ココまで活用できる!消防ドローンのポテンシャル Case02:佐野市消防本部①

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ココまで活用できる!消防ドローンのポテンシャル Case02:佐野市消防本部①

総務省消防庁によると、全国の消防本部がドローンを導入した割合は59.3%となった(令和4年4月現在、429消防本部が導入済)。連載2回目の今回は、令和5年12月20日からドローンの運用を開始した栃木県の佐野市消防本部の事例を取り上げる。導入経緯や課題、今後の展望などを国内ドローンメーカー「VFR」の代表取締役社長・蓬田和平氏との対談で紹介する。

写真◎幡原裕治
文◎榎本洋
Jレスキュー2024年5月号掲載記事

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case02 佐野市消防本部

これからの消防にドローンは必要不可欠

蓬田和平氏(以下、敬称略) まず、ドローンの導入経緯についてお聞かせください。

佐野市消防本部・岡保宏(以下、敬称略) ドローンの有効性に関しては、かなり以前から認識していました。プライベートなつながりで、先進本部のドローン訓練などを視察して、実際に肌感覚として「これは使えるな」という印象を持っていました。ただ、負のイメージもありました。それは「飛行するということは墜落することもある」という点です。どうしてもリスクを考えてしまっていました。それでも直接的に導入のきっかけとなったのは、2019年(令和元年)の東日本台風による被害や、それ以前にも発生していた突風被害などにおいて、防災ヘリを要請して撮影した写真だと、高度が高すぎて被害状況がよく分からないといった課題があったためです。東日本台風では、決壊した河川の水位が数日後に下がり、水没した車が発見されたことがあります。これを発見したのが民間のドローン機でした。

蓬田 なるほど。そのような体験の積み重ねから、導入の気運が高まったと。

 そうですね。そのときから、防災ヘリとドローンをうまく使い分けるということが、これからの消防にとって、もはや必要不可欠だと強く思いました。さらに総務省消防庁消防・救急課において、令和4年度からドローンの機体等(他必要機材含む)が緊急防災・減災事業債の対象になったこともあり、今回の導入につながりました。

蓬田 2023年12月20日より運用を開始されたということで、現在約2カ月が経過した段階(取材時)での、課題や苦労をお聞かせください。

 まず、ドローンの操縦スキルの維持・向上が挙げられます。全国のドローンを運用している消防本部の大半がそうだと思いますが、ドローンの専任隊を持っているところはほとんどないと思います。私たちの場合も、ドローン導入の主管は警防課でして、通常の業務をしながら、ドローン操縦のスキルの維持・向上をしていくことが課題になっています。

蓬田 操縦士の方々は全員、二等無人航空機操縦士の国家資格を取得しているとうかがっているのですが、操縦士全員が民間資格ではなく国家資格を保有しているのは、全国の消防本部でも、まだ珍しいとも思います。それはどういうお考えからですか。

 令和4年からドローン免許の国家資格化が始まったということで、私たちは導入のタイミング的にも国家資格を前提として考えました。現在免許所得者は導入主管の警防課に3名います。ただ、3名だけでは運用上から常時対応は厳しいと考えているため、他に総務課に1名、予防課に2名、佐野消防で合計6名の操縦士がいます。二等無人航空機操縦士の資格と第二種機体認証を受けたドローンであれば、人口集中地区の上空であっても許可なく飛行できるといった利点がありますが、私の考えでは、たとえば災害救助用の重機といったものも運転には資格が必要となるように、ドローンも重機のような資機材と同じように捉えています。ですから、国家資格化がなにか障壁になるといったような印象は持っていません。

指揮支援隊とドローン
佐野市消防本部のドローン運用職員が着用する専用のベスト。背中には「佐野消防」と「指揮支援」の文字が大きく入れられている。

いきなりハイスペック機を導入した理由

蓬田 機体についてですが、現在はDJI社の「Matrice 350 RTK」を1機運用ということで、これは機体のサイズが決して小さいものではなく、運用開始から本格的なものを使用しているということに驚いたのですが、それはどんな理由からですか。

