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鳴り続ける119!
大規模災害時に通報の緊急度をトリアージ
―呉市消防局―
―呉市消防局の通信指令システム─
写真◎呉市消防局
Jレスキュー2020年9月号掲載記事
大規模災害時の119番通報
平成30年(2018年)7月豪雨災害で甚大な被害が発生した広島県。この災害では呉市だけで25名が死亡した。当然のことながら呉市消防局の通信指令センターには救急救助を要請する119番通報が殺到した。7月6日の通信指令室は朝から通報が鳴りやまず、1時間で最大211件、通常の118倍にもなる通報が消防に寄せられた。
通常モードの消防局ならば、指令が入った順に隊を出動させるが、大規模災害時に同じように指令を行えば部隊と車両はすぐに枯渇し、対応できない事案件数が瞬く間に膨れ上がってしまう。加えて、緊急度の高い事案に対応できないリスクを抱えてしまう。実際に、無数の受診票の中から緊急度の高い事案を見落とすことなく選定するのは極めて困難なことである。
こうした教訓を踏まえ、また同じように大規模災害を経験した消防本部との情報共有により通信指令システムに、「事案トリアージ」機能をプログラミングすることが可能であることを知った消防局は、令和元年度末に更新した通信指令システムにこの機能を盛り込むことにした。
事案トリアージとは
「事案トリアージ」とは、大規模災害時に殺到する緊急通報を、通報内容に応じて緊急度別にトリアージし、即指令することなく事案を保留させる機能である。保留事案は緊急度別にデータ管理され、指令統制員(当日の指令員の責任者)が業務用パソコンモニタで確認し、最も緊急度が高い事案に対して車両を指定した上で出動指定を指示する。
大規模な自然災害が発生すると、指令員が指令システムの設定を【通常モード】から【大規模モード】に変更することで、指令をせず保留するモードに移行する。緊急度は最大で5段階に分類可能だが、呉市では迅速に迷うことなく緊急度を選択できるよう3段階【高・中・低】での運用としている。
さらに受信した事案ごとのメモもすばやく行えるよう、「下敷き・生き埋め」、「火災 要救有・炎上」、「CPA」などの定型文を緊急度ごとに7パターンが設定可能で、その内容はいつでも編集可能なため、事前に重要キーワードを用語として登録しておける。また保留事案と出動事案は緊急度別に表示可能なため、緊急度ごとに何件出動させて何件保留しているかが一目で即座に確認できる。保留事案は地図画面上にシンボル表示(緊急度別)され、どの地域に多く保留事案が集中しているかを直感的に確認することができるのだ。なお、保留事案は場所・災害種別・保留メモ【定型文や自由入力文字】を業務用パソコンで確認可能なため、これを確認するために指令台を占有することもない。
災害想定訓練でも活用
呉市消防局では、令和2年6月に指令センターを活用しての事案トリアージ想定訓練を2回実施した。緊急度の判断は通報を受け付けた職員が行い、指令統制員が確認し、必要に応じて修正した。同消防局では、事案の内容により適切な緊急度の判断ができるよう訓練を継続し、また必要に応じて定型文の内容も見直しを行っていく予定である。
緊急度別の定型文画面
下に7種の定型文が用意されており、それらを選択してすばやく事案を振り分ける。
緊急度「高」の登録画面
緊急度「中」の登録画面
緊急度「低」の登録画面
藤本敏矢呉市消防局 警防課指令第2係
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