大型高所放水車 金沢市消防局<br>Σ型25m屈折はしご付消防ポンプ自動車(大型高所放水車仕様)

日本の消防車両

大型高所放水車 金沢市消防局
Σ型25m屈折はしご付消防ポンプ自動車(大型高所放水車仕様)

金沢市消防局 駅西消防署(石川県)

写真・文◎橋本政靖
日本の消防車2018年掲載記事

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最長26mから泡で叩く!
全伸梯で大量放水可能なΣ型の屈折式はしご車

国の規格ではコンビナート火災は闘えない

金沢市消防局が平成29年3月、Σ型という大型高所放水車としての運用は珍しいタイプの車両を更新配備した。

金沢市といえば、観光地としてのイメージが強いが、実は金沢港地区に石油コンビナート等特別防災区域を有している。第1種事業者4社、第2種事業者4社、その他の事業者4社の合計12社存在する。一般的に石油コンビナート等特別防災区域における公設消防では、三点セット(大型高所放水車、大化Ⅰ型大型化学消防ポンプ自動車、泡原液搬送車)を1セット有し、自衛消防の三点セットと合わせて2セットで火災時の対応を想定している。しかし、これは法律上で備えなければならない最低限の装備であり、実際に石油コンビナート災害が発生するとこれのみでは到底対応することができない。そのため、金沢市消防局では三点セットを1組保有するのに加え、それらの補完としてさらに化Ⅲ型化学消防ポンプ自動車および普通高所放水車からなるいわゆる準二点セットを2組も保有し、コンビナート災害対応の充実化を図っている。

このうちの大型高所放水車は、石油コンビナート地域のタンク火災などにおいて22m以上の高所から泡混合液を毎分3000リットル以上放射する能力を有する車両でなければならない。

大型高所放水車 金沢市消防局
コンパクトであるが様々な機能を有するマルチな大型高所放水車である。
唯一の全伸梯大量放水

今回、金沢市消防局に配備された新車両の特徴は、コンビナート等特別防災区域用の機能ばかりではなく、大規模工場、倉庫、密集地における高所放水車として、中高層建物における救助機能、高架道路上への送水機能、高所からの映像伝送機能など様々な機能を有しており、マルチな車両となっている点である。

最初に一番重要な大型高所放水車としての性能について紹介する。石油コンビナート災害が発生した場合、同車が直近部署し、大化Ⅰ型大型化学消防ポンプ自動車がコンビナート専用消火栓に水利部署して泡原液混合を行い、同車に大量送水して火点に向けて大量泡放射を行う。そして泡原液搬送車が泡原液貯蔵施設から泡原液のピストン輸送と、大型化学車への補給を行う体制である。

金沢消防ではこれに補完として特Ⅲ型化学消防ポンプ自動車と普通高所放水車の準二点セットも2セット保有しており、同様の泡放射を行う体制を採っている。

ポンプ装置はA-1級のV3000型2段バランスタービンポンプを搭載している。塔への送水は、ポンプ部から専用配管を通って旋回部継手、伸縮水管、バスケットまで接続されている。バスケットには3000型電動式リモコン放水銃が設けられており、毎分3100リットル、最大射程70mの能力を有しており、石油タンク等に向けて大量の泡や水放射を行うことが可能である。大型高所放水車は規格としては22m以上であるが、タンク火災以外に工場火災や高層建物火災などにも対応するためにより高く、さらにはさまざまな姿勢で大量放水できることが望ましい。今回の更新で導入したΣ型屈折はしご式は、大型高所放水車としては唯一全伸梯状態で放水でき、約26mから放水するのはもちろんのこと、全姿勢範囲における大量放水が可能となっているため、火災防御が有効に行える。

このほか、バスケット部には屋内進入用送水口として65mm町野雄がバスケット外に1口、バスケット内に1口の計2口設けられており、高所への大量送水が可能となっている。これは、管内には北陸自動車道、国道8号線および北陸新幹線を有しており、この高架部分で発生した火災において地上から上部への大量送水が必要となる場合にも有効な装備である。また、バスケット内部には短尺ホースとガンタイプノズルが設けられており、前述のバスケット内吐水口に接続することでバスケットからの放水活動も可能となっている。

外観
大型高所放水車 金沢市消防局
ベースは大型の8t級シャーシ。このクラスのシャーシは四輪駆動の検定シャーシが存在しないため、二輪駆動シャーシを選択。悪路の走破性を少しでも向上させるためにLSD付としている。
大型高所放水車 金沢市消防局
梯体は3折3段伸縮のΣ型の特殊なリンク機構を有しており、最大地上高は25.5m。8階程度までの対応が可能。
大型高所放水車 金沢市消防局
バスケットは折り畳み式となっており、車両高は3.58mと25m屈折はしご付消防自動車としても最低レベルの高さとなっている。また、赤色警光灯は名古屋電機工業製のLED式とし、発光パターンが各種車両動作で連動する機能を有している。
大型高所放水車 金沢市消防局
リンクブーム後端に夜間作業用の塔後部確認用LED照明を設置。下部扉内には塔送水専用の中継受水口があり、ターンテーブル内部を通り梯体の自在・伸縮水管を経てバスケットまで配管されている。
大型高所放水車 金沢市消防局
アウトリガ張り出しはほとんどないために狭隘な場所においても部署が可能である。
Σ型ならではの6特性