 たしかにサイズ的にも資格取得時に使用していた小型のものと比較すると、取り回しの操作性も要求される技術が高く、苦労しています(笑)。なぜ、そんな機種を選定したかというと、ひとつは当本部の管轄面積は約350キロ平方メートルで、その約6割となる北部エリアが山岳地域であるためです。林野火災が発生する可能性のほか、土砂災害警戒区域が多数あります。この地域には人家も多く、住民の高齢化が進んでいます。つまり、災害時に孤立する可能性があります。そこで、ドローンに指向性スピーカーを取り付けられるようにし避難の呼びかけの実施、赤外線カメラなどを使用しての取り残された住民の捜索、投下装置によるトランシーバーや食料などの供与なども視野にいれていました。これらを可能にするために小型機ではなく中型機を採用しました。

蓬田 運用当初から、非常にハイスペックな展開ですよね。通常は、小型のドローンを導入して空撮から始めるケースが多いと思うのですが、お話を聞いて正直、驚いています。

佐野市消防本部・奥山博行 昨年末のドローン導入ということで、他の消防組織と比較して、それほど早期の導入とは言えないと思っています。しかし、ドローンの導入は話題性が高く、ニュースなどで取り上げられることも多い。市民の方々も知識のある方も多く「ドローンでこれができるのでは」といった具体的な声もあります。そのようなニーズにも応えたい。ですから海外のドローン関連のサイトの最新知見なども多数閲覧して、翻訳ソフトを使用して、マニュアルの作成や要領化を進めました。使用機材が納品されたのが9月下旬で、そこから運用開始までマニュアルに基づく訓練を徹底して実施しました。私たちとしては国家資格を保有しているだけでは操縦技術が不十分だと考えており、運用開始まで実災害での運用を想定した技術の習熟を図りました。

当初からハイスペックなドローンの運用を開始した佐野市消防本部。次号で引き続き、今後の展開予定やドローン運用に関する課題を掘り下げる。

Zenmuse H20シリーズ
Matrice 350 RTKが装備するカメラ「Zenmuse H20シリーズ」。ズームカメラと広角カメラ、サーマルカメラ、レーザー距離計の4つのセンサーシステムを備える。

【佐野市消防本部ドローン導入概要】
■運用開始:令和5年12月20日
■導入機数:1機
■導入機種:DJI社製「Matrice 350 RTK」
■オプション装備:指向性スピーカー/物品投下装置
■操縦士数:6名(警防課3名、総務課1名、予防課2名)
 ※全員が二等無人航空機操縦士免許を取得

【佐野市消防本部概要】
■管轄面積:356.04㎢
■職員定数:157人
■消防署数:2署
■分署数:1署

奥山博行
 佐野市消防本部
 警防課
 消防司令補
 奥山博行
岡保宏
 佐野市消防本部
 警防課
 消防司令
 岡保宏

VFR社・蓬田社長が答える!
消防ドローン導入時のポイント

VFR社・蓬田社長

蓬田和平

(よもぎた・かずたか)
三井住友銀行、マッキャンエリクソン、リクルートを経て、IoTデバイス開発メーカーにCOOとして参画。その後、2020年にDRONE FUNDに参画し、3号ファンドの新規投資をリード。2023年2月にVFR株式会社代表取締役社長に就任。
①導入前の情報収集は綿密に

導入前の情報収集としては、消防組織以外も含めた各種団体のドローン関連イベントに積極的に参加することもひとつの方法。複数名で参加し、所感等の意見交換を活発に行うことで、ドローン運用のイメージがより具体化する。

②ドローン操縦の国家資格保有を前提に

令和4年からドローン免許の国家資格化が開始されたことを踏まえて、今後は二等無人航空機操縦士等の取得を前提に運用を考えるべき。国家資格の取得は、今後のドローン機体認証等、空域行政への対応力の証としての意義も持つ。

➂ハイスペックな運用を行うことは必須

当初からハイスペックな運用を行うのは必須ではないが、将来的にどのようなドローン運用を目指すかのロードマップの骨子は必要だ。運用開始後の経験・知見を踏まえて、ロードマップを詳細化・更新していけば良い。

総務省消防庁によると、全国の消防本部がドローンを導入した割合は59.3%となった(令和4年4月現在、429消防本部が導入済)。連載2回目の今回は、令和5年12月20日からドローンの運用を開始した栃木県の佐野市消防本部の事例を取り上げる。導入経緯や課題、今後の展望などを国内ドローンメーカー「VFR」の代表取締役社長・蓬田和平氏との対談で紹介する。
写真◎幡原裕治 文◎榎本洋 Jレスキュー2024年5月号掲載記事

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