
・救助工作車のシャーシのトン数と駆動方式
・大型油圧救助器具について(導入メーカーとその理由、使い心地の感想)
・小型コードレス充電式救助器具について
・救助用簡易起重機等の導入状況について
・救助用支柱器具の導入状況について
・艤装の資機材収納について
・タイヤについて(スパイク加工かスタッドレスかなど)
側面
多重衝突事故に備え新装備を追加
8t級シャーシとなると、資機材の収納には余裕が生まれるため、積載資機材についても検討が重ねられた。
北海道ならではの事案として、冬季に頻発するホワイトアウト(猛吹雪で一寸先も見えなくなってしまう現象)に起因する多重衝突事故の交通救助事案がある。同一現場で複数の事故車両から同時に要救助者を救出しなければならないため、通常の大型油圧救助器具一式だけでは不足することがあった。
そこで大型油圧救助器具にあわせ、充電式救助資機材も積載した。2セットの救助器具を積載することで、多重衝突事故に伴う交通救助事案でも活動効率は飛躍的に向上する。また、これら充電式救助資機材を使用した長時間の活動に備え、24V電源による1000W容量のDC/ACインバーター装置を搭載し、部署時や走行中を含めいついかなる場合でも資機材のバッテリー充電ができるようにした。また、PTO発電機は騒音を抑えた最新の低回転型で、回転数900rpmで7.5kVAという高出力が可能になっている。充電式救助資機材の選定にあたっては、アンケート結果も参考にされた。
さらに、事故車両が複雑に絡むとフロントウインチを適切な方向に向けられないことがある。このため、リアウインチも今回新たに装備している。
リア
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