同車が配備されている駅西消防署は金沢駅西側を管轄しており、中高層建物も多く立地していることから高所放水機能以外に救助機能も必要であった。そのため、車両製作にあたっては、バスケット付であるΣ型屈折はしご機能をベースとした。高所放水以外に高所等からの救助活動も可能となっている。このメインとなる梯体は3折・3段伸縮(ストローク10m)のΣ型の特殊なリンク機構を有している。このΣ型は様々な特徴を有している。

①アウトリガ張出幅が小さい

まず、1つ目がこのアウトリガ張出幅が非常に小さいことが挙げられる。この張出幅は3.55m、つまりジャッキ先端の石突を含めても車両幅2.50mの車体からは片側数十㎝程度しか張リ出さない。これはキャブのドアが開いて隊員の乗降がでるだけのスペース程度なのだ。一般のはしご車は最大約1.5mのアウトリガ張出幅が必要であるが、本車両の場合はわずか数十センチメートルが最大張出で、これで全範囲の使用が可能なのである。一般に作業半径は旋回中心から梯体先端までの距離を示しているが、実際に車両横方向に伸梯する場合にはアウトリガのジャッキ先端から梯体先端までの長さを取れることが重要になってくる。同車のようにアウトリガの張出幅が非常に小さいということは、架梯対象物に車体を近づけられる可能性が高く、アウトリガ張出量を差し引いた分だけ作業半径を大きくとれるということなのだ。

また、ジャッキ矯正方式を採用しており、アウトリガ・ジャッキを設定した時点で傾斜矯正が完了し、迅速な活動開始が可能である。

②作業半径が広い

2つ目の特徴は、リンク機構の上に伸縮機構を有する上塔がある特殊なリンク機構を有しており、作業範囲が広い点である。一般的に狭隘路で建物に対して架梯する場合、基台部からバスケットまでの直線方向に電線等の障害物がある場合が多い。同車は上塔が旋回中心よりバック側にオフセットした部分に支点を有している上、最大地上高は旋回中心から約5m(アウトリガ先端から約3mの位置にあるため、建物に接近した状態での最大伸長が可能となる。さらに最大作業半径16mを有しており様々な方向への伸梯が可能である。そのため、一般の直進式はしご車では不可能な高所での水平伸梯が可能である。梯体は屈折・伸縮を併用した特殊リンク構造となっており、この下部リンクを上昇させることで、地上高約9mの位置から真横へ約16mの水平伸梯が可能である。これはたとえば電線等を回避したり、張り出した低層階越しの伸梯をすることができる。このほか、住宅密集地などのブロック内火災の場合では、道路に近接した建物上を水平伸梯して炎上建物への俯瞰注水が可能となる。

もうひとつの特徴として、バスケット首振り機構がある。これは、梯体に対してバスケットを左右45度に首振りが可能である。たとえば、建物に対して斜め方向に伸梯した場合には、建物面とバスケットが斜めに正対することとなり、ベランダ等への進入時にはバスケットと建物間に隙間ができるために、進入が非常に困難となる。この時、バスケットが首振りすることでバスケットと平行に正対し、迅速な進入、安全確実な救助や放水が可能となる。

③全姿勢が作業範囲

3つ目はΣ型の特徴として機構上すべてが作業範囲かつ放水可能範囲であることがあげられる。一般的に直進式のはしご車は起梯角度が小さい場合や伸梯長が長い場合には、作業半径に応じて伸梯長や放水が制限される。これに対してΣ型屈折はしご付消防自動車は機構上動作する範囲はすべて作業範囲となるために使用範囲が広い特徴を有している。また、その作業範囲のすべてにおいて放水が可能となっている。

④風に強い

4つ目は耐風速が高い点である。一般的に、はしご付消防自動車の耐風速は10mとなっている。これ以上の強風下では伸梯が難しく、やむなく行う場合には控え綱を使用しながら慎重に行うことが求められる。とくに沿岸部などは年間を通して風が強い地域があり使用できない場合も多いが、本車両の耐風速は16mと大きく、よほどの強風下でない限りは作業が可能となっている。

⑤収納状態でバスケット搭乗可能

5つ目は収納状態でバスケット搭乗が可能な点である。一般のはしご車や屈折はしご車は、収納時にはバスケットが収納状態または梯体があるためにそのままでは隊員の搭乗ができず、バスケット展開後または梯体起立後に乗り込むこととなる。これに対してΣ型の場合は、収納時もバスケットに乗り込める形状なので、アウトリガ設定後直ちに隊員が乗り込むことができ、迅速な活動が可能となる。

⑥梯体が後方に張り出さない

最後に梯体の後方張り出しがほとんどないことである。従来の屈折梯子車は梯体構造が「く」の字であるために、伸梯時に梯体の伸梯方向と反対側の後方に梯体が張出すことは避けられず、架梯不能なことも多かった。下部のリンク機構の形状が後方へ張出さない構造となっているために、スペースが限られた現場でも架梯可能な範囲が広がることとなる。

このマルチな機能を有する車両が配備されたことでさまざまな活動が可能となり、より金沢市消防局の災害対応能力が向上したといえる。

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